鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼のゆくえ

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もういいかい?
まぁだだよ。
 
鬼は隠れた子どもを見付けに来るよ。
 
子どもは隠れるもの。
鬼は探すもの。
 
どんな遊びにも決まりごとがあって。
それを知らなければ、大変な事になる。
 
もういいかい?
もういいよ。
 
鬼に捕まった子どもはどうなったのか、それは鬼と子ども本人にしか判らない。
 


***


 
† 羅刹side
 
躰が軽くなった。
そんな感覚で目が覚めた。
 
何が変わったのか理解出来ない。
寝惚けているだけなのかな?
 
何だろう?
 
「「おはよう」」
蛇狼と白火が声を揃えて顔を覗かせる。
「おはよ!!」
それを合図に寝心地の良い布団から飛び起きると、掛け布団に乗って居た黒と白のが宙を舞う。

「「ひゃあーー……」」
 
声を揃えて叫ぶ二人が面白くて大笑い。
いつもと変わらない朝だ。
安心して、朝ご飯を作る為に台所に走った。
 
と、台所に先客が居た。

「父ちゃん?」
 
呼ぶと、こちらを振り向くこと無く「おはよう」と言われたので、「おはよー」と返す。
 
「朝ご飯、今日は俺が作るから、ゆっくりすると良い」
 
珍しい。
こんな事、……母ちゃんが居なくなってから初めてだ。
 
父ちゃんは母ちゃんのよく居た場所には近付かなかった。
けど、墓にはよく行ってた。
 
父ちゃんの後ろ姿。
何だか違って見える。
 
「羅刹……」
「ん?」
「すまなかった」
 
え? 何が? と、訊く事も出来ずに固まる。
 
「羅刹は幸せかい?」
 
変な事を訊く父ちゃん。
「幸せに決まってるじゃん」
思わず父ちゃんの背中に飛び付いた。つもりだった。
けど、気付いたら、あったかい温もりに包まれてた。
 
 
頭の中が、真っ白になる。
え?
父ちゃんに抱き締められていた。
あったかい、父ちゃんの体温。
小さい頃から慣れ親しんだぬくもり。
……なのに。
ドキン。と、胸が高鳴った。
ドキドキが、大きくなる。
 
「すまなかった」
って、父ちゃんが離れて行く。
何が?
何を謝るの?
訳も分からず、離れそうな体を握り止める。
不安で、怖くて……。
「父ちゃん? 居なくならないでっ」
父ちゃんの広い胸に顔を埋める。
 
不安なのに、ドキドキは止まらなくて。
頭まで痛くなって来た。

不安で、痛くて、苦しくて。
「「羅刹?」」
蛇狼と白火が二人で私の名前を囁いた。
それで現実に意識が浮上する。
 
「居なくならないよ」
父ちゃんの声が頭上から優しく降って来た。
 
「俺は羅刹の父ちゃんだからな」
“父ちゃん”当たり前の事を強く言葉にした。
「うん。“父ちゃん”だもんね」
出逢った時から、父ちゃんは父ちゃんだ。
 
それは、当たり前の日常だ。
それが、私の……生きる術だ。
    
例え、が無くなっても。
 
「さあ、皆を起こしておいで」
   
私たちは
それは永遠に近い存在なんだから。
 
「うん! 判った」
 父ちゃんは傍に居てくれる。
それが私にとって大事なんだから。



 
 
