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破 魔王志望Aの支配工作
チェシャー猫は笑えない①
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◎◎◎◎◎
俺は手帳を閉じる。それは、黒い皮の表紙に手綴じでページを繋ぎ合わされた手作りの手帳だった。書いては推敲を繰り返し、ページを接いだ跡のある手帳は、紙の色や材質が違う。今にも衝撃でバラバラになりそうだった。
所持を許されているのは、育て親の形見になったこの手帳だけだ。ここに書かれた彼の研究の先に、俺たちがいた。
俺は、一年前のあの日のことを思い出す。
「綺麗ね! チェシャー」
その日見た、無数のガラス玉のような眩い夜景は、俺の目にはガラス相当の価値にしか映らなかった。それでも森に住むアリスの目には、目新しいものとして映ったのだろう。
「そうかあ? 百万ドルするとは思えないけどな。あと、今の俺はアレンって呼ばなきゃ」
「あっそうだった! 綺麗ね! アレン」
「百万ドルより安いけどな」
ぎらぎらと人工的な明かりが眩しいばかりのビルで、俺たちはとあるパーティーに出席していた。壁という壁をすべてぶち抜いた、ただっ広い展望ホール。ゆるやかに弧を描いている壁側は、すべてガラス張りで夜景を堪能できる。ビュッフェもあるが、本気で食事を楽しむ輩はいない。
夜景を楽しんでいるのも、アリスくらいのものだった。人の波に隠れたどこかで、我らが保護者『ジェイムズ博士』も、株主や同業者たちと歓談をしているのだろう。
時々、俺たちにも声がかかる。それは同じくらいの子供だったり、偉そうなおっさんや、世話好きを装ったおばさんだったりする。
むかつくのは餓鬼どもだ。あいつらは、ここに連れてこられた自分の役目を分かっている。あわよくば、大会社の令嬢である『アリス』に、お近づきになろうとする魂胆が丸見えだ。年が近ければ、簡単にオトモダチになれると思っていやがる。
こいつがどんなに特別かも知らずに。そんな奴らに、いちいち笑顔で対応するアリスの社交性を見習おうとは微塵も思わない。
俺は、彼女の婚約者としてここにいる。今も、そうして話しかけてきたどこぞのボンボンを睨みつけて追い返したところだった。
「なあ、まだ終わらないのかよ。『ジェイムズ博士』は」
「うーん……。もうちょっと」
アリスはニコニコと、夜景を眺めながら言った。ガラスに映るアリスの青い瞳は、夜景から浮かび上がるように発光している。エアコンの音すらしない空間で、その長い黒髪がふわりとなびき、薄く金の燐光を放つ。
クリスタルのシャンデリアの下では街中よりは目立たないが、俺はそれを隠すように斜め後ろに立った。
『ジェイムズ博士』含む幹部と主要な研究員たちを一掃したのは、もう一年も前のことである。
アリスはしかし、公的には彼らを生かす選択をした。今頃もあの森の中では、アリス実験の最終確認のためのアレコレが、不眠不休で続けられているはずだ。
ここにいる『ジェイムズ・C・フェルヴィン』という稀代の実業家でもある科学者は、すでに『アリス』というシステムに組み込まれた、勝手に動く肉の人形。
もとい、分かりやすく説明するなら、あの体には魂が無いというのだろう。
過去の記憶データをもとにして、それらしく動くことが出来るけど、アリスというホストコンピューターに依存したロボット……そんな感じだ。
アリスは『ジェイムズ』含め、あの時手にかけた研究員たちや幹部連中と、いつでも『同期』してデータを探り、操ることができる。
現状、俺たちも定期的にアリスと『同期』している。
死体たちのように、アリスに依存しているわけではない。この『同期』という作業は、アリスが俺たちの位置と現状を知るため、あとはアリス自身の言葉を伝えることに使われる。これらの能力はいってみればまあ、一種のテレパスの上位互換である。アリスは文字通りの司令塔だった。
