河童様

なぁ恋

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御霊の焔

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どんなに恨まれようと、私はイザナミを手に入れたいのだ!

この地の底の世界は、ただ闇が蠢く世界。
私はこの地の王と成ろう。
誰かが囁いた。

黄泉の国。

この地の底の世界の名。
清き者は入っては来れぬ世界。

ものが住まう世界。

出産は、穢れ。
故に、男神は立ち会わぬ決まり。
それは、殆どが私の想いで育った赤子が母体を汚す絶好の機会であった。

私の想いは燃え立つ焔と、化身した。

燃え立つ赤子は母体を焦がし、壊した。

それは甘美なる出来事。

私は地の底からそれを見届け、その母体を引き摺り落とす。

穢れた肉体は、簡単に私の傍へと堕ちて来た。

上の地で父親と呼ばれた男神に八つ裂きにされた私の可愛い焔の赤子と共に……。

そして、黄泉の国に堕とされる者等を“死者”と呼ぶようになる。

穢れたものが堕ちる世界。
 
 
そして、繰り返す。

恋、乞うて、
想い、叶わず。

ただひたすらに、彼の女を求め、
彼の女、イザナミは、私を拒み続ける。

続く心痛は、
長く、長く、記憶を混濁させる。

私は誰で、何故イザナミを求めるのか……。

イザナミは、もがく。
自身の半身を求め、地の底から這い出ようと、

私はイザナミが求めるイザナギを憎み、
ただ、地の底から彼の女を囲い捉える。

囚われた二人に、
地の底の黄泉の国が、熱く、寒く、居場所を提供した。
 
 
 
地の底で、
永遠に続く追いかけっこ。
私は何時になっても彼の女に追い付く事が出来ないのだ。

思い出した真実が、躰を貫く痛みよりも、酷く私を痛め続ける。

痛みに覚醒する。

一つ眼をゆっくりと開ける。

視界に写ったのは、華やかな美しい顔。

イザナミ。
 
「「私は貴方だけが大事なの だ!」」

イザナミが、私を真っ直ぐに見て叫んだ。

貴方?
貴方とは、イザナギ。

「「私のイザナギは、貴方だけだ!!」」

大きな瞳から溢れ落ちるのは涙。

の為に、流す涙。
手を伸ばし、その涙に触れる。
美しい黒髪に、滑らか淡く柔らかい肌に触れる。

突如として、愛しいさが込み上げる。
何を拘っていたのか、と。
   
初めてを見た。

私を真っ直ぐに見つめる暖かな瞳。
その中には私への愛が溢れて居た。

霞む視界に、驚いた。
涙を流している自身に気付いて、驚いた。
 

 
ドクン。

と、心の臓が跳ねた。
同時に、涙で霞んだ視界が更に霞がかり、暗く、視界が閉じた。

何も見えない。

「「イザナギぃっっ!!」」

私を呼ぶイザナミの声と、触れ合った確かな感触が、辛うじて自身の居る場所を意識させた。

私は。私は、死した訳ではない。

躰は跳ねる。
ガクガクと足元から頭上まで痙攣を起こす。
それは、まるで他人事みたいに冷静に感じられた。

そして、震えが消えた時、胸の痛みも露と消えた。

にわかには信じられず、大きく息を吐く。
そして、確認する為に、目を開いた。

そこにはやはり、イザナミが居て、大きく開いた瞳は、不思議な色を湛えていた。

「「イザナギ……」」

震える声。
それに応える為に、口を開いた。

「イザナミ」
そして、確定する為の、言葉を吐く。
「私のイザナミ」

涙に濡れた美しい顔を歪め、イザナミは私に抱き付いて来た。

「「ああぁぁ───……」」

絞り出す様な泣き声。

私は、私のイザナミを抱き寄せ、抱き締めて、その柔らかな黒髪が流れる肩口に顔を埋めた。
 
 
*朗side*
 
黄泉のイザナミが、天叢雲剣に柄を握り、力一杯引き抜く。
それは、簡単に岩から離れた。
支えが無くなった黄泉のイザナギが、激しく躰を震わせくず折れる。
それを支えた黄泉のイザナミがその体をかき抱く。

涙を流しながら、彼への想いを吐露する。

堅くなに閉じていた黄泉のイザナギの心を開かせるには、十分な激しい気持ちをぶつけた。

すると、不思議な現象が起こる。
黄泉のイザナギの一つ目が、閉じられ、その顔に変化が起こる。
黒い煙が顔面から吹き出し、空中へ消えた。
そこに、現れた新たな顔。
黄泉のイザナギの顔は、穏やかな表情を浮かべた、二つ目と、鼻を持った、人間の顔をしていた。

