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鏡の怪
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「ねぇ、知ってる?」
音楽室の窓を開けながら祐子(ゆうこ)が話す。
「ん?」
美幸が楽譜から目を離さずに返事をする。
休憩中も彼女は吹奏楽部の自分のパートをチェックしている。
「4時の鏡の話」
窓から祐子が身を乗り出す。眼下には陸上部が走っている姿が映る。
「知ってる!自分の死に顔が映るヤツでしょ?」
美幸の代わりに話に乗ってきたのは亜矢子(あやこ)だ。
「そう。4時44分に4階の鏡をのぞくと自分の死に顔が映るんだって」
「高学年にもなって、ずいぶん子供っぽい話ね」
あきれながら美幸がようやく祐子の方を向いた。
「だいたい、見た人いるの?」
正論を突きつけられて祐子はだまってしまう。
「じゃあ確かめてみればいいじゃん!」
代わりに答えたのは亜矢子だ。
「勝手にどうぞ」
「私もやだな。おばあさんの自分なんか映ったらやだもん」
この提案には話を持ち出した祐子も及び腰になる。
「あら?おばあさんとは限らないんじゃない?」
亜矢子がいたずらっぽく笑う。
「案外、血まみれの自分が映ったりして」
悲鳴を上げる祐子とは対照的に美幸はため息をつく。
「ねぇ、確かめてみようよ」
その反応を見て亜矢子がもう一度2人を誘う。
「えぇ、やだよ。美幸も一緒なら考えるけど」
祐子が美幸の服をつかむ。
「何で私もなのよ」
「だって美幸、鏡の話信じてないんでしょ?そういう人と一緒なら何も起きなさそうじゃない?」
祐子はもはや話を信じたいのか信じたく無いのか分からない理屈を述べた。
「ね、やろうよ。今日さっそく!」
時計を見ると昼の2時を指していた。
今日は土曜日。学校自体は休みだが部活の自主練習で3人は音楽室に来ていたのだ。
「そもそも4階の鏡って・・・」
「トイレが良いんじゃない?あそこなら誰も来なさそうだし」
一般の教室が無く音楽室や美術室など特別室がある4階は用も無い限り滅多に生徒は来ない。
休みともなれば尚更だ。
「ね。今日、私たち美幸に付き合ってるんだし」
意味深に亜矢子が笑う。
「・・・・私は2人の為に・・・・・」
そこまで言って美幸はため息をついた。
「・・・・・・そうね。その時間まで練習出来るわね」
あきらめた美幸はそう言うと2人に背を向けて楽譜に目を戻した。
その後ろで2人が笑い合っている事も知らずに。
秋の夕暮れはつるべ落とし言われる程あっという間に日が落ちてしまう。
薄く明かりが差し込むトイレに3人はいた。
「電気つけないの?」
「だってその方が雰囲気出るじゃん」
鏡の前に立った美幸を祐子と亜矢子がはさむ形で立つ。
「そう言えば、3人で写真を撮ると真ん中の人が死ぬって言うよね」
思い出したように祐子がつぶやいた。
「ばかみたい。じゃあ真ん中になった人はみんな死んだの?」
「まぁ、大丈夫じゃない?」
食って掛かる美幸を亜矢子がなだめる。
「何も悪いことしてなければ・・・・ね・・・」
そうゆっくり言った亜矢子の言葉に美幸が体をこわばらせた。
「じゃあ、目をつぶって。ゆっくり10数えるのよ」
祐子が説明する。
ぴりりとした空気が3人の間に走る。何だかんだでもやはり3人とも怖いのだ。
「いくわよ」
祐子の合図で3人が目をつぶる。
ゆっくりと頭の中で数を数え始める。
1
2
3
・
・
・
ひんやりとした空気が辺りに漂う。
その瞬間
「きゃーーーー!」
亜矢子の悲鳴がこだました。
「顔が!顔がっっ!」
亜矢子の悲痛な声に美幸が驚いて目を開ける。
そこには血まみれの自分の顔が写っていた。
「そんな・・・・」
よろよろと美幸が後ずさる。
「祐子?亜矢子?」
慌てて2人の姿を確認するがトイレには誰もいない。
「ちょっと・・・・ふざけてないで出てきなさいよ」
そう叫ぶ美幸の声はふるえているが返事はない。
まさか・・・・本当に自分の死に顔が写るなんて。
それも年老いていない自分が。
2人もこれを見たのだろうか?
