クレイジーソルトキャンディ

瀬模 拓也

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ソルト

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小学生最後の夏休みが始まってすぐの頃。



本当ならワクワクの気分で一杯の筈なのにその時の僕の心は曇り模様だった。





でもそんな雲なんて吹き飛ばす位の突風みたいな出来事が起きたんだ。





























































「・・・・・っだ・・・誰?」



おつかいから帰って自分の部屋に戻った僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。



だって僕の部屋の出窓にヘンなヤツが居たからだ。



ヘンなヤツはヘンなヤツだ。

深い紫色のボサボサ頭に(僕は良く知らないけど多分)パンクっぽい派手な服、棒付きの飴を銜えて僕より年下に見えるクセにピアスまでしている。



親戚には僕以外に子供なんて居なかった筈だ。

こんな派手なヤツ学校でも見た事が無い。

それに何だか日本人ぽくも無い。



ソイツは出窓に置いてあった植木鉢やらを端に除けて偉そうに窓枠に寄りかかっていた。



「誰だ、お前?」



ソイツは見た目通り偉そうに僕に言ってきた。

真黒な瞳が真っ直ぐに僕を捉えた。



「コン・・・・」



僕は怖くなって思わず答えてしまった。



「ふーん・・・」



ソイツは聞いた癖に興味無さ気に反して来た。



「こ・・・ここ僕の部屋・・・だぞ・・・」



どうにかそれだけは言えたが声が震えてしまっていた。



「オレの名前はソルト。世界中を旅してる」



飴を舐めながら器用にソイツ・・・・ソルトはそう言った。



「けどちょっと疲れちまった。しばらくココで休ませて貰うわ」



余りにも勝手な言い分に僕は驚いてしばらく黙ってしまった。



「ふっ・・・・不法侵入だぞ・・・・・・!」



そうだ、確かそんな罪があった。

警察に電話してコイツを連れ出して貰って・・・・



「だからどうした?」



けれどもソルトは小バカにした様に僕を見た。



完全に力関係が決まってしまった。

今この場で取っ組み合っても絶対に僕が勝てないと思ったのだろう。

実際ソルトには妙な威圧感があった。



僕は携帯電話を持って無いし居間の電話を掛けに行くには部屋を出なければならない。

でも逃げようと後ろを振り返った瞬間にナイフで刺されそうな気がしてそれも出来ない。



「旅・・・・って何の旅?」



僕はソルトから目を合わせず、目を離さない様に勉強机の椅子に腰掛けた。



「ばーか。意味なんてねーよ」



ルローだよ、ルロー。呆れたようにソルトが答える。

おかしいのはそっちの筈なのに何故か僕は縮こまってしまう。



「いつから・・・・?」



「ずっと昔から」



「うっ嘘だ~」



僕は思わず叫んでしまった。



僕は小学校の最高学年だけどソルトは僕よりも年下に見える。

どう見ても10歳位だ。



「そ~かもな~~」



僕の反応なんか全く気にしてない様でソルトはそのまま大きな欠伸をした。

その瞬間に牙が見えたような気がして僕は益々吃驚してしまった。





「・・・・・もしかして・・・・妖怪?」



幾ら外国でもこんな子供が自由に旅何て出来る訳が無い。

さっきは日本人ぽく無いと感じたけれど人間ぽくも無いようにも見える。



夏だし。

きっと妖怪なんだ。

妖怪が僕の部屋に出てしまった。

それであの牙で頭からバリバリと食べられてしまうんだ。



「よーかいって何だ?」



青ざめる僕を余所にソルトが眠そうに聞き返して来た。

そう問われると僕も困ってしまう。

コイツ世界中を旅している癖に妖怪も知らないのか。



「・・・・妖怪って・・・人間以外!」



どうにか頭をグルグル回してその答えを出した。



「じゃ~『それ』かもな・・・・」



ソルトは別に怒るでも無くそれだけ言うと寝入ってしまったようだ。

ぐうぐうと呑気な寝息が聞こえる。

今の内だ!

今すぐ下に降りて警察に電話して・・・・ちょっと待て。



僕はそこで気が付いた。



『僕の部屋に妖怪が出ました。助けて下さい』



なんて。

そんな電話をしても怒られるのは僕じゃないか。

きっとふざけた悪戯電話だと思われるに決まっている。



そもそもソルトは僕以外に見えているのか不安になってきた。

単に僕の幻覚なのかもしれないし。



恐る恐るソルトに近づいて見る。

肌は日に焼けていて僕より健康そうに見える。



幻覚って触れるものなのかな?



