鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼のゆくえ

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地雲は“オーラ”を纏っていた。
それが目に見える程に。
オーラは手に握るスマホに流れている。
それは“鬼気”に似ていた。
      
そうか。地雲も
スマホを通して能力を発揮してるんだ。
無意識に使う能力で鳥の鬼を、母親を威嚇していた。

為に能力をフルに纏っている。
護る男の子は血を分けた弟、この子は鬼の血の交りはない。
 
物事が千里眼の能力でクリアに視える。
 
男の子は母親に抱きしめられ、ただただ震えていた。
 
「母さん、止めて」
 
地雲は大きな瞳を母親に縫い付けて、願う。
 
足元には父親の亡骸が転がっていた。
その悲しみは淡い。強い想いは母親に向けられていた。
関わり合いの違いなのか、母親の面影が地雲と重なった。鳥の鬼の姿とは全くの別物。
 
地雲とそっくりな女性。
孤独に毒されて行く一人の女。
 
「母さん。私は貴女が羨ましかった。あんなに父さんを想い続けて……ただ、一人をずっと想って、好きで居られる、そんな貴女を同じ女性として羨ましくて、そして、妬ましかった。だから、無視してた。母親の貴女を……孤独にさせた。私には解らなかったから」
 
頬を涙が零れ落ちた。
 
「貴女は父さんを殺してしまう程に愛してた。だけど、私の事は?」
 
地雲に重なる小さな女の子が見える。
寂しさを耐えている女の子。
母親は寂しさに壊れ、娘は寂しさをバネにし、強さを育てた。
 

 
† 君子side
 
言葉にして自覚した。
 
ずっと感じてた。
母さんは一緒に居た。
だけど、ただそれだけ。
与えられたのは、生きる術だけ。
食べて、寝て、その繰り返し。
小学校に上がってからは、少しはマシになった。
友達が居て、話して、遊んで……だけど、参観日は、来てもらった事がない。三者懇談、家庭訪問。学校行事の全てを、病弱との理由で母さんは避けてきた。
 
母さんが行動するのは全て父さんの事。
 
父さんを愛していたのは紛れもない事実で……父さんを引き留める為に私は必要で。
 
父さんの為に私は存在していた。
父さんと関わる為に私は存在していた。
 
母さんの中で最も価値があるのは父さん。
私は父さんが居たから存在出来ていた。
 
血の臭いがする。
 
床に転がる頭の無い遺体が父さん何だと判るけど、顔を思い出せない。
どんな顔をしていたか思い出せない。
私は父さんが居なくなったら、母さんにとって要らないものになるんじゃないかと……それをずっと恐れていた。
 
幼い頃は、いつ捨てられるかと、恐れていた。
傍に居て欲しい。
誰かに居て欲しい。
ずっと前に捨てた感情が沸々と思い出され、胸が痛い。
 
「貴女は父さんを殺してしまう程に愛してた。だけど、私の事は?」
 
 
私の事は?
ずっと、ずっと思ってた。
寂しくて、母さんの後ろ姿ばかりを目で追って、想像ばかりしていた。
“母親”とはどんなもの?
父と一緒に居る時の母は“女”その姿しか私は知らない。
私と一緒に居ても、ココロは常に父に占められ“女”のままだった。
だから私は、母さんの真意をずっと知りたかった。
捨てられたくなくて、それが恐ろしくて、幼かった私がずっと訊けず、諦めていた事。 
 
「「アイシテルワ……モチロン、アイシテルワ。ダッテ、アナタワ……“ワタシ”」」

カチカチと嘴を鳴らしながら私に応えたのは答えではなかった。
チクリと胸が痛んだ。
その痛みに、少しでも期待をしていたんだと気付いた。
諦められない。幼い頃の私の想い。
 