「私のイザナミ」

生まれ変わった様な黄泉のイザナギは、黄泉のイザナミの肩に顔を埋めた。
 
 
優月が大きく息を吐き、
「良かった」
と、囁いた。

「そうだな」
優月に答えた。

すると、見上げる優月の眼が、不思議そうに細められた。

「朗は、僕に視せたの?」
何を?
あぁ。確かに、表には見えない事柄を視たのは私で、それを、優月に触れた手から伝えた。
「そうだな」
簡単に答えると、優月は大きく微笑んで、ありがとう。と、言った。

「ここは、とても暗くて、湿ってる。だけど、何か居る気配がない」
続く言葉は、小さな疑問。
「黄泉の国って、何も居ないの?」

それは不思議で、ゆうつきの時には、黄泉の入口から餓鬼が這い出て来た。

「誰も、居ない」
口を開いたのは、黄泉のイザナギ。
「全ての亡者達は“冥界”に消えた。黄泉からイザナミを感じ、裂け目から追いかけさせた。
そこの裂け目から、冥界を感じとったやつらは、逃げ出したのさ」
と、顔を歪めた。

「ここから逃げ出せないのは、私だけ……だが、もう良い。私のイザナミが一緒に居てくれるならば、ここに留まる事は苦痛ではない」

腕に抱く自身の女を、愛しそうに二つ目で見つめた。
 

 
冥界は、死者を新たなる世界に転生させてくれる。
それを本能で感じたのだろう。
黄泉の国は、ただ、苦痛に苛まれる場所。今の世で言う“地獄”と類似した世界だ。

冥界に行くまでに溢れた魂が、黄泉に堕ちた。
それが解放される術を持てば、絶望的世界よりも、希望を持てる世界を誰もが選ぶ。

イザナミが堕ちた黄泉の国と、背中合わせにする様に、イザナギは冥界を造った。
だから二つの世界が重なる箇所が存在したんだ。
ゆうつきが迷い込んだ世界。
仮死状態で“魂魄”が分かれていない者が迷い込む世界。

イザナミとイザナギは、どんな形になったとしても、互いを想い合い、離れられなかった。
それは無意識に、互いの存在を求め合った結果なのかもしれない。
   
最初の
最初の恋人。
最初の夫婦。
最初の父母。

現在の優良とクロス。
私達の基となるこの二神は、長い年月を経て、神で在る部分を捨て去り、自身の子ども達に、どうしようもなく近くなった。

残された黄泉の二人は、神で在った二人の初めの人間に近い感情から出来ている。

イザナギは嫉妬。
イザナミは無垢。
 
 
そしてここ黄泉で、その部分を変化させた。

目の前に居る二人は、人間とかわらないただの恋人同士。

「これで、解決……なの?」
優星が呟いた。

「解決? 姉ちゃん、ここまでは確かにそうかもしれない。けど、」
優月が振り返る。

振り返った先に在るのは黄泉の入口。
気配が感じられた。
桃の匂いと護りの気配。
閉じられた扉を開けて欲しいと伝えて来たのは、桃の樹の精霊。

それを伝えると、クロスが反応した。
千人の力で開く岩戸。
閉じた本人の意志があればそれは容易い。クロスは無意識に岩戸を開ける。
だが、開いたのは、ほんの少しの隙間。
それで十分だった。

「───っ」

そこから疾走して来たのは小さな座敷わらしの右。

「どうしたの??」優月が右を捕獲し、訊ねた。

右は、大きく口を開く。
『大変なの! 亀裂の入った壁の崩れた箇所から妖怪達が人界に雪崩れ込んで来てる。人が、襲われてるの!』
水先の母の声。
伝えられたのは残酷な現状。

「僕が壁に穴を開けたから……」

優月が倒れるかと身構えた。
だが違っていた。
振り向いたその瞳には、強い光が輝いていて、その手に握られていたのは天叢雲剣。 

「全てを終わりにさせよう!
木道親子みたいな不幸は、二度と起こさせない様に」

優月の言葉には、強い思いが感じられた。
 

優月の様子に安心し、だが、これから始まる事で無事で居られるか不安もあった。

だが、これらを乗り越えなければならないのだ。

優月が見える。
優月の魂が見える。
優月の滾る御霊の焔が視える。

私はただ、優月に着いて行く。
     
彼を助け、為に。

それは、今も昔もかわりなく、

でも、私は、ただ、優月を求め、ひた走る。

真実の彼を、
優月だけを、

優月だけが、私の存在価値。
彼の為だけに、私は存在する。

優月は躊躇い無く足を踏み出す。
彼に続くのは、今や私だけではなく。

クロスと優良。
龍と優星。 

この同じ時に生まれた縁の者達が、己の居場所を、護る為に戦うのだ。



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