35 / 56
本編
※見えない心① ~アウローレンス~
しおりを挟む「ん……殿下っ」
私は飢えている。
全てのことに、飢えている。
生きることさえ飢えの対象。
良い匂いのするアンスの首元を執拗に舐める。
「あ……ダメ、だめです!」
と、頭を押さえられ、その温もりから引き離される。
「なぜ? お前は私のものだろう?」
「くっ───……そうです! けれど、その姿でわっ」
全身を真っ赤にして我がアンスは全身で私を拒む。
「姿?」
「今の殿下は、子どもです!」
「だから?」
「私は幼い子どもと、どうこうなど出来ません!」
あぁ。なるほど。この姿がダメだったのか。
「判った」
素早く宙から花を呼ぶ。
ファン
と、音を鳴らし花が手に落ちて来る。真っ赤な私だけの花が。
躊躇なく口にほおると、先程竜化し枯渇した魔力が補われ、躰の変化が起こる。
ギシギシと、骨の伸びる音。
手足が伸びて、その手をアンスの頬に伸ばす。
「───……これなら、いい?」
両手を添えて顔を近付け、その唇を塞ぐ。軽く触れて、強く押し付け、次第に乱暴に貪り、その唇を割り舌を差し入れる。
押し倒し、思う存分口内を味わう。
荒くなる息遣いに、甘やかな吐息が混じる。
「は……っ、」
「アンス……あ」
あ……。私は何を言おうとした?
いや、閨の言葉は甘く囁くものだ。だから、不自然ではない。
だが言葉につまり、動きの止まった私を、アンスの柔らかな翠色の双眼が問うように見つめていた。
「殿下……俺は貴方のことが好きだ。なんなら愛している。俺が貴方を愛しているんだ」
アンスは布の上からでも解る逞しい上体を起こし、私をゆるりと抱き締めた。
「俺が、殿下。アウロ様を愛している」
それはそれは優しく抱き締められ、頭を、背中をさすられる。
されるがままに、アンスの胸元を両手で強く掴む。
そのまま押し倒され、啄むような優しい接吻が顔中に落ちて来た。
有言実行。愛しさを瞳に映し、十分に感じられる愛情が私に降り注ぐ。
偽物ではない。
その想いが、その瞳から降り注ぐ。
胸が温かい。
知らず、目尻が熱くなり、知らぬ間に零れる雫を、アンスがその唇で拭い去る。
「アン……ス……」
「あぁ。愛している。アウロ様……アウロ……」
温かい。
アンスの何もかもが、温かくて、私を暖める。
私の全てを温める。
思わず背に回した腕に力が入り、触れていた唇が深く、深くなる。まるで一つになったかのような錯覚を起こした。
甘やかな時間。
それが、破られる。
ドコン!
と、爆発音。錠を掛けた扉が壊されたことを瞬時に理解する。
「失礼します」
無表情な男が入って来た。
アンスと同じ色合いの髪だな。と、呑気に思った次の瞬間、視界に飛び込んで来たのは、ヴィクトル。
「あ……」
小さく声を上げたヴィクトル。動揺したのは彼女の方で、私は冷静にその姿を視界に収めていた。
アンスが動く。その熱が離れるのが嫌で、ぐっと襟を握り込んだ。
「あぁ。大丈夫。どこにも行かないから」
優しく握り込んだ手に触れられ、安堵し離す。
「無粋だな」
逢瀬の邪魔をされ、気分が悪い。
「もう、いいだろう?」
男が私に問う。
「どう言うことだ?」
「ヴァロア様はもう貴方のものではない」
「ヴァロア? あぁ、ヴィクトルのこと。いや、それは私のものだよ」
「貴方にはアンスが居るだろう?」
「アンスは私のものなのは否定しない。ヴィクトルも私のものだ」
何を当たり前のことを言っているのか。
「ヴァロア様は僕のものだ」
男が淡々と言葉にするのは事実とは違う戯言。
「“ヴァロア”なるものがそなたのものであるのは許そう。だが、“ヴィクトル”は私のものだ」
私は事実しか言わない。
怒気が室内を渦巻く。
思った以上のその魔力に瞬時に体制を整える。
「訳の分からぬことを言うな。誰でさえ、望まぬ限りは己は己のものだ!」
望まない?
「ヴィクトルは、私と添い遂げたいと言った。取り戻すその過程でアンスは私のものになった。二人は望んでいる」
「会話にもならないな」
男は怒気を隠そうともしない。
怒気は魔力を纏う。その質は濃厚。
私を庇うように前に居るアンスがその魔力に押されていた。
自分のものを害されるのは気分が悪い。
「やめろ」
発する言葉と共に、躰から溢れ出す竜気。
それで男の魔力を押し返す。
周りに小さな火花がちりちりと生まれる。
「「ダメだよ」」
大きな圧迫感で、瞬時に竜気と魔力が抑え込まれる。
なに?
「ロアと、ユグだ」
金色の粉が頭上から零れ、視界に飛び込んで来た小さな存在。妖精?
認識した次の瞬間、小さな存在が揺らいで、薄い幻のような人型の大きさに変化した。
「ヴァロアと、ユグドラシルだ」
ふわふわの茶色の髪の空色の大きな瞳のヴァロア。
薄い金色の髪と瞳のユグドラシル。
「貴方の祖です」
二人は瞳を細め、静かに頭を垂れた。
「ヴァロアと……ユグドラシル?」
ユグドラシル。それは世界樹。
伝説の精霊。
それが私の祖?
力ある精霊が……なのに……、
「……私の……願いは……ヴィクトルが傍で笑っていてくれること。ただ、それだけだった……」
世界樹の力があれば、容易いことではなかったのか?
「傍に居れば、それも叶えられたかも知れない。今更、正すことも出来はしない。せめて、健やかに今の生を全うしてくれたらと……見護るだけでは足らないと、世界の隔たりを渡って来た」
静かに語る金の瞳は、確かに我らがリロイ家の血筋。
「何故、何故あの時には現れなかった?」
「我は世界の中心。こちら側に来るには条件が揃わなければならなかった」
心は見えないもの。その理由が本当であるかは、判らない。
後の祭りなのだから。最早関係ない
。
「私は、許さない……」
目の奥が熱くなる。
胸が苦しい……
抑えられていた竜気が、魔力が膨らむ。
「許さない」
あの時の、あの絶望感。
心の空洞の広がる感覚。
怒り、虚しさ。
世界の何もかもが、私を全否定する。
心が爆発する。
「ダメだ……アウロ様!」
気付くと、目の前に飛び出た何かを大きな牙で抉った後だった。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる