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願わくば、最期は君の隣で
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それは去年の、夏もまだまだこれから、というくらいのときのことだった。そのとき見た花火はとても綺麗で、1年経った今でも鮮明に覚えていた。別に初めて見た花火、というわけでもないが、その花火に関しては特別だった。
「始まっちゃうよ~!早く行こ!」
無邪気に笑いながら駆け出す香澄に手を引かれ、俺は一緒に駆け出した。
「そんな急がなくても、花火は逃げないよ」
「も~!こういうのは雰囲気!花火といえば、恋人同士で手繋ぎながら花火見たりするでしょ?!」
「恋人同士じゃなくて、幼馴染だろ」
「男女で2人で花火大会なんて恋人みたいなものでしょ!」
「わかったわかった、行くよハニー」
そういうと満足げな顔をして、再び彼女は駆け出した。
ひゅー、ドーン!と盛大な音を立てて花火は始まった。肝心な香澄はみたらし団子を片手に花火に見惚れていた。
「わぁ~、きれい……」
確かにな。と思った。それ以外の特別な感情はない、はずだった。つー、と自分の頬を涙が伝うのに気付いて、慌てて袖で顔を拭った。
「?涼太、どうしたの?」
「いや、何でもないよ。花火綺麗だね」
「ね!ほんとに。来れてよかったぁ、一緒に見てくれてありがとね、涼太」
「ん、別に。俺も見たかったし」
「ねぇ、来年もまた、見られるよね?」
「あぁ、きっとな」
「約束だよ」
「ん」
そんなことを話しながら、ゆっくり帰り道を歩いていたとき。香澄と横断歩道を渡ろうとしたときだった。
遠くから猛スピードでこちらに突っ込んでくるものが何だか、俺には一瞬分からなかった。が、すぐに知らされることになった。自分の呆気に取られて動かないはずの体が勝手に動き出す。ふと横を見ると、香澄が俺の体を突き飛ばしていた。
その体感数秒、何分もあったかのような数秒で、香澄の体は宙を舞っていた。
「か……すみ……?」
あまりに掠れた声で、その声が自分のものだとはすぐに気付かなかった。通りかかった通行人が救急車と警察を呼んでいたらしく、それからしばらくしてすぐに激しい騒音と共に到着した。それからの記憶はあまりない。
その次の日、携帯に届いたひとつの電話で目を覚ました。
「はい、吉田です」
「岡崎香澄さんのお連れの方でお間違いないですか?」
声の正体にはかすかに聞き覚えがあった。
「はい、そうです」
「今お時間よろしければ、岡崎さんの容態についてお話したいと思うのですが、ご都合いかがでしょう」
声の主はどうやら香澄の担当医のようだ。
「分かりました、すぐ行きます。30分ほどかかります」
「お待ちしてます」
担当医のやけに冷酷な声を聞いていると現実を胸に突き刺されているようで、嫌でも昨日起きたことを現実として認識し始めていた。
到着し、受付を手短に済ませたあと、医者はすぐに俺を呼んだ。
「伊乃上涼太さん」
ガララ、と音を立てながら、綺麗で清潔に保たれた無機質なドアを開けると、無表情な医者がそこにいた。無理やり感情を殺しているようにも見えた。
「岡崎さんのお連れさんですね。さて、岡崎さんの容態ですが、誠に残念ながら、搬送されたときには既に助からない状態でした。外傷も大きかったですが、何よりも内臓部の損傷が大きくて……」
「お話中すみません、これ以上聞けそうにないので結果だけ聞けて満足です。少し落ち着いてからもう一度話をさせてください」
ガシャンと大きな音を立てながら乱暴に部屋を出ていった。
香澄が亡くなった事実をただでさえ脳が拒んでいたが、受け入れないことは自覚していた。しかしそれでも、あの無機質なドアや、無表情な医者の声で香澄の死について語られるのが鋭利で強力なナイフのように感じてしまった。
そのナイフをひたすら耳に、心に突き立てられるような空間から一刻も早く逃げ出したかった。
