河童様

なぁ恋

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水郷の百鬼夜行

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鬼火が揺れる。


今視えたものは夢幻ゆめまぼろし
違う。


俺は。
俺は……!!

口を両手で塞ぎ、声を殺して叫ぶ。

俺は、優しい黒猫を殺した。

“黒介”は俺の願いを聞いて、叶えた。

死にたがってた俺。
“俺”は、10歳の身勝手な子どもだった。


何の力もない、
ただの子ども。



涙が溢れる。

あれからどうして忘れてしまっていたのか……自分は“化け猫”。そう信じて疑わなかった。

違うな。
入れ代わった時点から化け猫に変化したんだ。


「「哀れ……よの。お前は……猫に報復された……のさ」」


鬼火が揺れる。


しゃがれた声は鬼のもの?

「「永久に……その躰に囚われたまま……救われ……ない」」


心が痛い。

「うるさい!」

「「俺……が痛みを……取り除いて……やろう」」


囁かれる甘い誘惑。


―――死ネバ楽ニナル。


“僕”は、そう簡単に思った。

でも、だから犠牲になった黒介。
優しい黒猫。

優月。
優しい優月。

俺は―――。


「「楽に……なれ」」
 
 
 
 
 
*優月side* 


木道先生の話は突拍子もなくて、でも、すんなりと納得出来た。

“妖怪の花嫁”

しっくりとする。
河童に龍に鬼。

二界の扉は混血児の命が開ける鍵。

鬼の花嫁の木道先生の子どもが父親から命からがら逃げて来て、死にたくないから河童をさらった。

一月もならない内に僕の中の色んな常識が崩れた。
否、元々そう言う不思議な事には興味があった。
河童様を信じてた様に。

何故?

何かが動き出した。

木道先生の、子どもを助けたい気持ちは解る。

けど、だからと言って誰かが犠牲になる事はないんだ。

朗と先輩がいきり立つ。
僕だって腹が立つ。

「何で、素直に頼まなかったの?」

僕の問いに驚いた木道先生が、不思議そうに僕を見る。
 
 
「何を言っているの?」

「その古書だよ」

「欲しい答えをくれたもの。役に立ったわ」

嬉しそうに微笑んだ。

「答えをくれるなら、何で助けてくれるものを訊かなかったの?」

また驚いた顔をした。

「助けて……くれたわ」

「一人で立ち向かって何を得たの?」

「葵を……」

「閉じ込める事が?」

口を強く結んだ木道先生が首を振る。

「違うわ。護って居るのよ!」

「河童は、ここに居る朗のお母さんだよ。後から来たのはお父さん。それに産まれたのは兄弟。
貴女は朗から家族を奪ったんだ」

「私は……」

「今からでも返して。そして、謝って!」

謝れば済む問題じゃないけど。

「そして……頼んで。助けてって言うだけで良いんだ」

隣に居る朗を見上げると、一度見開いた目を細めて頷いた。

「許せるとは言えないが……、妖怪は“頼む”事を知らない、だから奪う。
けれど“鬼の花嫁”とは言っても、貴女は人間だ。人間はひねくれた妖怪とは違って甘える事を知っている筈だ」
 
 
「だって……私はずっと一人で頑張って来たのよ?」

「それがいけないって言わない。
けど、どうしようもならない時は助けを求めれば良いんだよ!
だって、今目の前に助けになる人達が居るんだから」

上手く言えなくて涙が出そうだ。
一つの事に固執して周りが見えてない母親。
気持ちは解るけど、朗の事を思うと……腹立つし。

「今河童を離したら、葵は……あの子は死んでしまうっ」

「死なせはしない。
本来河童とは人間で言う“医者”の役割を持って居る。どうしても、本能でか、治してしまう傾向がある。だからこそ両親は逃げなかったんだろう。
それに、私達を呼び寄せた」
朗が静かに言った。

「呼び寄せた?」

「あれだけ強固な結界に意識だけでも入り込めるとしたら河童自らの意思以外に考えられない。
あの場所は我々河童を護る結界が施されていた。
鬼とは言え、二度とは入れはしない。強い結界に触れられるのは母本人の意思が働いたからだ」

崩れる様に椅子に座り込んだ木道先生が頭を抱える。

「あの人は、話せる状態じゃない。
葵の変わりに死んでしまうかも知れない。それが嫌で仲間を呼んだのよ!
きっとそうよ……他人の為に命を掛ける何て事。誰にも出来ない」
 
 
「出来るわよ」
今まで黙っていた姉ちゃんが言い切った。

「だって、ゆづってば、自分の事を顧みず、化け猫を助けちゃう様な子だもの。
命を狙った相手なのにね」

無鉄砲だと怒られた事を思い出して鼻を掻く。

「だから、ゆづが言うなら私は手伝うわ」
にっこりと微笑む姉ちゃん。

「優星が言うならば」
渋々とながらに先輩が呟く。

「優月が助けたいなら。私も―――両親も共に助けよう」
朗が複雑な顔をする。

「うん、助けよう。
嫌がっても、頼まれなくても、それしか道はないからね」

そう決心した時、尋常じゃない痛みが胸を刺した。

「優月?!」

息が苦しくてその場にしゃがみ込んだ。

これって?
あぁ、クロス。
クロスの痛みだ。

「……クロスは、どこ?」
可愛い黒猫。

「これは、クロスの痛みだよ」
 
辛い。
苦しい。
後悔。

哀しい。


「どこ!?」

揺れる焔と、
鈍色の肌が脳裏に浮かぶ。家で見たイメージと同じ。

「葵は、地下の扉はどこ?」

クロスが苦しんでる!
 
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