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鬼の事情
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しおりを挟む† 桃太郎side
* 不二丸と合流する少し前。
広い草原を歩く。
双子がクスクスと何かしら話したり笑ったりして先を歩く。
足を浚う柔らかい草が、この島全体の優しい空気が、俺のココロを和やかにする。
俺は自分の道が定まった事に、安堵と同時に小さな不安が頭をもたげていた。
まぁ、どんな未来も見えないから不安はある。誰だってそうだと思う。
見えない事の不安。
……不二丸の告白。
父さんの提案で不二丸の両親に俺ん家に泊まるって電話しといたけど。(携帯が通じるのにビックリした)
これから不二丸と顔を合わせる。
ずっと一緒に居た同性の幼馴染み。
そりゃあ、同性愛自体は想いが通じてるなら良いって思う。
間近にそんなカップルを見てるからそれに対しての偏見はない。
けど、やっぱり不二丸とそうなれるかって考えて……無理だって感じてる。
「未来なんて定まってないんだよ」
「私たちが生まれて母ちゃんが死んじゃうとか、思ってもなかった事が起きたりね」
黄金の四つの瞳がこちらを見て言った。
二人の母さん、元気おじさんの奥さんは双子を生んで死んだ。
それからのおじさんの落ち込みようったらなかったな。
誰も慰められなかった。
実際に医者の仕事さえ、長い間放棄してた。
「全部知ってるの?」
この双子は不思議な事に生まれた時に産声を上げなかった。
「うん。母さんがありったけの力で僕らを生んでくれた事も。」
「泣かなかったのは、母さんの最期の言葉を聞いていたから」
結歌と結愛は“鬼”として生まれ落ちた。
その鬼気が母胎を蝕んだって。元気おじさんが叫んだのを覚えてる。
それは、とても辛いことだ。
「僕らは二人だから大丈夫なんだよ」
互いに手を取り合って微笑む双子は、幸せそうに笑顔を浮かべた。
「兄弟って、良いもの?」
思わず訊いていた。
「良いよね。羅刹も優しいし」
「そう。そう。羅刹は責任を感じ過ぎてて、それが可愛そうだけどね」
責任?
「母ちゃんが死んだの、自分のせいだって」
「うん。父ちゃんも同じ様に考えてる」
双子は目を見合わせて、
「「全ては母ちゃんが選んだ事だよ」」
声を揃えて言った。
「幸せだって言ってた」
「今度は羅刹と父ちゃんが幸せになる番だって」
その謎めいた言葉は予知にも聞こえた。
双子はまた二人の世界に入ってクスクスと微笑み合った。
「美味しいご飯が待ってるよ」
「ふふふふ」
最初に結歌が話して次に結愛。これが二人の常らしい。
クルクルと回り踊りながら笑う二人は心底楽しそうだ。
「羅刹の料理は母ちゃんの味」
「美味しい、懐かしい味」
「だけど羅刹の味じゃない」
「美味しいけど、美味しさが違う」
母ちゃんの味? 双子は母親の手料理なんて食べた事ない筈だ。
またも謎めいた言葉を歌いながら双子は草原に突如現れた緑の森に入って行った。
緑の強いそこは大きな葉っぱの生えた不思議な森だった。何だか不思議の国のアリスになった気分だ。
そして、その森の先に現れたのが岩壁。
少し壁伝いに歩き進むと木の扉が有って、結歌が戸惑う事なく開けて入った。
ここが羅刹の家なのか。誘われるままに足を踏み入れた。
元は洞窟だったところを、おじさん自ら何年もかけて住み易く改装した。手をかけただけあって室内は昔と変わらずとても快適な空間だった。
昔は、
昔はよく来ていた。
毎回来る時は羅刹の扉を使ってたから外装はあまり見てなかったんだって、今さら気付いた。
島のどこに行くにも扉を開ければ事足りたし……。
けど、おばさんが亡くなってからこちらに来る事はなくなってた。
それは父さん母さんも同じで、羅刹がたまに市松に顔を出しに来るくらいで。今日のおじさんの様子を見ると少し安心した。
母さんの事、おじさんの為にも良かったのかも。
「おお! 桃ちゃぁあん♪」
って、飛び付いて来たのは羅刹。
勢いでまた床に転がる。
もうこれは羅刹の挨拶なのかっ。
「止めろ―――……」って、引き離すまでもなく羅刹が離れた。
「ご飯、もうよそうだけだからね。待ってて」
離れてく羅刹に寂しさを感じて、
「蛇たちは大丈夫なのか??」
話しかけてた。
「大丈夫だよ。料理、手伝ってくれたし」
「蛇が?」
「そうだよ」
謎な言葉に頭は?????
