勇者の息子は従魔と神託騎士になる~FPSとMMORPG能力で自由気ままに人助けをします~

暇人太一

文字の大きさ
8 / 30
第一章 神託騎士への転生

第八話 晩飯のために狩りをする

しおりを挟む
「ボロ……」

 教会を目にした瞬間に思わず出た言葉だ。

 歴史的な建物で荘厳な雰囲気を醸し出しているような佇まいではなく、お化け屋敷と言われた方が納得できる建物である。

「ここで寝るのか……?」

「寝ないよ。人がいれば、どの国に行くのがいいか教えてくれると思ったんだけどね。教会関係者なら差別しないって言ってたし」

 多分とか、はずとかって言ってたから、どこまで信じていいか分からないけど。

「そ、そうだよな! こんなところで寝ないよな!」

 ティエラとカグヤもホッとしていたから、全員が同じ気持ちだったんだろう。

 こんなところで寝起きしたくないと。

 屋根がなかったり壁の一部が崩壊していたりと、崩落が怖くて寝れないという理由もある。
 それに加え、お化け屋敷の雰囲気を醸し出している建物に誰が寝たいと言うのだろうか。

「人もいないし町を出ようか」

「そうしよう!」

「でもどこに行くか決めてないんでしょ?」

 ドラドは飛び出して行きそうなほど喜び、早く行こうと引っ張って来る。
 ティエラが止めているおかげで、俺はドラドに引きずられずに済んでいた。

「東か南で迷っていたけど、この教会を見て南に行くことに決めた」

「何でーー?」

「東は宗教国家だと思う。教会の壁に掛けられている規則みたいな物に、『東の方角を見て祈ること』って書いてあるからね。総本山がある方向ってことでしょ? でもこの状態の教会を放置しているってことは、あまりいい組織ではないと思うんだよね。だから南に行く」

 カグヤのサラサラの髪を撫でつつ説明する。もちろん、グローブを外して撫でている。
 もう昼過ぎなのだが、食事を取っていないからおやつ休憩を取っているのだ。本来は町で買い食いする予定だったんだけどね。

「ドラドは晩ご飯に何を作ってくれるの?」

「もう晩飯か? うーん……。肉はないし野菜もないな。採取しないと保存食を戻すだけになるぞ!」

「「「えぇーーー!」」」

 昨晩のご飯を知っているだけに、保存食を食べるというのは厳しいものがある。

「……狩りに行こう!」

「「「賛成ーーー!」」」

 ドラドは単純に狩りを楽しみにしているだろうが、俺たちは死活問題だから必死だ。
 絶対に保存食を回避して、ドラドの手料理を食べる。これは決定事項だ。

 教会の裏手にある壁も半分ほど崩れており、越えるのにちょうどよかった。
 急いでいることもあって当たり前のように利用させてもらい、そのまま東側の森の中に入って行く。

 狙う獲物は鳥。

 ドラド曰く、昨晩のお肉は猪らしい。ゆえに、今日は鳥肉を希望する。

「ドラド、スラッグ弾はやめようね!」

「分かってる!」

 弾薬用共有ポーチをガサゴソとまさぐっているドラドを見て、一抹の不安がよぎる。
 だが、料理長の機嫌を損ねたくないから何も言わない。全ては美味しい料理を食べるために。

「そういえば、さっきのパー・プー一家はティエラたちのことに気づいていなかったけど、何かしてたの?」

「わたしは補助系の魔法が得意なんだけど、認識されないようにする魔法を使ったのよ。言葉を発したり触られたりしなければ気づかれない魔法よ!」

「すごいじゃん! カグヤと組んだら最強だな!」

「そ、そうかしら?」

「ティエラ頑張ろうね!」

「えぇ!」

 魔法と銃の合わせ技って無敵だな。ギリースーツがいらないんじゃないかと思える能力だ。
 気づかれた時には相手は死んでいるんだから、至近距離にいても気づかれない魔法の方が遥かに優秀だと確信する。

 それとモフモフと幼女の組み合わせも無敵だな。可愛すぎる!

 ――ってドラドはどこに行った!?

 マップでドラドを探す。川の近くにいることが分かり、急いでドラドのいるところに向かった。

 ――ダンッ! バシャッ!

 と聞こえ、何か嫌な予感がした。

「ドラドーー! 今度は何をしたんだ!?」

「ん? 鳥を獲っているんだぞ! ついでに魚もだ!」

 目の前には浴槽ほどの穴と、その水面を覆う魚の死体らしき物体。
 ドラドは魔法で穴を掘り、川から水を引いて水槽を作ったのだ。そこにエサを放り込み、魚が食いついたところで川から切り離す。
 少し待って魚を狙った鳥が近づいたところで、テーザー弾を撃ったらしいが、鳥には逃げられてしまったそうだ。

 教えたヤツ誰だよ!

「主が雷魔法で魚を獲っていたからな!」

「やっぱりか!」

「それをおれが料理してあげてたんだぞ!」

 そういえば養母さんは料理が得意ではなかったな。そのくせアレンジをしたがる困った性を持っていた。

 ……養父さんに押しつけて逃げてたけど。

「楽しみにしてるね!」

 ――ズダンッ!

