36 / 118
仄暗い焔の先に
4
しおりを挟む私には優月が居れば良い。
それだけをこの10年考えて居た。
両親に、父に会うのが怖い。
それが躊躇する理由。
一緒に過ごした父はいつもどこか上の空で、話す時も私を見ている時でも、違う誰かを見ている様で寂しかった。
今ならそれが母を想って居たのだと理解出来るが、私が居た事で父はすぐに行動出来ずに苦しんでいた筈だ。
手放しで愛された記憶がないのだ。
水先の両親は温かく、見るからに子ども達を愛しているのが解る。
父親に対して、何か心の中で許せないで居る。
優星に言われて、そう思い当たった。
「そうかもしれない。だが“鬼”と言う妖怪は厄介なんだ。
生きる事に貪欲で死以外に恐れるものはない」
「鬼は滅多に死する事はないしニャ」
「なら、どうして死にそうになってたんだろう?」
化け猫と優月の言葉に、確かに、と、浮かぶ疑問。
「心当たりがあるニャ」
化け猫が目を細める。
「人間との混血は必ずどの妖怪も作るんだニャ。でも、その扱いと言ったら酷いものニャんだ。
何故か判るかニャ?」
「人界に来る手段だから」
答えたのは水先の父。
「妖界と人界の境目には見えない壁が在るんだ。その扉に成り得る存在が混血。それを産み出せるのは霊力の備わった女性のみ。
身近な例は響夜くんのお母さん。それに優星もそれは可能だろうね」
名指しされた優星が顔を赤らめる。
「まだ嫁にやるつもりはないけどね」
涼しい顔でさらりと釘を刺す父親に眉間にシワを寄せる娘。
重い話をして居るのに思わず笑みが零れた。
「あ……」
こちらを見ていた優月が、口を開けて黙る。
? 不思議に思ったが、水先の父の話は続く。
「霊力のある女性は妖界に安易に入れるんだ。
女性陣には聞くに堪えない事なんだが、力の強い妖怪に呼び寄せられ、そこで種を生み付けられる。
そして人界に戻される」
「よく知ってるニャ」
「水先家は本来“壁を護る者”なんだよ。だから二つの世界の事情には詳しい」
にこやかに重大な事柄を口にした父を見る子どもらは驚きに絶句してしまって居た。
「そうだったのニャ。それが“存在”するって噂話は聞いてたのニャ、優月達だったのかニャ」
「どんな噂話だったのか想像付くけどね。
大体は噂通りの“存在”だと思うよ」
化け猫の毛が一瞬逆立つ。
「“閻魔の子孫”」
そう呟いた。
閻魔大王。
人間の罪を裁く地獄の大王。
それ位の知識ならあった。人間の知識を分けて貰った時に、そう言った話が好きな教師が居たのだ。
「その通り。水先家に伝わる口伝によると、なんだけどね。
だから二つの世界を行き来出来る“櫂”を持って居るのかもしれない」
何と謎めいた家系なのだろう。
私もその中の一人なのだ。
「扉を無条件に開ける事が出来るのが“櫂の持ち手”。
妖怪が人界に来る為の手段は“混血者の命”」
それにも例外はある。と、こちらを見た水先の父が優しく笑う。
「河童は共存する事を選んだ。だから唯一、人自体を仲間に引き入れる事が出来る能力を持ち得た種族なんだよ。
傷を病を治す、優しい妖怪」
誉められて居るのだろうか?
「優月を助けてくれてありがとう。これは優月の“親”としてのお礼だよ」
でも、と分厚い眼鏡から細められた目が鋭く光る。
「“父親”として言っておかなければならない事は、優月はまだ16歳の子どもだからね。本人の意思を無視しての無体な事はしない様に。」
強く釘を刺された。
両親の許可なく連れて行く事は出来ない。
それは考えれば当たり前の事なのだろう。
..
「無体って何されたのっゆづ!?」
優星が私を睨み付ける。
「キスをしただけだ」
正直に告白すると、声にならない声を上げた優星が私に飛び掛かろうと身構えた。
「お前も響夜としていたじゃないか」
本当の事を言っただけなのに真っ赤に顔を染めた優星が顔を伏せて高い悲鳴を上げて二階へ上がって行った。
「朗くんはもう少し学ばなければならない事がありそうだね」
静かな語り口調の中にも、怒りが見て取れる声色をした水先の父の顔だけは笑って居た。
笑みが怖い人はこの人くらいだろうと感じた。
「相手の気持ちを考える事を学ばないといけないわ」
そう言った水先の母も苦笑している。
相手の気持ち?
「思い遣る気持ち。よ。優月が“欲しい”なら学びなさい」
「母さん! 欲しいってなんだよぉ」
優月が叫ぶ。
頭に残ったのは“優月が欲しいなら”の言葉。
「理解出来たなら優月をくれるのか?」
思わず訊いていた。
「ちゃんと優月の気持ちを掴めたらなら許そう」
水先の父がきっぱりと宣言した。
「父さん!?」
「俺も欲しいニャあ!!」
化け猫も立候補した。
「クロスっ!!」
優月の問う声はことごとく無視された。
0
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる