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本編
世界樹ユグドラシル
しおりを挟む“精霊”とは、普遍的に大自然の至るものに宿る驚異の霊魂である。故に、姿形は無い。だが、精霊界にのみその霊魂は存在し得る。
“妖精”は、小さな姿でも、誰にでも認識出来る人間のような姿をしており、人間界の至る所にひっそりと存在して居た。
視る瞳を有する者は、妖精ならばはっきりと、その瞳に映すことが出来る。そうでない者も薄らと感じることが稀にある。
それよりも深くを視ることの出来る瞳を有する者は、更に稀だ。
その瞳を有する者だけが、精霊と触れ合うことが可能となる。
それで選ばれ、攫われたのがヴァロアだった。
それには、目的があった。
ヴァロアを攫ったのは、世界樹だ。
世界樹とはよく言ったもので、どの世界にもその根を伸ばしていた。
人間の世界も、
竜の世界でも。
この三世界は、それぞれ独立した世界であった。
けれど、精霊も竜も、人間の世界では物語として伝えられていた。
人間の世界に他の二世界の者は干渉出来たのだ。
人間は常に受け身。
故に目的に適しているのが人間なのだとも。
世界樹は考えていた。
根を伸ばし世界を視聴きして、世界をこの足で旅してみたいと。
それで観察をしていたのだ。
人間と言う種族ならば、精霊の子どもを産むことが出来る。
それは、竜が証明したことだ。
竜はそもそも“たまご”から生まれる。
なのに、人間の女に人間と同じように生ませることが出来ていた。
とある国の王女様に胤を産み付けたのだ。
色んな逸話がある。
王女に一目惚れをした竜が王女にたまごを託したとも、
王女に助けられた小竜が成竜となり、美しい青年に姿を変え王女が恋に堕ちた。とも、
真実は当人同士しか判らない。
けれども、竜は“番”を見つけたら愛し抜く。愛情深く、純粋な竜は生涯伴侶は一人だ。
そう言った性質を持っている。
そして、嫉妬深い。
反対に、精霊は、愛情を理解することが出来ない。
常に愛されて居るからだ。
愛することと、愛されることは、似て非なるもの。
だが、人間に愛されて居るからこそ存在し、精霊の中でも“世界樹”はその身を持って名の通りに世界を護って居る稀有な存在でもある。
そんな存在であるが故に、他の種族の営み。愛を知る冒険は、その生涯が長くとも短くとも輝きに満ち溢れている。と、思ったのだ。
始めの理由はそこから、ヴァロアを攫って、彼女の為に自らの姿を固定させ、惑わせた。
だが、ヴァロアは、そんじょそこらの娘ではなかったのだ。
独立心の強い、その時代では珍しい稀有な女性。
だが、そんな性格に、ユグドラシルは魅せられて行く。
何せ己に見向きもしないのだ。
何年も、何年も。
“口説く”なんてことをしたのも初めてであった。
ユグドラシルの人型は、どの種族にも、美しく映る筈で、何年も思い悩むことなど初めて。
それが“恋”であると、人間をよく知る小さな妖精が囁いた。
驚いた。
こんなにも、甘く、辛く、楽しいことがあったなど、その為、ユグドラシルは必要以上に人間に傾倒して行く。
元々、人間の営みの“愛情”の部分が不思議でならなかった。
小さな妖精の囁きに、惑わされたと言えるのかも知れない。けれど、ユグドラシルは、ヴァロアに溺れて行く己が嫌ではなかったのだ。
ヴァロアが歳を取り、弱り、死に行く様を見て、それでも、どうしても諦めきれず、己の力を持って、拒否されていた祝福を与えた。
そして、最後の足掻きで呪いのような口説きの文句を、ヴァロアにぶつける。
もう、それでダメであるのなら、諦めよう。と、考えていた。
胸元が、ズキン と、痛んだ。
そして、次に、ヴァロアの受け入れる。との言葉に、痛みなど露と消え、自ら生え生まれる金色の花が空から降り注いだ。
胸も頭も驚く程に鼓動が響き渡り、嬉しさで胸が潰れそうになる。
自分は生涯、この日のことを忘れないだろう。と、この日を境に、ヴァロアも態度を改めた。
愛すると決めた女は、素直になり、愛の言葉に嬉しそうに笑顔をくれた。
それは穏やかで楽しい年月であった。
二人の間に生まれた子らは、可愛く、愛おしかった。
その内の一人が、人間の世界に行きたいと言った。
人間として生きたい。と、男性型の人間の姿に完全に姿を変化した後で、人間の世界を見に行った時、とある女性を見初めたのだと言う。
ユグドラシルは、最初の目的をそこで思い出す。
この足で、
───子どもの足は強くしなやかだ。
この目で、
───子どもの金の瞳は強い光を称えている。
世界を旅したい。と、
なので、子どもの言葉に快く了承し、人間の世界に送り出す。
人間の生は短いことも、性格が短気なことも、色々な短所を言い連ね、それでも頑なに、それでもいい。と、納得した上での旅立ち。
そして、見事、その娘を伴侶とした。
子どもが生まれた時、祝福に、と、金色の花を送った。
それ以降、長子に送る贈り物となる。
そして、一年毎に、幸せであった証として、川に流す儀式となる。
金色の花が祝福の花と言われるようになるのは、とある長子が花を手に願いを口にしたことに始まる。
愛しい子には、幸せになって欲しい。
そこから、どんな願いであれ、叶えることを始めた。
“祝福の花”は、本当の意味で“贈り物”へと変化したのだ。
幾年月も、穏やかで、幸せであった。
そこに、変化が訪れる。
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