「ははっ! 居間でそのまま待っててよ」
笑顔で台所に駆け込んだ羅刹。
……寂しい?
さっき感じた事に胸の辺りがドキッ とした。
そう思うと、ドキドキが止まらなくなった。
何なんだよ! いったい。どうしちゃったんだ俺。
不思議だ。
どんな切っ掛けで気持ちが動くか解らない。
……不二丸の本当の気持ちも、全然気付かなかった。
モヤモヤする。
恋愛なんて、俺には程遠いものだと思ってた。
大きな溜め息を吐きながらソファーに腰を落とす。と同時にドアが開いた。
「桃太郎! 大丈夫だったか?」
不二丸がいの一番に気遣いの言葉をくれた。
「うん。母さんも父さんも元気だったよ」
ココロから出た言葉。
「兄ちゃんになる覚悟が出来たって事か」不二丸には何でもお見通しだと苦笑する。
「だな。大分年の離れた兄弟だけどな」
「“角隠し”も判ったんだな。けど、隠すの、勿体ないな。綺麗なのに……」
双子と同じ事を言った。と油断してて、伸ばされた手が俺の隠した角に触れた。
「あっ……」体から力が抜けて不二丸に寄り掛かる。
「なななな何事???」
不二丸の慌てた様子にも体に力が入らなくて顔さえ上げられない。
「エッチだぁ。」
「犯罪だぁ。」
聞き捨てならないセリフを言った双子に反論も出来ない。
「こらこら、結歌。結愛。からかうんじゃないよ。まぁ、半分はそうかも知れないが」
元気おじさん!?
「ちょ! 元気さん! 人聞きの悪い。 まぁ、あんな声聞けて何だか得した気分ですけど」
不二丸!!
ゴンッ って派手な音がして、腕を引っ張られた。
「ワンちゃん。私の桃ちゃん離して。」 羅刹だった。
「何だよっ」って反抗しようとした不二丸が「くそ!」動揺した声を上げた。
あぁ、そうか。
不二丸は爬虫類が苦手だ。本人は隠してるみたいだけど判りやすい。
だから羅刹が得意気に何をしたか予想がついた。
頭は冷静に考えられるのに、体の力は抜けたまま。
「生えたばかりの角は感覚が鋭いんだろうな。敏感って言った方がいいかな」
おじさんの言葉に納得。
でも、敏感って。感じすぎるって事?
ええええええ????
うわーーーー……。
一気に力が抜けて床に座り込む。
「その内慣れるとは思う。だけど、角は触らない方が良い。本人の許可があれば別だけどね。鬼には大切なものだ。うん。でも確かに良い反応するね」
元気おじさん?!
言い回しに引っ掛かる言葉を使うったら。
もう考えたくなくなった。
落ち着くまで耳を塞いで大人しくしておこう。
「妻の忘れ形見なんだ」
塞いだ耳に届いた言葉。
おばさんは何で“鬼”に成らなかったんだろう?
成れない筈はなかったのに。
疑問は小さな刺の様にココロに残った。
その“刺”に反応したのは羅刹。
言葉じゃなくて“ココロの
想い”だとすぐには判らなかった。
だけど、確かに羅刹の“後悔の念”だと、ココロの声がどんなものなのか、触りが解った気がした。
だけど未熟な俺には、その本質までは聴こえては来なかった。
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