アリスという女の子を、『システム』だとジェイムズが言ったのは、ここらへんの能力を表していたようだ。
この能力は、さらに一段階上がある。糸の様に伸ばし、血縁や、肉体、精神の、より深い結びつきを伝って、影響を拡大していくことが出来るのだ。
その『糸』には、地理的な距離などは関係がない。たとえば、母親を伝って海外にいる娘に能力の支配を伸ばし、娘から子供、夫、上司、上司の友人、さらにその上司……と、『アリス』の支配は侵食していく。
俺たちの世界征服計画の基盤となる、第一段階。権力から権力に伝って、ジックリと『アリス』というシステムに組み込んでいく。こうして影響を拡大し、世界規模での『把握』を行う。
今回のパーティーに出席したのは、その能力実験を兼ねていた。
俺たちの『世界征服』とは、帽子屋が揶揄するような子供じみた戯言ではない。
血腥い戦争、暗殺、ややこしい取引や交渉をせず、無血での征服を果たす。アリスは、必要以上の洗脳や思考操作などもしないつもりでいる。尊厳と思想のかたちを保ったまま、人類全体の安寧を図る。
完全な世界平和なんていうそんな夢物語も、『アリス』というシステムを利用すれば、叶う可能性があるだろう。
ふと瞬いて、アリスがガラス越しに俺に微笑んだ。
「成功したか? 」
「うん」
『ジェイムズ』が、ゆっくりと俺たちの方向へ歩み寄ってくる。肩を並べているおっさん二人は、このビルのオーナーと、どこぞで議員をしている奴だ。
あともう一人、知らない女がくっついていた。
薄ぼんやりとした印象を持つ、平坦な顔立ちの女だった。化粧の薄い細面の顔が乗っかっているのは、細い肩ひものドレスを着たアンバランスに凹凸のある体。不自然に胸元にくっついた大玉に視線が行くと、背中に張り手が飛んできた。
どっちかの愛人か? だとしたら、色んな意味で趣味が悪い。女は口下手そうで、見るからに不健康なうえ、体のラインが出すぎるドレスは品がいいとも言えなかった。
「おかしいなぁ」
「アリス、あの女? 」
「そう、あのヒト。……本当にヒトかな」
「ヒトじゃないのか? 」
「いつのまにかジェイムズの近くで会話に入り込んでいたのよね。ヒトだとしたら、わたしと同じかんじがするかな」
――――アリスと同じ感じのする女?
アリスが俺の袖を引く。青い瞳が頷いた。俺はそこらへんの飲み物を拾うと、ゆっくりと『ジェイムズ』に近づいていく。同時に、ビルオーナーと議員は、何気なく『ジェイムズ』から離れていった。残ったのは、あの薄ぼんやりした女だけだ。厚くチークを塗った女たちの中で、睫毛や眉の薄い女は目立つ。
「博士。こんなところにいたのかよ」
「おお……チェシャーか」
おいおいアリス。ちゃんと調整しろよ。俺は『アレン』だっての。
女の顔が俺の方を向き、にっこりと笑んだ。近くで見ると確かに美人なのだが、やけに長い首や、そこに薄く浮かんだ緑の血管が気持ちが悪い。瞳はやけに明るいイエローで、爬虫類めいている。
確かに……これは分類的にヒトだとしても、俺たちと同類だ。
「おいあんた。話があるのは、うちのボスにだろ? そんな肉人形じゃなくってさ」
女の、太い喉が蠢いて声を発した。
「……ほう。まさか貴殿の方から赴いてくれるとは。ぜひとも『アリス』に、お目通りしたいと会える場所に出向いたのだが。これは無駄足にならずにすんだか」
アリスが俺たちのトップだと認識しているのか。
俺はより疑いを深めたが、まあ何にしろ、この紙がこすれるようなガサガサ声は、神経に触る。
ジェイムズは他の客に話しかけられ、その場を離れていった。相手は筆頭株主……すでにアリスの支配が及んでいるはずの人間だ。
