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退学
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退学届けを出したあと――しばらく何もせずに、ぼうっとしている毎日が続いた。
こうして、部屋にうずくまっていると、少しづつ気力を回復して行くのを感じる。
しばらく、疲れていたから、うずくまって毎日を送っているだけでも、自分を取り戻していくことを、感じるのだ。
少し酷い顔をしていたので、また綺麗にひげも剃ってしまうと、両親に何と言おうか、考えあぐねた。
両親に色々、言い訳を考えた。
高山かれんさんを、失ってしまったから――
相談相手である、ゆうきが、もはやいないから――
そのどれもが、しっくりと来ずに、僕は考えをつかめなかった。
決まっていた卒業まで反故にして、伝える理由が、やはり見つからなかった。
僕は街へ出ると、公衆電話から、立花洋子に、電話をかけた。
電話ボックスに入ると、立花洋子の携帯電話にダイヤルを、回した。
しばらく待つと、プチっという音とともに、立花の声が流れ出した。
「みきとくん? 森くん? 一体どうしたのよ? 大学にすっかり来なくなっちゃって」
「そうだね。もう行きたくない気分になったんだ。理由は色々」
僕が、理由は色々と言うと、電話機の奥で、立花が押し黙った。
しばらく、何かを考えているようだった。
「ちょっと会ってお話ししない? 私、今だったら出れるから」
立花がそう言うので、断る理由もないから、僕は分かったと言った。
立花が、続けて、ええと言う。
「もう、学校の用事終わるから、そしたらすぐ行くからね。学校の駅前の喫茶店なんかでも良い?」
「分かりました」
しばらく、また立花が押し黙って、ふーと息を吐いた。
会う約束を、取り付けたら、少し安心したようだった。
「何でも一人で決めてしまう性格なのね。私そのことに、気が付けなかった。みきとくん、ごめんね」
立花が、ごめんね、と言って謝った。
「じゃあ、待っているから、ゆっくりで良いから来てね」
そうして、電話ボックスの、電話が切れた。
僕はしばらく、電話ボックスの中で、立ち尽くしていると、外に出て、また学校の方へ向かって歩き出した。
立花は、ゆっくりと歩いて、喫茶店の中に入って来た。
ゆったりとした服を着ている。
立花の、背の高い姿は、喫茶店の店内でも目立った。
僕は席に着いて、アイスコーヒーを飲んでいた。
僕の姿を見つけると、立花も座って、アイスティーを注文して飲み始めた。
「調子どう?」
「うん」
僕がそう言うと、立花が、よかったと言った。
喫茶店の店内は、昼間から、混んでいた。
少し気忙しく落ち着きがなかったが、ずっと家にばかりいた、僕には居心地が良かった。
「大学には戻らない? 退学届けを出しちゃったんだっけ?」
「うん、そうだよ」
僕がそうだよ、と言うと、立花が、そうなんだと言った。
しばらく沈黙が流れて、僕はアイスコーヒーに口をつけた。
「前に言っていた、亡くなった人のことを気にしてる?」
「よく分かったね。そうだよ」
そう言うと、二人でうつむいた。そして、立花もアイスティーをストローで飲むと、何か考えたようになって、口を開いた。
「森くん、考えたことある? 死んだ人は、二度と戻って来ないのよ。どんなに愛した人で有っても……。それに、みきとくんには、それからがあるのよ」
立花の、「それから」という言葉が、重くすぐにのしかかった。
そうだ、それから。
かれんは、もう生きていない。
僕は、かれんが死んだ後の、それからの人生を生きなければならないのだ。
しかし――僕は、妙な不安と納得の行かない気持ちを抱えていた。
「学校行かなくなってどうしてるの?」
「毎日好きな本を読んでいる。ギンズバーグの詩集とか、昔の梶井基次郎の小説とか」
へえ、と立花が言って、しばらくまた考え始めた。
喫茶店の店内が、少し空いて、声が通るようになった。
僕は、コーラが飲みたくないかな、と立花に聞くと、要らないと言われたので、一人分のコーラを頼むことにした。
「大丈夫? これから。私も毎日……。会ったり出来ないし」と、立花が目を潤ませて言った。
「たぶん」と、僕が言った。
もう少し時間が有ったら良いのにね、色んなことに対して、と立花が言った。
僕もうなずいて、うつむいていた。
その瞬間、立花の頬に、一筋の涙が伝った。
スッと、線のような早さで、涙が流れて、僕はそれが、立花が泣いているのだとすぐに気が付けなかった。
「あたしもう帰りたい。森くんが最低の男だって分かったわ。それからを生きれない人が、どうやって社会に残れるの」
立花は、早口で周囲を気にしながら言うと、本当に立ち上がってしまった。
僕も、コーラを残したまま立ち上がると、勘定をすませて、店の外に出た。
