龍魂

ぐらんじーた

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新たなる龍

心の叫び

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山道を全速力で走りながら、レイラは集中していた。
『龍眼』は使わない。ただ、先程見えた『もの』を再度見ようと、前だけでなく、周囲をも警戒している。
そのせいで、枝葉で皮膚に傷が入ることもあるが、彼女は気にしない。
なぜなら、それ以上に気になる『もの』が見えていたからだ。

(もしかして……『あれ』が……!?)

幾度となく振り返っていた時、自分には不思議なものが見えていた。
彼らが何も言わなかったことから、見えていたのは自分だけだったと考えている。

その見えていたものとは、光の線。
飛ぶ虫の軌跡がそのまま光となって、宙に描かれていたかのような線。
一瞬、目がバグったのか?とも思ったが、光の線は消えない。
しかも、その光の線は、別荘へ向いて伸びていたのだ。

確証はないが、レイラはあれを『光の道』だと考えていた。
龍力の伸び悩みで悩んでいた時期に聞こえてきたために、直接関連付けるのは強引かもしれない。
ただ、それほどまでに、この光の線は、彼女の心を惹きつけた。

(まだ、見える……!)

決して濃くない光の線。
見失ってしまうそうなほど、か弱い光の時もあるが、確実に伸びているし、見えている。
相も変わらず、別荘の方向へと。

これが何を意味するのか分からないが、無意味には思えない。
枝葉に引っかかれながらも、レイラは走る。

「皆さん!!」

レイラが戻ったとき、既に戦闘は終わっていた。
光を見ることに集中し過ぎており、戦闘状態の確認が疎かになっていた。

「そんな……!!」

周囲は血まみれで、ハーストの別荘も半壊している。

「シャレムさん!アリシアさん!ウィーンさん!!」

アレク含め、四聖龍は全員地面に転がされている。
ただ、命までは取られていないようで、虫の息だ。『まだ死ねない』と、生命の火は燃えている様子。
もし自分が戻らなかったら、彼らが逝くのは時間の問題だっただろう。

光の線は、このタイミングを見計らって見えた幻想?

「敵は……!」

周囲を見るが、誰もいない。
時間から逆算しても、遠くには行っていないだろうし、あの口ぶりから、周囲を探しているはずだ。
とにかく、今は四聖龍の回復を急がないと。

「光龍……お願い……!!」

レイラは両の手を合わせ、龍力を高める。

「皆さんを……助けて……!!」

生半可な力では、彼らの命を取り留めることはできない。
致命傷の傷すら癒す、最強の治癒力が必要だ。それも、四人分。
今の実力では、救いきれない。
かといって、中途半端な治癒術では、命は救えても、意識が戻るか?再び戦えるか?などの予後を考えた際、不安が残る。
命あればいい、と思うかもしれないが、良くも悪くもレイラは強欲だった。

死を覚悟してまで、戦ってくれた。
そんな彼らに恩を返すには、「もう歩けないけど、助かって良かったね」では到底自分を許せない。

集中し、『フル・ドラゴン・ソウル』を超えた力を発現させるレイラ。
死にかけの人間を治療した経験はないが、出来ることは一つだけ。
自分が持っている、最大龍力を注ぎ込むしかない。

「……足りない」
「え?」

突如、声が頭に響く。この声、聞き覚えがある。

「光……龍……?」

ぞわ、と鳥肌が立つ。

「足りない。救いきれない……」

レイラの呼びかけを無視し、頭の声は響き続ける。
もたもた話している時間はないということか。

「そんな……!!どうすれば……!!」
「……どうしても、救いたい?」
「!!……もちろんです!!」
「なら、命を燃やして……寿命が大きく縮むけど……『禁忌』じゃない」
「やります!!教えて!!光龍!!」

レイラは迷わない。
命を燃やせと言われ、一瞬ヒヤリとした。禁忌はさすがに犯せない。と。しかし、代償が寿命なら構わない。
自分の寿命で、四人もの英雄の命を救えるのなら、安い買い物だ。

「あなたの覚悟……受け取ったわ」
「!!」

レイラを中心に神聖な光が発せられ、四人を、否、ハーストの別荘の周囲一帯を包んだ。
そして、再度見える光の線。

「!」

一瞬だけ、光の線が光龍の紋章を描くのを手助けしたようにも見えた。

「こんな、こんな大きな紋章が書けるなんて……」

力強く、大きな光龍の紋章。
回復魔法でこんなにも力強い龍力を感じるとは。

攻撃系の術技ならまだ分かるが、回復魔法でこのクオリティの紋章は、(当然だが)見たことも聞いたこともない。
リゼルのときもそうだったが、命や魂を犠牲にして得る力は、凄まじいものがある。
この力前提で戦うことは断じてないが、龍魂の底力の深さを痛感する。生命エネルギーは、龍力エネルギーに直結するらしい。

