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水郷の百鬼夜行
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しおりを挟むカタカタカタ。
古書の動く音。
それさえ気にならなくなって来た。
..
そこに視えたのは?
一心不乱に自らの血で書き記す一人の女性。
その姿は信じられない程完璧で、夕陽の様に美しい赤い髪を持って居た。
ただ、ただ、心配していたのは血の同胞のこれからの行方。
両眼から流れる涙は美しく、傍らに立つ男性がそっと拭った。
女性は髪と同じ色の瞳で男性を見上げる。
「私は壁を造る。それは二界を遮る強固な壁だ。
そうすれば互いに憎しみ合わなくてすむ」
男性は頷く。
「二種族は別の道を歩むのが幸せ」
「だが、私と同じ混血の者は壁を壊す力を持つだろう。
魂の犠牲を払う事で……壁に入り口を作ってしまうのだ」
「混血は壁が出来てしまえば産まれはしないよ」
男性が安心させる様に女性を抱き寄せた。
「残念ながら、霊力の強い女はこの壁を越えられる。騙され、呼び寄せられ、或いは呼び出して、妖怪達はあらゆる手を使い混血の者を作るだろう」
「ならば、我ら水先の者はそれらを阻止しよう」
女性は微笑む。
「あぁ。信じて居るさ。
この子がその先端になるだろう」
女性は少し膨らんだお腹を擦り男性を見つめる。
「巻き込んですまない」
「何を何を。嬉しいですよ。人の命は儚く生きて居る事が退屈でした。
貴女はそれを変えてくれた。
何よりも、愛しています。未来永劫、私は、私の血筋は貴女の血を受け“壁を護る者”として使命を受け継ぐでしょう」
微笑みを反した男性は、どことなく父さんに似ている気がした。
「次の世では、私達は恋人では有り得ない。同じ血の流れの中で繰り返し、出逢いましょう」
「そうだな。“約束”だ」
約束をした二人は互いに抱き締め合う。
「“閻魔帖”は事の起こりから妖怪の特徴、対処法を記した妖書だ。
霊力を持つ女のみが読む事が出来、水先の、私達の子ども達が持てば“力”になるだろう」
「貴女は先を見通す賢者の目を持ったお人だ」
その言葉に首を振り、
「ただの混血さ」
女性は男性の背中を擦り、その耳元で囁いた。
「そなたを愛している。私は未来永劫、私らの子孫達を護り愛しむ」
流れ来る想い。
その強さに圧倒される。
私は何を視ているんだろう?
「私は護る。これから続く未来の子らを」
そう言った女性が私を見た。
視線が合って、理解した。
この人は、おばあちゃんだ。
涙が溢れた。
慈愛に満ちた女性。
水先の能力の源。
確かに、私の内に流れる血はこの人から続くものだ。
手に暖かい力を感じる。
いつの間にかギュッと瞑ってた目を開けると、手の中に“閻魔帖”があった。
「閻魔帖。教えて。河童を助けるには、どうしたら良いの?」
心から願う。
願うのは皆の幸せ。
手の平が熱くなる。
閻魔帖がペラペラと捲られ、大きく開かれたページに浮かび上がった文字。
「“混血から妖力を抜き取り、人間として治療する”」
言葉にして、出来るの? と首を傾げた。
「可能だ」
響夜くんが答えた。
「“ルージュ”には妖力を吸い取る力がある」
響夜くんが口端を上げて、にやりと笑う。
“ルージュ”って、私が“龍の宝珠”の呼び方を変えて言った、いわゆる愛称みたいなもの。
「そうなの?」
嬉しくて笑みが零れる。
「なら、今度は私達が頑張る番ね!」
拳を上げて気合いを入れた。
*優月side*
鳥肌が立った。
何故かな?
懐かしい気配がした。
全身を優しさで包み込まれる様な感じ。
何だか安心して、冷静になれた。
僕に出来る事は何かな?
「「おぉおおぉ―――……」」
葵が低い唸り声を上げる。朗を捕まえ様と手を伸ばす仕草をするも、髪に絡み取られて動かない。
そのジレンマからか唸り声は一層大きく響き渡る。
葵が躰を揺さ振りミシミシと家屋が音を鳴らす。
躰を起こそうと暴れてる。
けど、葵を包む朗の母さんの髪は足元に根を張り動きも封じていた。
そう。立ち上がれば躰はたちまち肉片と化す。
どうする?
どうしよう?
朗の背中を見つめる。
僕を護る様に前に立ってる朗。
僕を助けてくれた朗。
僕と同じ血を持つ朗。
朗と同じ河童になる僕。
深く連なる思い。
絡まる気持ち。
何故かときめいて居る自分に気付いて。
不謹慎だと諭す気持ちとは裏腹に、不思議と落ち着いてる自分に頭が冴えて来た。
「助けたい」
呟いた。
「そうだな」
朗も頷いた。
ここに居る皆を救いたい。
「ゆづ!」
甲高い姉ちゃんの声が上から降って来た。
ってか、先輩に抱かれて落ちて来た。
「この方が早い」
一言呟いた先輩が、優しく姉ちゃんを床に下ろす。
「ヤルわよ!」
無駄に元気な姉ちゃんがガッツポーズをする。
「何を?」
思わず訊いていた。
「助けるんでしょう!」
当たり前でしょう! って息巻く姉ちゃんに頷く。
そうだった。
「何か策があるのか?」
朗が葵と対峙したまま後ろに訊いた。
「“ルージュ”が何とかするの」
姉ちゃんの言葉がいつもより解らない。
「“龍珠”がどうするんだ?」
根気よく訊く朗。
「“閻魔帖”が教えてくれたの」
閻魔帖?
「木道先生が言ってた古書の事。あれは私達の最初の先祖が書いたものだったの」
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