そして――すぐにそこで、僕たちは別れた。
立花洋子は、何も言い残さなかった。
こうして、部屋にうずくまっていると、少しづつ気力を回復して行くのを感じる。
しばらく、疲れていたから、うずくまって毎日を送っているだけでも、自分を取り戻していくことを、感じるのだ。
少し酷い顔をしていたので、また綺麗にひげも剃ってしまうと、両親に何と言おうか、考えあぐねた。
両親に色々、言い訳を考えた。
高山かれんさんを、失ってしまったから――
相談相手である、ゆうきが、もはやいないから――
そのどれもが、しっくりと来ずに、僕は考えをつかめなかった。
決まっていた卒業まで反故にして、伝える理由が、やはり見つからなかった。
僕は街へ出ると、公衆電話から、立花洋子に、電話をかけた。
電話ボックスに入ると、立花洋子の携帯電話にダイヤルを、回した。
しばらく待つと、プチっという音とともに、立花の声が流れ出した。
「みきとくん? 森くん? 一体どうしたのよ? 大学にすっかり来なくなっちゃって」
「そうだね。もう行きたくない気分になったんだ。理由は色々」
僕が、理由は色々と言うと、電話機の奥で、立花が押し黙った。
しばらく、何かを考えているようだった。
「ちょっと会ってお話ししない? 私、今だったら出れるから」
立花がそう言うので、断る理由もないから、僕は分かったと言った。
立花が、続けて、ええと言う。
「もう、学校の用事終わるから、そしたらすぐ行くからね。学校の駅前の喫茶店なんかでも良い?」
「分かりました」
しばらく、また立花が押し黙って、ふーと息を吐いた。
会う約束を、取り付けたら、少し安心したようだった。
「何でも一人で決めてしまう性格なのね。私そのことに、気が付けなかった。みきとくん、ごめんね」
立花が、ごめんね、と言って謝った。
「じゃあ、待っているから、ゆっくりで良いから来てね」
そうして、電話ボックスの、電話が切れた。
僕はしばらく、電話ボックスの中で、立ち尽くしていると、外に出て、また学校の方へ向かって歩き出した。
立花は、ゆっくりと歩いて、喫茶店の中に入って来た。
ゆったりとした服を着ている。
立花の、背の高い姿は、喫茶店の店内でも目立った。
僕は席に着いて、アイスコーヒーを飲んでいた。
僕の姿を見つけると、立花も座って、アイスティーを注文して飲み始めた。
「調子どう?」
「うん」
僕がそう言うと、立花が、よかったと言った。
喫茶店の店内は、昼間から、混んでいた。
少し気忙しく落ち着きがなかったが、ずっと家にばかりいた、僕には居心地が良かった。
「大学には戻らない? 退学届けを出しちゃったんだっけ?」
「うん、そうだよ」
僕がそうだよ、と言うと、立花が、そうなんだと言った。
しばらく沈黙が流れて、僕はアイスコーヒーに口をつけた。
「前に言っていた、亡くなった人のことを気にしてる?」
「よく分かったね。そうだよ」
そう言うと、二人でうつむいた。そして、立花もアイスティーをストローで飲むと、何か考えたようになって、口を開いた。
「森くん、考えたことある? 死んだ人は、二度と戻って来ないのよ。どんなに愛した人で有っても……。それに、みきとくんには、それからがあるのよ」
立花の、「それから」という言葉が、重くすぐにのしかかった。
そうだ、それから。
かれんは、もう生きていない。
僕は、かれんが死んだ後の、それからの人生を生きなければならないのだ。
しかし――僕は、妙な不安と納得の行かない気持ちを抱えていた。
「学校行かなくなってどうしてるの?」
「毎日好きな本を読んでいる。ギンズバーグの詩集とか、昔の梶井基次郎の小説とか」
へえ、と立花が言って、しばらくまた考え始めた。
喫茶店の店内が、少し空いて、声が通るようになった。
僕は、コーラが飲みたくないかな、と立花に聞くと、要らないと言われたので、一人分のコーラを頼むことにした。
「大丈夫? これから。私も毎日……。会ったり出来ないし」と、立花が目を潤ませて言った。
「たぶん」と、僕が言った。
もう少し時間が有ったら良いのにね、色んなことに対して、と立花が言った。
僕もうなずいて、うつむいていた。
その瞬間、立花の頬に、一筋の涙が伝った。
スッと、線のような早さで、涙が流れて、僕はそれが、立花が泣いているのだとすぐに気が付けなかった。
「あたしもう帰りたい。森くんが最低の男だって分かったわ。それからを生きれない人が、どうやって社会に残れるの」
立花は、早口で周囲を気にしながら言うと、本当に立ち上がってしまった。
僕も、コーラを残したまま立ち上がると、勘定をすませて、店の外に出た。
そして――すぐにそこで、僕たちは別れた。
立花洋子は、何も言い残さなかった。
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