神聖なる癒しの光は、四聖龍の傷を物凄い速さで塞いでいく。
今までの治癒術とは比較にならないスピードで、全てのダメージを癒しきった。

と、四聖龍の意識が戻り始める。

「う……」
「ッ……!」

むく、とシャレム、アリシア、ウィーンやアレクが起き上がる。
シャレムとレイラは目が合う。シャレムはそこで動きが止まる。

「…………」

レイラを見つめ、周囲を確認。
そして、レイラに視線を戻す。

「はは……」

乾いた愛想笑いを浮かべるレイラ。
次の瞬間、シャレムにビンタされた。

「!?」

頬に痛みが走る。
レイラは頬を押さえ、彼女を見る。

「何で戻ってきた!!?」
「え……」

彼女が戻ってきた理由は様々だ。
それを一々説明しているほど時間もないし、何より端的に言わないとシャレムが聞く耳を持たないだろう。

「それは「アタシたちは!!アナタたちを死なせないために覚悟を決めた!!」
「シャレム……」

シャレムと同じように状況が読めてきたアリシアは、力なく彼女の名を言う。

「一人、また一人って倒れた!!アタシも必死に時間を稼いだ!!」
「ッ……!」
「それなのに……アンタが戻ってきたら……」

フルフルとシャレムが震えだす。
その目には、涙が溢れている。

「意味、ないじゃない……!!」

カリスマモデルのシャレムが、感情を高ぶらせることもあるが、涙を流すことがなかったシャレム。
その彼女が、泣いている。

「死ぬかと……思った……!!」
「ッ……!!」

シャレムに抱きしめられ、レイラもそこで限界が来た。ぶわ、と涙が流れる。拭っても拭っても、流れる涙が止まらない。
アレクもウィーンも俯くだけで、何も言えない。

シャレムの、四聖龍の感情は一口で説明できるものではない。
現王であるレイラと、その剣と盾である、彼女の仲間。彼女たちを逃がすために、命を捨てる覚悟だった。
しかし、実際に死が近づくと、どうしても受け入れられない。生きていたい。と思うようになった。
当然である。これが、生物の本能だ。

だが、逃げない。
敵の射程圏内から出ているとは限らない。だから、戦う。
死ぬと分かっていても。

肉を裂かれ、骨を折られた。
剣で貫かれる感触を何度も味わった。
圧倒的龍力で摺りつぶされる激痛も、恐怖も。
薄れゆく意識の中で、敵が顔面を踏みつけて行ったのも、感覚が残っている。

『あぁ、最低の最期だ……』

しかし、目が覚めた時、身体は、意識は、現世にあった。
それも、四聖龍全員が。そして、目の前には、龍力を激しく消費した直後であろうレイラがいる。
死の淵からの復帰とはいえ、状況把握に手間取るほど、阿呆ではない。

自分たちのために引き返し、四聖龍の命を取り留めた。
覚悟を踏みにじられた気分事実はあるが、それ以上に、生きていたことに感激している。

「シャレム、行かないと……」

血まみれの銀髪を揺らし、アリシアが立ち上がる。

当然、ここの龍力を察知し敵が戻ってくるだろう。
その時、自分たちがここにいては、四聖龍が命を懸けた意味がなくなってしまう。

「えぇ……そうね……」

ズズ、と鼻水を吸い込み、シャレムは立ち上がる。
血がこびりついた金髪が風に流れ、鉄の香りを振りまいた。

「早く離れましょう。バラバラにね」
「……はい」
「……シャレムさん」

今まで黙っていたアレクが、珍しく彼女に向かって口を開く。

「……何よ」
「……いえ、やっぱりいいです」
「……変な奴」

目を反らし、アレクは一足先に去ろうとする。

(貴女の涙……共感します)

その思いを、口に出すことはできなかった。

プライドが高い彼女だ。敗北した上に、死の恐怖と戻ってこれた喜び。泣き顔まで見られては、心は穏やかではないだろう。

アレクも泣きこそしなかったが、内心命あることに感謝している。
口には出せそうにないが、救ってくれたレイラにも。
長年の感覚で分かるが、あの傷を四人治癒するのは、容易ではない。
恐らく、何かの代償を支払ったはず。

(レイに会うまでは死ねない……ですが、レイラ王の人生も気になりますね)

やれやれ、とアレクは息をつく。
四聖龍に任命されたとき、こんなことになるとは思わなかった。
自分の実力が想像以上に足りていないこと。そして、この小娘に命を救われること。

全員がルートを決めた。

「じゃ、後で落ち合いましょう」
「うん」
「だな」
「……ですね」
「はい!」

誰もグランズ王捜索について言わないのは、これ以上を求めるのは余りにも強欲だと理解しているからだろう。
道を避け、草木に潜みながら逃げようとした時、背後からしゃがれた声が聞こえてきた。

「レイ……ら……?」
「!?」

彼らが振り返ると、半壊した別荘の脇に、50、60代くらいの男が立っていた。
レイラは、全身に鳥肌が立つのを感じる。

「……お……お父様……?」

レイラの父、グランズ王が、そこに立っていた。
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