鼓動

なぁ恋

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微かに顔を覗かせる恐怖


それは突然起こった。
伽藍の魔力が弾けた。


次の瞬間、


ドドドド

今までに聞いたことの無い大音量と共に、大地が揺らいだ。

「なっなに?!」

セインが屋根戸に登って外を確認する。

「ありゃぁ……雪崩が起きたんだぁ」

「え。大丈夫なの」
オリビアがとても心配そうだ。

「大丈夫。不思議とな、集落を躱すように雪崩落ちてる。」

だけど、不自然だって首を傾げる。

「あぁ。男達が屋根に出て来てる。情報交換と、外の確認をしないとな」

まずは下に降りてきて、暖かな格好をして外に出て行く。

「雪崩なんて、今まで谷側にしかなかったのに……」

オリビアが首を傾げる。


そんな中、私は呆然とする。

「伽藍が……」

魔力を使うことなんて、今までなかったのに……こんな……

胸の内に在る鍵が緩む。
ビリビリ
魂が、魔力が、伽藍と呼応する。

「ランジュ?」
「……母さん。伽藍が、大変みたい」

オリビアを、母さん。と、呼び始めてどれだけ経ったかな。

たまに変なこと言ってしまう自覚はあった。
だけど、オリビアは、何ともないような顔をして抱き締めてくれる。

「私、伽藍が居なくなったら、世界を壊してしまう」

こんなこと。言うべきじゃない。
だけど、ポロポロ言葉が零れて弾けて、止まらない。

「私、伽藍が望むから、人で在ろうと思ったのよ」

オリビアが傍に来て、肩を抱いてくれる。

「そうね……ランジュはガランが大好きだもの」
「だって、私を見つけてくれたからっ……」

言葉は詰まって、ポロポロ涙が零れる。

「わたし、みんなが好きよ……誰も、傷付けたく……ない」

これは心底からの想い。

ねぇ、伽藍。
何が起きたの?
どうなってるの??


一段と伽藍の魔力が膨れて膨れて───……弾けた。



怖い。

ざわりと全身が粟立つ。
ダメ……


私の鍵がまた緩む。
その度に顔を覗かすものは、私には手に負えない何か……

「ランジュ。大丈夫よ、大丈夫。」

ギュッと、強めに抱き締めてくれるオリビアの温かみに、ほんの少しだけ落ち着いて……だけど、胸が痛いほど音を立ててる。

ダメ……なのに。
意識がぶれる。
胸が苦しい……オリビアの顔が歪んで、苦しさに強く瞼を閉じた。

次の瞬間、オリビアの温かみが消えた。

怖い……
怖いけれどーーー……
そっと、目を開けると、そこは、以前に見た光景。




パチリと、木の弾けた音。
暖炉には火が小さく揺らいでいた。
ここはオビィの、今は伽藍の小屋の中。

なんで?
さっきまでオリビアの腕の中に居た。

だけど、部屋全体から伽藍の臭いに、気配。全てを感じられて落ち着いて来た。

何が起こってるの?
冷静に考える。

伽藍の魔力を感じた。それもとてつもなく大きな。
普段伽藍は、人以上に人らしい。
治療に魔力も使わない。

祭りのあの時だけふわりとした微量の魔力を解放してしまったくらい。

そもそも私の魔力は封じられてる。
それでも、伽藍が揺らいだから、伽藍が持っている私の鍵が緩んで、私の魔力が顔を覗かせた。
だから伽藍の変化に気付いたし、一瞬で移動してしまった。