香澄が死んだ、という現実をハッキリと、鮮明に話されたことでパニックを起こしていたのかもしれない。しかしそのときの俺にはそんなことに気付く方法などなかった。
パニックになった脳のまま、バスに乗ることも忘れてひたすら歩いていたときだった。自分の身体が、気付いたら逆さを向いていた。そのとき初めて、俺は信号を無視して歩いていたことに気付いた。スピードを出していて止まることも避けることも許されなかった車は俺の身体を跳ね飛ばし、引き摺りながら停車した。段々と遠くなる意識の中、遠くで叫ぶ声が聞こえた気がした。しかし全てがどうでもよくなった俺の頭には、鬱蒼と茂るジャングルの木のように一つの思考が頭を支配していた。願わくば、最期は君の隣でいられたら良かったのに、と。
あとがき
ここまで読んでくださってありがとうございます。
主人公の涼太は、香澄のことが大好きでした。素直になれない涼太は自分の気持ちをハッキリ伝えることもできず、それでも恋人かのように振る舞い、いつでも明るくいてくれる香澄にゾッコンでした。そんなある日、いつものように恋人らしく振る舞う香澄に突如とした理不尽が襲います。
そう、これは涼太の、素直になれなかったことから来る、なんであんな冷たくしてしまったんだろう、なんで好きと伝えられなかったんだろう、という後悔を上手く言葉にできず、とにかくパニックになっていたのでしょうね。
この話は、反面教師です。僕は素直に生きることをとても大事にしています。好きなものには好きと言うし嫌いなものはやんわりでも嫌いと伝えます。自分の気持ちをしっかり伝えて、相手に知ってもらうのはとても大事なことだと思います。
これを読んでくださったあなたにも、どうかこのような後悔はしないでほしい。そしてこの話を書いた僕も、ここに僕の過去の過ちを物語として残しておくことで、これから先、まだまだ長い道のりの中、少しでも後悔せずに生きていけるのではないかなと、そう思います。
長くなってしまいましたが、お楽しみいただけたら幸いです。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。次回作でお会いしましょう、それでは!
「始まっちゃうよ~!早く行こ!」
無邪気に笑いながら駆け出す香澄に手を引かれ、俺は一緒に駆け出した。
「そんな急がなくても、花火は逃げないよ」
「も~!こういうのは雰囲気!花火といえば、恋人同士で手繋ぎながら花火見たりするでしょ?!」
「恋人同士じゃなくて、幼馴染だろ」
「男女で2人で花火大会なんて恋人みたいなものでしょ!」
「わかったわかった、行くよハニー」
そういうと満足げな顔をして、再び彼女は駆け出した。
ひゅー、ドーン!と盛大な音を立てて花火は始まった。肝心な香澄はみたらし団子を片手に花火に見惚れていた。
「わぁ~、きれい……」
確かにな。と思った。それ以外の特別な感情はない、はずだった。つー、と自分の頬を涙が伝うのに気付いて、慌てて袖で顔を拭った。
「?涼太、どうしたの?」
「いや、何でもないよ。花火綺麗だね」
「ね!ほんとに。来れてよかったぁ、一緒に見てくれてありがとね、涼太」
「ん、別に。俺も見たかったし」
「ねぇ、来年もまた、見られるよね?」
「あぁ、きっとな」
「約束だよ」
「ん」
そんなことを話しながら、ゆっくり帰り道を歩いていたとき。香澄と横断歩道を渡ろうとしたときだった。
遠くから猛スピードでこちらに突っ込んでくるものが何だか、俺には一瞬分からなかった。が、すぐに知らされることになった。自分の呆気に取られて動かないはずの体が勝手に動き出す。ふと横を見ると、香澄が俺の体を突き飛ばしていた。
その体感数秒、何分もあったかのような数秒で、香澄の体は宙を舞っていた。
「か……すみ……?」
あまりに掠れた声で、その声が自分のものだとはすぐに気付かなかった。通りかかった通行人が救急車と警察を呼んでいたらしく、それからしばらくしてすぐに激しい騒音と共に到着した。それからの記憶はあまりない。