そろそろと伸ばした手がソルトの髪を触ろうとした瞬間、反射なのか寝返りなのか実は寝たふりをしていてワザとやったのか分からないけれどそるとの握り拳が僕の顔を目掛けて振り下ろされた。



当然僕は避ける事が出来ずに鼻の辺りを思いきり殴られた。



「~~~~っっ!」



目の奥に星がチカチカ瞬いた。

痛みで腹が立ったけど幻覚で無い事は理解出来た。



そうなるとソルトは何者なのだろうか。

矢張り妖怪?

自覚していないだけで・・・?



僕はしばらく部屋の中をウロウロとした挙句ソルトをもうしばらくこのままにして置く事にした。



僕を食べる風でも無さそうだし、ソルトの言う事が本当なら休んだら出て行く筈だ。

無理に追い出して祟られても怖いし。



それに、ソルトの言う事がもし全部ウソで本当に頭がおかしなヤツだったとしても何故か放って置く事が出来なかった。



夕陽を浴びながら爆睡している呑気なヤツが危険だとも思えない。



なにかあったら大声だして逃げれば良いよね・・・・



そう決めて勉強机に戻った僕も相当呑気だと思った。

















































それから1週間とちょっと。

僕の部屋の出窓は相当居心地が良いのかソルトは居座ったままだった。

その事に関しては少しムッとしたけど言っても相手にされないし腕力では絶対に勝てなかった。

それ以前に僕より年下に見えるクセにソルトが睨むとかなり迫力があって凄く怖かった。



悔しいので夏休みの自由研究を兼ねてソルトの観察をする事にした。



勿論本当の自由研究じゃない。

そんなの作ったらソルトに怒られそうだし提出したら先生なんかもっと怒るだろう。



だから、こっそりと誰にも見せずに僕のパソコンの中で僕だけが見る秘密の自由研究だ。





















































一. ソルトは僕の部屋の出窓がかなり気に入っているらしい。

確かにあの出窓は南向きで薄手のカーテンを閉めると丁度ポカポカする感じで夏でも気持ちが良い。

ソルトは居間のクッションを並べたり僕の本棚から漫画を持ち出したりと何時の間にか快適なスペースに作り替えて行った。



その事で何回か文句を言ったけどてんで相手にしてくれないし、漫画本を頭に投げられて痛い目にあった時もあった。







一.ソルトはご飯を食べない。

ソルトは何時もくわえている棒付き飴以外何かを食べているのを見た事が無い。

たまに何処からか持って来た(いや、母さんがお菓子の減りが早いと言っていたから多分そこだろう)お菓子を食べている位だ。

勿論その時も飴を離さないので味が混ざらないのかな、とも思ってしまう。

空腹を訴えない辺り、矢張り妖怪なのだろうか?

ソルトの性格から考えて遠慮しているとも思えないし。







一.ソルトは本当に世界中を旅しているようだ。

試しに世界の適当な所をパソコンの画面に出すとその場所に行った時の事をスラスラと話すのだ。

僕の知らない事も本に載っていない様な事も沢山話してくれた。

おかげで僕の(本当の)夏休みの自由研究は大助かりだ。例えその話がソルトの頭の中で出来ただけだとしてもきっと先生にだって分かりっこない。

逆に場所や建物の名前を覚えるのは苦手みたいだった。

僕が「万里の頂上だ」とか「エッフェル塔だ」とか言っても「へー」と興味なさそうに返すだけだった。











ここまで書いて僕は何だか疲れてしまった。

きっとソルトは妖怪の中でもかなりの変わり者の部類に入るのだろう。

相変わらずソルトは当たり前の様に出窓に居る。



これから先もずっと居続けるつもりなのだろうか?



いったいいつまで?



ずっと―?



そう考えた僕は何故かうんざりするより何かワクワクする様な気がした。

一人っ子で兄弟喧嘩などした事が無いコンにとってソルトとのやり取りは生意気な弟と話しているように思えた。



それでいてソルトは時々コンよりもずっとずっと年上に思えて自分を見下ろしているようにも思えた。





「なにやってんの?」



目を擦りながらソルトが眠た気に聞いていた。



「お前の事書いてんの」



そう答えて僕は一瞬ヒヤリとしたがソルトは「あっそ」とだけ言ってクッションの位置を直すとまた寝てしまった。







やっぱり相当な変わり者だ。

人間でも妖怪でも。



「フツーそう言われたら気になるだろー?」



そう思いながら僕はパソコンを閉じた。



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