「私は君子よ」真実を知りたかった。
 
「「ワタシモ“キミコ”」」
 
どう言う事?
キミコ。
そして思い出す。母さんの名前。
 
貴子たかこ”だと思っていた。
 
嘘でしょう?!
娘に同じ名前を付けたの?
父の言葉を思い出す。「この子は君の子だ。」それは、文字通りの意味。
  
「「クェ―――っ。アナタワ、ワタシ。ワタシ。ワタシ……」」
 
母さんは、自分しか見えていない。
父さんに愛してると囁きながら、それは鏡の前の自分に向けた言葉。
母さんは、結局は自分だけを愛していた。


 
パリン と、
私の中で何かが壊れた音がした。
 
私は何の為に生まれてきたの?
望まれて生まれた筈。
それが違ったなら、私は……。
 
「ふざけんな」
 
声がした。
 
「君子は一人しかいねーよ! 俺が3年追い続けた女はこの君子だけだ!」
 
私の前に立ちはだかったのは、犬飼。
その背中は大きく、学生の頃から変わらない……男性の背中。
 
安心出来る背中。
 
「母親は拒絶してはいけない」
 
次に私の背後から聞こえて来たのは、凍る様に冷たい声。
振り向くと、白い肌をした女の子のが居た。
 
「母親は守らなくてはならない」
 
そう言って前へ出て来た女の子。
その左右には白髪と褐色の肌を持つ人と、黒髪に白い肌を持つ人が守る様に付き添っていた。
 
「貴女も母親なら、子どもの為に鬼に成りなさい」
 
私よりも、犬飼よりも前へ進み出た女の子は、母さんを見上げて言った。
 
何が起こっているの?
 
「羅刹!」
 
女の子の横に進み出たのは市松。
忘れもしない、犬飼の想い人。

ちらりと見えた額に輝く白い角。
それは物語の中にいる鬼の姿に似ていた。


 
† 羅刹side
 

「貴女も母親なら、子どもの為に鬼に成りなさい」
 
体から力が抜けて行く。
鬼に成るなら子どもの為に。
それは、本心。
何故かな?
母ちゃんを思い出す。
頑なに人間で在る事を望んだ母ちゃん。
それは母ちゃんの覚悟の表れだったって知ってる。
だけど、納得出来ない。
なんで?
鬼にさえ成れば、生きて居られたのに……。
 
「羅刹!」
私の前に桃ちゃんが現れた。
 
「「羅刹……」」
両脇から優しさに包まれる。
見た事ない顔が二つ。
黒髪に白髪の二人。
私を呼ぶ優しい声。
 
「黒の……、白の?」
 
黒髪銀色の瞳に白い肌の蛇狼。
白髪金色の瞳に褐色の肌の白火。
私の愛しい子ら。
 
それで我に返る。
目の前の状況。桃ちゃんが私の前に立ってた。
 
“鬼退治”中なのに、我を忘れて安全を怠ってた!
鬼に近付きすぎたっ
 
危険を感じた次の瞬間には、鬼の翼が振り下ろされるところだった。
 
「「大丈夫」」蛇狼と白火が声を揃えた。
 
桃ちゃんが、角を頭に掲げ、その黒い翼を掴んだまま、天井を駆けて鬼の後方へ降りた。
 
ゴキン。と、鈍い音と共に、翼、腕はあらぬ方向へと曲がっていた。
鬼は甲高い悲鳴を上げて床に伏せる。
 
 
「「ギャーーー!!」」
 
鬼が哭く。
痛みに哭く。
そして、その場に座り込んだ鳥の鬼の身体に変化が起きる。
はらはらと黒い羽根が体から抜け落ち、長い黒髪が印象的な裸体の女性が姿を現した。
項垂れた頭。
髪に隠れた顔。
しくしくと泣き声が聞こえて来た。
 
「「何で……私は愛して欲しかった。それだけ……」」
 
愛。形の見えないもの。
不確かで不安定なもの。
 
「「私を、私だけを愛してくれる存在が、私には必要だった……のに……誰も愛してくれなかった」」
 
「娘は愛していた」
 
本当の事を話す。だけど、彼女には何も見えてない。
 
「「“君子”は私。私の一部で在るのだからそれは当たり前の事」」
 
無条件に愛してくれるのは自身の子どもだけだと言うのに。
その子どもを、一人の個としての存在を否定するなんて。最低だ。
  
「「を愛せないもの」」
 
違う。
 
「愛してたのは自分だけ。あんたがせめて、娘を本当の意味で見てれば。結果は変わってたかもしれないのに」
 
母親は母親。
娘は娘。
 
同一の者に成り得はしないのに。
 
そう。
誰も真の意味で互いを理解しあえない。
それは親子でも。
 


 
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