 という発砲音が聞こえ、俺とドラドは思わずビクッとしてしまった。

「これは……カグヤ?」

 バレットM82A1の発砲音が響き、カグヤの元に行こうとすると上空から何か落下してきた。

「デ……デカいぞ!」

「ドラド……、アレ何?」

「うーん……ワイバーンだな! 美味いんだぞ!」

「……そうか。アレがリアルなワイバーンか……」

 遠くの方に大きめの白い光点があったけど、ドラドが発砲しても赤くならなかったから放置していた。
 それがワイバーンで、カグヤが撃ち落としたのだろう。首の一部がえぐれていたから、ほぼ間違いない。

 それにしても、自動照準機能の補助があったとしても、飛んでいるワイバーンを一撃で落とすとは……。

 カグヤは狙撃の天才ではなかろうか!

 できれば近くで見たかった。ついでに神スマホで撮影したかった。せっかくカメラ機能があるんだから。

 魚の処理が終わったドラドと一緒にカグヤの元に行くと、カグヤとティエラはワイバーンを見上げていた。

「どうしたの?」

「……引っかかったの」

「あぁ……」

 プテラノドンみたいなワイバーンの両腕は大きく広げられ、地に落ちることを拒否するかのごとく木々に支えられている。

「なんか……ワイバーンのテントみたいだな」

「ドラド……俺も思った。でも首から血が垂れてるテントは嫌だな……」

「血抜きにちょうどよかったと思おう! それより、ティエラとカグヤは大物を獲ったな! おれは魚だけだぞ!」

「わたしは何もしてないわ」

「ティエラは姿を隠してくれたじゃん!」

 ……ヤバい。何も獲っていないのは俺だけだ。

 ワイバーンからは肉が採れ、魚も大量にあるなら野菜を用意する必要がある。
 しかしこちらの世界の野菜は全く知らない。

 ……この状況はアレを使えということか? いや、きっとそうだ! そうに違いない!

「それで、ディエスは?」

 ――来たぁぁぁぁーー!

「俺は野菜と調味料を提供する!」

「……何も獲ってないんだな?」

「違うぞ! 先を読んで、あえて獲らなかったんだ!」

「いいんだぞ? 無理しなくていいんだ! ここの野菜のことを知らないのに、どうやって野菜を用意するんだ!?」

「……誰もここの野菜とは言っていない」

「……なるほどな。採らずに持ってくるってことだな! 海に行くのか!?」

 クルーザーに乗れると思っているだろうドラドには悪いが、今回は神クルーザーではなく神コテージだ。

 ワイバーンを処理したら拓けた場所にコテージを出そうと思っている。

 そのことを伝えると……。

「そうか。今日は船じゃないんだな……」

 と悲しそうに俯いてしまった。

「でも! コテージは両親が使ってたところだよ! 島にある家と対になっている場所でもあるんだよ!? 楽しみじゃない!?」

「本当か!? それは楽しみだ!」

「わたしも楽しみ!」

 喜ぶドラドとティエラとは対照的にカグヤは悲しそうだ。

「……カグヤもいいの?」

「何で!? いいに決まってるじゃん!」

「そうだぞ! 仲間外れにするわけないだろ!」

「そうよ! カグヤも家族なのよ!」

「うん」

 両親のペットだった二体と、両親の子どもだった俺とは違うと、疎外感を抱いているのかもしれない。

 俺も養子だから気持ちは痛いほど分かる。

 でも家族はそう思ってないんだよ。本当に大切にしてくれてるんだ。……なかなか気づけないけどね。

 だから俺は気づいてくれるまで待とうと思う。もちろん、俺も気持ちが伝わるように努力する。養父さんや養母さんがしてくれたようにね。

 ◇

「それでワイバーンは首チョンパしていいの?」

「ダメに決まってるだろ!」

「何で? あの頭に木が絡んでいるのも、落下してこない理由の一つだと思うんだけど」

「いいか? ワイバーンは竜じゃないくせに火を噴いたり、火球を飛ばしてきたりするんだ。それを可能にしている魔導管が骨の中を通って、心臓と口を繋いでいるんだ。これが魔具の素材として高額取引されている!」

 ドラドはたまに主婦視点で話すんだよな。料理長だけじゃなくて主計長も兼任する気か?

「何で高額?」

「分かんないか? こいつは空を飛んでるんだ。落とすとボロボロになるから、基本的に迷宮でしか入手できない。でも迷宮は生きて帰る必要があるし、ドロップ型じゃないと解体する暇がない。つまり、確率がかなり低いということだ」

「……じゃあ、この状態は?」

「最高の状態だな! このまま丸ごと売ったら数年は遊んで暮らせるぞ!」

「「「それはダメ!」」」

 こいつは俺たちの食料になる運命なのだ! それは譲れない!

「わ、分かってるぞ! も、もちろんじゃないか!」

 俺たちの必死さが圧力となってドラドをたじろがせていた。

「そ、それでどうするんだ?」

 もう少し広ければクレーン車を出せるんだけどな。仕方ない。木を切ろう。

「木を切るから離れてて」

「何を使って切るんだ?」

「振動ブレードだよ」

「……切れるのか?」

「任せて!」

 背中に背負っている振動ブレードの柄を掴み抜き取る。日本刀型の振動ブレードは液体魔力補充式だから、振動のオンオフは手動になっていた。

 刃が着いている側の柄にトリガーがあり、トリガーを引くとブレードが振動して切れ味が増す。
 打刀のサイズだから一太刀では切れないだろうが、数度切れば倒れるはず。

「行くよーー!」

 ブレードを構え、袈裟斬りを意識して振り下ろす。

「ん?」

 ……手応えがない。空振ったかな? と思っているのは俺だけではないはず。
 ドラドが木をグイグイ押して確認しているからだ。

「……切れてる。すごいな、それ!」

 ドラドが初めて刃物に興味を持った瞬間だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...