だとすれば死ぬのは。
「いやーーー!」
顔を覆って美幸はトイレを飛び出す。
信じたくない、死にたくない。
無我夢中で廊下を走る。
誰か、助けて。
その瞬間ーーーー
世界が一転した。
「ほんっといい気味よね。美幸」
朝練を抜け出して祐子と亜矢子は4階のトイレにいた。
「階段から落ちて骨折。全治3ヶ月」
こらえきれずに亜矢子が笑う。
「せいせいしたわ」
祐子もつられてわらう。
「パートリーダーだからって偉そうにしちゃって。人の休みまでつぶして自主練て何様のつもりよ」
「だけど祐子」
そこで亜矢子がにやりと笑う。
「鏡を赤く塗るなんてやり過ぎじゃなかった?おかげで後でふくの大変だったわ」
祐子が鼻で笑う。
「あんなので勘違いする美幸が悪いのよ。私たちが用具入れに隠れてるのにも気付かないでパニクって
それにビビったって事は美幸にもやましい部分があったって事じゃない」
「きゃあーー。私の顔が-!」
そう亜矢子が言うと2人は大笑いする。
「とにかく、これで次の休みは遊べるね。ねぇ何する?」
「あたし買い物にいきたい」
笑いながらそう話す2人は気付かなかった。
祐子の着けていた腕時計が7時16分を指していた事を。
そしてそれは鏡から見るとちょうど4時44分になる事を。
「かわいそうにねぇ。まだ小さいのに」
「トラックが突っ込んできて即死ですって」
焼香の香りに混じって辺りからヒソヒソと話し声が漏れる。
「2人で道路を渡ってた時に?」
「嫌ねぇ。居眠り運転なんて。いくら過労働だからって」
遺影の方で大きな泣き声と嗚咽が響くと話し声はそれに同情してか1人、1人と消えていった。
そして最後に誰かがぽつりと漏らした。
「死に顔は笑ってたそうよ。死んだことも気付かなかったのね。きっと」
音楽室の窓を開けながら祐子(ゆうこ)が話す。
「ん?」
美幸が楽譜から目を離さずに返事をする。
休憩中も彼女は吹奏楽部の自分のパートをチェックしている。
「4時の鏡の話」
窓から祐子が身を乗り出す。眼下には陸上部が走っている姿が映る。
「知ってる!自分の死に顔が映るヤツでしょ?」
美幸の代わりに話に乗ってきたのは亜矢子(あやこ)だ。
「そう。4時44分に4階の鏡をのぞくと自分の死に顔が映るんだって」
「高学年にもなって、ずいぶん子供っぽい話ね」
あきれながら美幸がようやく祐子の方を向いた。
「だいたい、見た人いるの?」
正論を突きつけられて祐子はだまってしまう。
「じゃあ確かめてみればいいじゃん!」
代わりに答えたのは亜矢子だ。
「勝手にどうぞ」
「私もやだな。おばあさんの自分なんか映ったらやだもん」
この提案には話を持ち出した祐子も及び腰になる。
「あら?おばあさんとは限らないんじゃない?」
亜矢子がいたずらっぽく笑う。
「案外、血まみれの自分が映ったりして」
悲鳴を上げる祐子とは対照的に美幸はため息をつく。
「ねぇ、確かめてみようよ」
その反応を見て亜矢子がもう一度2人を誘う。
「えぇ、やだよ。美幸も一緒なら考えるけど」
祐子が美幸の服をつかむ。
「何で私もなのよ」
「だって美幸、鏡の話信じてないんでしょ?そういう人と一緒なら何も起きなさそうじゃない?」
祐子はもはや話を信じたいのか信じたく無いのか分からない理屈を述べた。
「ね、やろうよ。今日さっそく!」
時計を見ると昼の2時を指していた。
今日は土曜日。学校自体は休みだが部活の自主練習で3人は音楽室に来ていたのだ。
「そもそも4階の鏡って・・・」
「トイレが良いんじゃない?あそこなら誰も来なさそうだし」
一般の教室が無く音楽室や美術室など特別室がある4階は用も無い限り滅多に生徒は来ない。
休みともなれば尚更だ。
「ね。今日、私たち美幸に付き合ってるんだし」