その次の日、携帯に届いたひとつの電話で目を覚ました。
「はい、吉田です」
「岡崎香澄さんのお連れの方でお間違いないですか?」
声の正体にはかすかに聞き覚えがあった。
「はい、そうです」
「今お時間よろしければ、岡崎さんの容態についてお話したいと思うのですが、ご都合いかがでしょう」
声の主はどうやら香澄の担当医のようだ。
「分かりました、すぐ行きます。30分ほどかかります」
「お待ちしてます」
担当医のやけに冷酷な声を聞いていると現実を胸に突き刺されているようで、嫌でも昨日起きたことを現実として認識し始めていた。
到着し、受付を手短に済ませたあと、医者はすぐに俺を呼んだ。
「伊乃上涼太さん」
ガララ、と音を立てながら、綺麗で清潔に保たれた無機質なドアを開けると、無表情な医者がそこにいた。無理やり感情を殺しているようにも見えた。
「岡崎さんのお連れさんですね。さて、岡崎さんの容態ですが、誠に残念ながら、搬送されたときには既に助からない状態でした。外傷も大きかったですが、何よりも内臓部の損傷が大きくて……」
「お話中すみません、これ以上聞けそうにないので結果だけ聞けて満足です。少し落ち着いてからもう一度話をさせてください」
ガシャンと大きな音を立てながら乱暴に部屋を出ていった。
香澄が亡くなった事実をただでさえ脳が拒んでいたが、受け入れないことは自覚していた。しかしそれでも、あの無機質なドアや、無表情な医者の声で香澄の死について語られるのが鋭利で強力なナイフのように感じてしまった。
そのナイフをひたすら耳に、心に突き立てられるような空間から一刻も早く逃げ出したかった。
香澄が死んだ、という現実をハッキリと、鮮明に話されたことでパニックを起こしていたのかもしれない。しかしそのときの俺にはそんなことに気付く方法などなかった。
パニックになった脳のまま、バスに乗ることも忘れてひたすら歩いていたときだった。自分の身体が、気付いたら逆さを向いていた。そのとき初めて、俺は信号を無視して歩いていたことに気付いた。スピードを出していて止まることも避けることも許されなかった車は俺の身体を跳ね飛ばし、引き摺りながら停車した。段々と遠くなる意識の中、遠くで叫ぶ声が聞こえた気がした。しかし全てがどうでもよくなった俺の頭には、鬱蒼と茂るジャングルの木のように一つの思考が頭を支配していた。願わくば、最期は君の隣でいられたら良かったのに、と。
あとがき
ここまで読んでくださってありがとうございます。
主人公の涼太は、香澄のことが大好きでした。素直になれない涼太は自分の気持ちをハッキリ伝えることもできず、それでも恋人かのように振る舞い、いつでも明るくいてくれる香澄にゾッコンでした。そんなある日、いつものように恋人らしく振る舞う香澄に突如とした理不尽が襲います。
そう、これは涼太の、素直になれなかったことから来る、なんであんな冷たくしてしまったんだろう、なんで好きと伝えられなかったんだろう、という後悔を上手く言葉にできず、とにかくパニックになっていたのでしょうね。
この話は、反面教師です。僕は素直に生きることをとても大事にしています。好きなものには好きと言うし嫌いなものはやんわりでも嫌いと伝えます。自分の気持ちをしっかり伝えて、相手に知ってもらうのはとても大事なことだと思います。
これを読んでくださったあなたにも、どうかこのような後悔はしないでほしい。そしてこの話を書いた僕も、ここに僕の過去の過ちを物語として残しておくことで、これから先、まだまだ長い道のりの中、少しでも後悔せずに生きていけるのではないかなと、そう思います。
長くなってしまいましたが、お楽しみいただけたら幸いです。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。次回作でお会いしましょう、それでは!
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