伽藍は私が知らないと思ってる。
オビィは言わなかったけど、知ってたと思う。
それに、オリビアも……。

もう、不安で不安で押し潰されそう。

カタン。
と、木戸の音がして顔を上げると、目の前には黒い短髪で赤い眼の少年が居た。何となく伽藍に似た雰囲気の……

「ガシャ?」

何故か、伽藍の小鳥の名を呼んでた。

「ランジュさま」

そう言って彼は私の足元に傅いた。
まるで私が主人のように。

「伽藍はどうしたの?」
「眠りにつかれました」
「何故?」
「魔物を討伐された為に疲れ果てたのです」
「それだけならあんなに強大な魔力にはならない」

ガシャの肩が揺れた。

「魔物と、それを狙っていたゾンビを討伐し、それらを無に返す為、魔力で雪で煮詰めました。
それを更に氷に変化させ、自らは茹だった熱に身体を焼かれ……それは治しましたが、魔力が枯渇し、生きる為の眠りに着きました」

指先まで冷くなる。

「それは、いつまで?」
「判りません」

ぐわりと、胸の内が熱くなる。

「ランジュさま!」

それに気付いたのかガシャが顔を上げる。
あぁ、あなたの姿は本当に伽藍に似ている。

「私ね、伽藍が呼ぶから封じられるのもいいかなって思ってたの。
伽藍が望むから、唯人でもいいかなって、
ねえ、伽藍のとこへ連れてって?」
「それは……」
「私の魔力を分けてあげる。そうすればすぐにでも目が覚めるは。そうすれば元通り」

そうよ。それがいい!

カタン。と、また音がして、見上げるとオリビアが居た。

「あなた、ガシャね? お願い、ハシゴを掛けて」

オリビアは、何もかも知ってるような、そんな感じがしてた。







三人で膝を合わせて座ると、オリビアが話し出す。

「まずは、説明するわね。私はオリビア。オビィの双子の妹なの」

本当に驚いた。
ガシャも固まってたから知らなかったのね。

「オビィが魔女なのは知ってるわね?」

頷く、

「ガシャはガランと居たから聞いてると思うけど、“魔術師”と“魔女”と“魔物”と“死者の魔物”のこと」

「魔女も魔術師も、総じて魔術師と言うと、魔物とゾンビは過去の“闇堕ち魔術師”の造ったものだと」

「そうね。だけどね、本当は魔術師と魔女とは、明確に違うのよ。
魔女はその魔力によって寿命も能力も何もかも魔術師とは異なるの。
魔術師は、自身の魔力を媒体に自然の魔力を色々出来るけれど、魔女は何もかもで出来るのよ。
狂った魔術師。“闇堕ち魔術師”は、男で在りながら魔女の部分も持っていた。
それは魔術師に置いては完璧で、人の中で言う“王族”だったの」

「“闇堕ち魔術師”?」

この呼び名を口にしたら、何故か、ちくん と、胸が痛んだ。

そうしてオリビアは魔術師が隠れ住むに至った伝承を教えてくれた。
少し頭が痛くなったのは、この伝承は忘れてはならないから伝承自体を恐怖の魔術で縛っているから。

「そして、ランジュは魔女なの。それもの能力を持ってる。
私はもう魔力を手放して随分経つのに、それでも感じられるくらいにね」

だからね。と、私がって言おうとすることを遮ったオリビアが、一呼吸おいて、

「だから、そんな魔力を補給するなんて、ガランは、治るどころか死んでしまうわ。伽藍のからだはあくまで人から魔物に変化したものだから」

納得せざる負えなかった。

「私はね、オビィと旅してたの。その過程で、この集落を訪れた。その少し前から夢に視てた場所だってすぐに分かったのよ。
そしてね、セインのと友だちになったの。
いずれ二人の間に生まれる息子が、私の伴侶になる人だって感じたから……だから、見守った。生まれて、育って、年齢が釣り合う頃に、私は魔女を辞めたの。
正確には、私の魔力をオビィがのよ。
魔女で在る私は死者となり、人と成った私は、ガランのように、親戚だと偽って、オビィの元に来た。
それから、セインも私を好いてくれて、今に至るの。
だけどね、誰もが魔力を手放せる訳では無いの。私は双子だったから出来たこと……」

そしてね。と、一息吐いたオリビアは確信に触れる。

「オビィもまた、私とは違う夢を視ていたの。 魔女の夢は特別よ。特に私たち双子“あまねく黒き魔女”の夢は」















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