意味深に亜矢子が笑う。
「・・・・私は2人の為に・・・・・」
そこまで言って美幸はため息をついた。
「・・・・・・そうね。その時間まで練習出来るわね」
あきらめた美幸はそう言うと2人に背を向けて楽譜に目を戻した。
その後ろで2人が笑い合っている事も知らずに。
秋の夕暮れはつるべ落とし言われる程あっという間に日が落ちてしまう。
薄く明かりが差し込むトイレに3人はいた。
「電気つけないの?」
「だってその方が雰囲気出るじゃん」
鏡の前に立った美幸を祐子と亜矢子がはさむ形で立つ。
「そう言えば、3人で写真を撮ると真ん中の人が死ぬって言うよね」
思い出したように祐子がつぶやいた。
「ばかみたい。じゃあ真ん中になった人はみんな死んだの?」
「まぁ、大丈夫じゃない?」
食って掛かる美幸を亜矢子がなだめる。
「何も悪いことしてなければ・・・・ね・・・」
そうゆっくり言った亜矢子の言葉に美幸が体をこわばらせた。
「じゃあ、目をつぶって。ゆっくり10数えるのよ」
祐子が説明する。
ぴりりとした空気が3人の間に走る。何だかんだでもやはり3人とも怖いのだ。
「いくわよ」
祐子の合図で3人が目をつぶる。
ゆっくりと頭の中で数を数え始める。
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ひんやりとした空気が辺りに漂う。
その瞬間
「きゃーーーー!」
亜矢子の悲鳴がこだました。
「顔が!顔がっっ!」
亜矢子の悲痛な声に美幸が驚いて目を開ける。
そこには血まみれの自分の顔が写っていた。
「そんな・・・・」
よろよろと美幸が後ずさる。
「祐子?亜矢子?」
慌てて2人の姿を確認するがトイレには誰もいない。
「ちょっと・・・・ふざけてないで出てきなさいよ」
そう叫ぶ美幸の声はふるえているが返事はない。
まさか・・・・本当に自分の死に顔が写るなんて。
それも年老いていない自分が。
2人もこれを見たのだろうか?
だとすれば死ぬのは。
「いやーーー!」
顔を覆って美幸はトイレを飛び出す。
信じたくない、死にたくない。
無我夢中で廊下を走る。
誰か、助けて。
その瞬間ーーーー
世界が一転した。
「ほんっといい気味よね。美幸」
朝練を抜け出して祐子と亜矢子は4階のトイレにいた。
「階段から落ちて骨折。全治3ヶ月」
こらえきれずに亜矢子が笑う。
「せいせいしたわ」
祐子もつられてわらう。
「パートリーダーだからって偉そうにしちゃって。人の休みまでつぶして自主練て何様のつもりよ」
「だけど祐子」
そこで亜矢子がにやりと笑う。
「鏡を赤く塗るなんてやり過ぎじゃなかった?おかげで後でふくの大変だったわ」
祐子が鼻で笑う。
「あんなので勘違いする美幸が悪いのよ。私たちが用具入れに隠れてるのにも気付かないでパニクって
それにビビったって事は美幸にもやましい部分があったって事じゃない」
「きゃあーー。私の顔が-!」
そう亜矢子が言うと2人は大笑いする。
「とにかく、これで次の休みは遊べるね。ねぇ何する?」
「あたし買い物にいきたい」
笑いながらそう話す2人は気付かなかった。
祐子の着けていた腕時計が7時16分を指していた事を。
そしてそれは鏡から見るとちょうど4時44分になる事を。
「かわいそうにねぇ。まだ小さいのに」
「トラックが突っ込んできて即死ですって」
焼香の香りに混じって辺りからヒソヒソと話し声が漏れる。
「2人で道路を渡ってた時に?」
「嫌ねぇ。居眠り運転なんて。いくら過労働だからって」
遺影の方で大きな泣き声と嗚咽が響くと話し声はそれに同情してか1人、1人と消えていった。
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