順調に、俺と女の周りで人払いが始まっていた。窓際でアリスがニッコリ手を振っているのが見える。女はひらひらと、薄ら笑いで手を振った。
「でもその前に、あんたの素性を明かしてくれよ」
「それはどうして」
「危険人物をトップに会わせるわきゃあねーだろ。そこまで馬鹿じゃないぜ。交渉には公平さが必要だ。そうだろ? 」
「ふむ。まあ、どうせアリスも聞いているのだろう……」ああ……その通りだ。「わたし……というか、この肉体の所有者の所属は、俗に『イセカイ管理局』という組織でな。わかるかい」
「イセカイ? 違う世界ってことか? 」
「そう、『異世界』だ。わたしから開示できる情報はひどく少ない。あなたから質問してくれ」
「おいおい、そりゃあ無いだろ。そこは何をしている組織なんだ」
「『異世界管理局』は、世界の秩序を守る組織だ。主に異世界人の被害にあった世界の事後処理や、漂流して困っている異世界人の保護を行っている。基準に達した世界を見つけ、商売もする。今回は商談と警告に来たのだ」
「へえ、警告に商談ねえ。ま、詳細は後で聞くとして、あんたの肉体の所有者ってのは、どういう意味っていうわけ。あんた自身は、その組織に所属していないのか」
「わたしは所有者の所有物だ。そうだな……使い魔とでも表現するか。使い捨ての伝書鳩……いや、伝書鳩は教育の手間がいるから、それより粗悪な使い捨て出来る存在で……ああいや、これは言ってはいけないのだったな」
「ふうん。けっこう話せるんじゃないか。つまり、交渉に伝書鳩以下のチリ紙送り付けて商談しにきたってわけ? とんだ主人だ」
そこで、アリスとの『同期』があった。俺は舌打ちを隠さず、女を睨むように観察する。ただの女なら、十二分に力で抑え込めるんだが。癪に障るが、クイーンを連れてくりゃあ良かったかもしれない。
「ボスが早くおまえと話したいってさ。髪の毛一本でもボスに危害を加えたと判断したら、商談はその場で終わりだぜ」
「わかった。保証はできないが考慮しよう」
「そこは保証しろ」
「わかった。努力する」
すでに、視界の端からアリスは消えている。俺は女を連れて、エレベーターに乗った。エレベーターは最上階のさらに上、屋上へと昇っていく。
エレベーターから降りると、十一月の冷たい風が、俺の髪と女のドレスを乱した。
俺は手帳を閉じる。それは、黒い皮の表紙に手綴じでページを繋ぎ合わされた手作りの手帳だった。書いては推敲を繰り返し、ページを接いだ跡のある手帳は、紙の色や材質が違う。今にも衝撃でバラバラになりそうだった。
所持を許されているのは、育て親の形見になったこの手帳だけだ。ここに書かれた彼の研究の先に、俺たちがいた。
俺は、一年前のあの日のことを思い出す。
「綺麗ね! チェシャー」
その日見た、無数のガラス玉のような眩い夜景は、俺の目にはガラス相当の価値にしか映らなかった。それでも森に住むアリスの目には、目新しいものとして映ったのだろう。
「そうかあ? 百万ドルするとは思えないけどな。あと、今の俺はアレンって呼ばなきゃ」
「あっそうだった! 綺麗ね! アレン」
「百万ドルより安いけどな」
ぎらぎらと人工的な明かりが眩しいばかりのビルで、俺たちはとあるパーティーに出席していた。壁という壁をすべてぶち抜いた、ただっ広い展望ホール。ゆるやかに弧を描いている壁側は、すべてガラス張りで夜景を堪能できる。ビュッフェもあるが、本気で食事を楽しむ輩はいない。
夜景を楽しんでいるのも、アリスくらいのものだった。人の波に隠れたどこかで、我らが保護者『ジェイムズ博士』も、株主や同業者たちと歓談をしているのだろう。
時々、俺たちにも声がかかる。それは同じくらいの子供だったり、偉そうなおっさんや、世話好きを装ったおばさんだったりする。
