鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の血珠

3 *BL表現あり

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✝ とある女性の事情。結末。
 
「それでどうなったんだ?」
肌に馴染んだソファーに転がったまま、無言で佇む見慣れた男の顔を見上げる。その男、金井 拓志かない たくしは、幼馴染みだ。
混じりっけのない人間。
 
「彼女の望みは全て叶ったよ」
どこか納得のいかない溜め息を吐きながら、草臥れた真っ赤な手帳を開いて読み上げる。
 
「まずは“痩せたい”は“お金”と引き換えに叶った」
 
“能力”……鬼の血珠……を与えた直後、肥太った脂肪が醜く歪み動き限界まで膨らむと爆発した。その脂肪が、お札に化け、宙を舞う様は圧巻ではあった。
そのお札は全て一万円で一千万円程あり、調べたところ本物に間違いなかった。
望みの二つは一度に解決した。
“脂肪”が“お金”に変化して、
無駄な脂肪は綺麗に無くなり、女は痩せた。

三つ目の望み。
“愛情を取り戻したい”。
結果。女の夫は捜査願いを出していた。
それに気付いたのは“実験”をはじめて二週間後。
結局、鬼の血珠は脂肪と共に消え去っていて、これ以上の実験は不要と、記憶を改ざんして“脂肪”と共に女は家族の元に返した。
 
捜索願いを出されていたなら、愛情は確かにあったんだろう。
 
女の望みは全て叶ったのだ。
 
拓志は物足りなさそうに手帳を閉じた。
 
拓志は幼馴染みで、俺の大切な“人間”。
手放すことは出来なかった。
 
大人の思惑で“実験”された俺達は、大人になって鬼に近い存在と成った。
俺は父親の能力を色濃く受け継ぎ、超能力を開花させた。
 
拓志は……
 
拓志は肝臓が生まれつき悪く、俺は治して欲しくて親父に相談した。病気を治す仲間がいるのだから、治して貰えると知っていたから。

だが、親父は真逆のことをした。
“人間”である者に、“鬼”の血族の臓物を移植したらどうなるか?
 
そもそも何故そんな疑問を持ったのか。
俺はただ、父親の言いなりに。或いは父親の能力で操られてそれを承諾した。
 
「新」
いつの間にか俺の横に傅いた拓志がモノ欲しげに俺を見つめる。
 
「いいよ」
許可を与えるとすぐ、その手が俺のベルトにかかる。
露わになった下腹部に薄らと残る下弦の月の形をした傷跡が姿を現し、拓志はそこを愛しげに摩り、熱い舌で舐る。
下腹部から脳天まで電気が走り、声を抑えて仰け反る。
拓志は熱心にそこを舐り続け、見えないようにゴソゴソと自らを引き出し自慰する。
 
互いに声を押し殺してする行為は、もう何年も続く儀式みたいなもの。
 
拓志は傷口にだけ触れ舐めるだけ。互いに触れ合うことも無く、身体を繋げることも無く。
ただ“快楽”はそこに確かにあり、互いに何度も果てて、眠りにつくまで、その行為は続いた。
 
この関係をなんと呼ぶか、俺は解らずにいた。
 
だけど、俺は出来るだけこの男の望みは叶えてやるとココロに誓ったのだ。 
 
。それをどうしたら償えるのか、未だに分からずにいるのだから。
 
「あらた」低い声が俺の名を呼ぶ。絡め獲る。
俺を縛ることが出来るのは、この男だけ。
何度目かの快感の後、仰け反って目に飛び込んできた色。窓ガラスに映る赤い色。

それは俺の赤く濡れた瞳。
 
瞳を閉じて、を閉じ込める。
 
何が幸せなのか。何が不幸せなのか、本人にしか解らない。
それがどんなに理不尽で辛いだけの事柄だとしても。
 
俺はもう、何が正しいのか判らない。
俺の正しさなど紙切れ一枚の厚さも無く、拓志の始めた“実験”も、赤い手帳の厚みが増える程に真実味を帯びる。
 
今回はハッピーエンドで終わった。
だけどそれは珍しい例で、何人かは死んでいる。
 
これは“殺人”なんだ。
拓志のしている事は、殺人。
その手伝いをしている俺は共犯者。
 
「あっ―――…」
拓志が俺の敏感な箇所をその肌で擦りながら身を重ねてきた。
え? 目の前に拓志の顔が。
「新は……女が好きか?」
え? 唐突に訊かれたことに思考が追いつかない。
「あの日、あの長髪の女と楽しげに話していた」
長髪の?
「桃太郎の? んむ……」
口を塞がれそれ以上話せなくなった。
柔らかい感触に、咥内に侵入してくる熱い固まりが、拓志の唇に舌だとすぐに理解した。
こんなっ!
初めての感覚に震える。頭を抱えられ、仰け反ることも出来ない。
 
「んんっ!」次の瞬間、何度目かの絶頂を迎え……果てていた。
それは拓志も一緒で、腹部の滑りが二人の体液の温もりだけが生々しく音を立てた。
 
混ざり溶け合い、落ちて行く。
 
「新は、俺のモノだ!」
耳元で怒鳴るように宣言され、今更と、思いながらもその頭を抱えるように抱きしめる。
「そうだよ」と、応えると、腕の中の拓志が震えた。
 
“愛”と言うには乱暴すぎる。
初めての告白に、知らず涙が零れていた。
 
「ああ……俺はお前を……」

愛してる

俺の無意識に出た告白ことばは、噛みつかれるように塞がれた唇に消えて行く。
ただ貪るように互いを求め合う初めての夜に、溺れて堕ちて、もう後戻りは出来ないのだと、それがどうしようもなく嬉しくて、ココロが震えた。





気付けば硬い床に寝転んでいた。背後から自分より大きな身体に守られるように包まれて。
泥のように重い身体は一糸まとわぬ姿で、無惨に破かれた洋服はそこら辺に散らばっていた。

窓から差し込む朝陽の眩しさに目を細め、闇に沈み足掻く自分を哀れんで嗤う。

赤く濡れる瞳はなりを潜め、疼く素肌の胸元に爪を立てる。

拓志は人間の身で鬼に堕ちた。俺の一部が拓志に根付いて。拓志の瞳は赤く染まらない。
ただ、拓志のココロが俺を想う時、俺の瞳が赤く染まる。

だからだと、俺は思うんだ。

“朱色の悪鬼”に堕ちる鬼は、飢えている。
どんな理由であれ、“飢え”がその血を狂わすんだ。

拓志の気にしたあの娘の母親も、愛に狂った故に赤く染まった。後戻り出来ないほどに……愛した男を喰らうほどに。

身動ぎ、体を反転させると、拓志の胸に抱かれる形になった。
目の前の拓志の顔をじっくりと見つめる。
昔から変わらない。長いまつ毛に縁取られた目が、女性の様に優しげに見えて、それでも主張する男性らしい太い眉。緩い癖毛は何もせずともきまるんだ。

俺を赤く染めるのは、拓志の愛だと分かってる。

だから拓志が何をしようとも、俺はそれを否定しない。

「愛してる」

昨晩言えなかった言葉を乗せて、その顳顬に口付けを落とす。

俺は愛されてる。
だから拓志がどんなに残酷になろうとも、俺だけは傍に居るんだと改めて誓いを立てる。

“鬼退治”で人を救い。
“実験”で人を喰らう。

真逆の行為に、愛故にと言い訳をし蓋をする。

俺たちはどこまでも二人。
二人だけの世界で足掻き、愛に飢え狂わないように引っ張り合うんだ。


俺たちは“朱色”には染まらない。
“愛の色”に染まるだけ。






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