† 元気side
 
羅刹が、幸せだと笑った。
抱き締めたままだから表情は見えない。
だけど、どんな笑顔かは想像出来る。

常に羅刹は俺に笑顔を向ける。
それが、まるで義務の様に……。

俺は、空羅寿の事柄の全てを、羅刹にぶつけていた。
それは、無意識に。
ぶつけるなんて、可愛いもんじゃない。
下手をすれば、羅刹は死んでいたかもしれない。
 
今更、だが、心底恐ろしくなった。
 
赤ん坊だった羅刹。
俺の為の扉を造ってくれた幼女の羅刹。
         
成長していく過程でに成った羅刹。
 
なのに、あの時の俺は、俺には……羅刹は、白蛇で在った鬼女にしか見えていなかった。
空羅寿を失うのは、全てが、羅刹のせいだと。
 
気付けば、鬼の血が朱色に染まるのを感じた。
留まるどころか、それに身を任せた。
その方がココロが楽だったから……。
簡単に、朱色に染まる血。
    
それは、として、人間の気持ちなど、どうでもいいと……自分の殻に閉じ籠った。
そんな俺を、俺のココロを留まらせたのが羅刹だった。
否、或いは、救いを求めたのは俺だったのかもしれない。
 
まだ子どもだった羅刹が、自ら鬼に成り、その血を持って俺の理性を留まらせた。
ココロを繋いで……。
 
 
「すまなかった」呟く様に謝り、羅刹から離れ様と身を起こす。が、
「父ちゃん? 居なくならないでっ」
小さく叫んだ羅刹が抱き着いて来た。
その華奢な体が震えて居る。

桃太郎に言われた事は、解っていた。
羅刹のココロの底に隠された想いも。
だからかもしれない。それだから余計に羅刹のココロも、俺と繋がる事で、彼女自身も理性を保って居た。
 
「「羅刹?」」
羅刹の、二人の守護者が彼女を呼んだ。
俺から羅刹を護って来た白と黒の蛇。
 
彼らは羅刹のココロを護ってくれて居た。
 
「居なくならないよ」
幼い子どもに言って聞かす様にはっきりと安心させるつもりで言葉を紡ぐ。
「俺は羅刹の父ちゃんだからな」
それは当たり前の関係を、
「うん。“父ちゃん”だもんね」
彼女は笑みを顔に張り付けて、当然だと言い返した。
 
ズキリと、ココロが痛んだ。
 
それが人間だと再確認した様に安堵する。
羅刹は皆を起こしに駆け出して、俺の腕に残った温かみは、目を瞑る事でかき消した。
 
俺がしてやれるのは、羅刹の幸せを見護って行く事。
俺のこれからは懺悔と子ども達の行く末を見護る事。
 
今まで目を背けて居た分を、今度は全力で見開いて、羅刹と結歌と結愛を大切に護って行く。
 
桃太郎から再生のチャンスを貰ったんだ。
桃太郎しか出来なかった事。
 
 
樹利亜にも、龍太郎兄さんにも、
今まで羅刹以外の誰にも触れさせなかった朱色の部分を、桃太郎は力ずくではなく、自然とやってのけた。
俺が受け入れたのかもしれないが、桃太郎の力が俺を上回っていたからかもしれない。
底知れない“鬼力”を感じた。
逆らえない、そう言った諦めもあった。
 
俺の中の鬼の血を桃太郎は自身の鬼の血を俺に注ぎながら、“朱色の血”のみを押し出した。そんなやり方は知らなかったが、鬼のままで居させてくれたのだと感じた。
 
桃太郎の千里眼がどこまでを視せたのか俺には視えなかった。
だが、何かを悟った瞳をしていた。
そして、前世を知ったとはっきりと言った。何かを求めて転生して来たと……。
そして、羅刹への想いの欠片を感じた。
 
思えば羅刹も、生まれたばかりの桃太郎を見て何かを感じた様子だった。
 
二人は運命で繋がって居るのかもしれない。
 
ズキリと、また胸が痛んだ。

桃太郎が宗寿だった事実に今更動揺しているのか……羅刹を……。
否、否定してみても、今の俺のココロを占めるのは、空羅寿だけじゃないと分かっている。
 
解ってしまった。と、言うべきか。
 
だが、優先すべきはこれからの子ども達だと、空羅寿を亡くしてから初めて思えたのだ。
未来を考える事が出来る。
これこそが空羅寿が望んでいた事なのだと。
 

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