むかつくのは餓鬼どもだ。あいつらは、ここに連れてこられた自分の役目を分かっている。あわよくば、大会社の令嬢である『アリス』に、お近づきになろうとする魂胆が丸見えだ。年が近ければ、簡単にオトモダチになれると思っていやがる。
こいつがどんなに特別かも知らずに。そんな奴らに、いちいち笑顔で対応するアリスの社交性を見習おうとは微塵も思わない。
俺は、彼女の婚約者としてここにいる。今も、そうして話しかけてきたどこぞのボンボンを睨みつけて追い返したところだった。
「なあ、まだ終わらないのかよ。『ジェイムズ博士』は」
「うーん……。もうちょっと」
アリスはニコニコと、夜景を眺めながら言った。ガラスに映るアリスの青い瞳は、夜景から浮かび上がるように発光している。エアコンの音すらしない空間で、その長い黒髪がふわりとなびき、薄く金の燐光を放つ。
クリスタルのシャンデリアの下では街中よりは目立たないが、俺はそれを隠すように斜め後ろに立った。
『ジェイムズ博士』含む幹部と主要な研究員たちを一掃したのは、もう一年も前のことである。
アリスはしかし、公的には彼らを生かす選択をした。今頃もあの森の中では、アリス実験の最終確認のためのアレコレが、不眠不休で続けられているはずだ。
ここにいる『ジェイムズ・C・フェルヴィン』という稀代の実業家でもある科学者は、すでに『アリス』というシステムに組み込まれた、勝手に動く肉の人形。
もとい、分かりやすく説明するなら、あの体には魂が無いというのだろう。
過去の記憶データをもとにして、それらしく動くことが出来るけど、アリスというホストコンピューターに依存したロボット……そんな感じだ。
アリスは『ジェイムズ』含め、あの時手にかけた研究員たちや幹部連中と、いつでも『同期』してデータを探り、操ることができる。
現状、俺たちも定期的にアリスと『同期』している。
死体たちのように、アリスに依存しているわけではない。この『同期』という作業は、アリスが俺たちの位置と現状を知るため、あとはアリス自身の言葉を伝えることに使われる。これらの能力はいってみればまあ、一種のテレパスの上位互換である。アリスは文字通りの司令塔だった。
アリスという女の子を、『システム』だとジェイムズが言ったのは、ここらへんの能力を表していたようだ。
この能力は、さらに一段階上がある。糸の様に伸ばし、血縁や、肉体、精神の、より深い結びつきを伝って、影響を拡大していくことが出来るのだ。
その『糸』には、地理的な距離などは関係がない。たとえば、母親を伝って海外にいる娘に能力の支配を伸ばし、娘から子供、夫、上司、上司の友人、さらにその上司……と、『アリス』の支配は侵食していく。
俺たちの世界征服計画の基盤となる、第一段階。権力から権力に伝って、ジックリと『アリス』というシステムに組み込んでいく。こうして影響を拡大し、世界規模での『把握』を行う。
今回のパーティーに出席したのは、その能力実験を兼ねていた。
俺たちの『世界征服』とは、帽子屋が揶揄するような子供じみた戯言ではない。
血腥い戦争、暗殺、ややこしい取引や交渉をせず、無血での征服を果たす。アリスは、必要以上の洗脳や思考操作などもしないつもりでいる。尊厳と思想のかたちを保ったまま、人類全体の安寧を図る。
完全な世界平和なんていうそんな夢物語も、『アリス』というシステムを利用すれば、叶う可能性があるだろう。
ふと瞬いて、アリスがガラス越しに俺に微笑んだ。
「成功したか? 」
「うん」
『ジェイムズ』が、ゆっくりと俺たちの方向へ歩み寄ってくる。肩を並べているおっさん二人は、このビルのオーナーと、どこぞで議員をしている奴だ。
あともう一人、知らない女がくっついていた。
薄ぼんやりとした印象を持つ、平坦な顔立ちの女だった。化粧の薄い細面の顔が乗っかっているのは、細い肩ひものドレスを着たアンバランスに凹凸のある体。不自然に胸元にくっついた大玉に視線が行くと、背中に張り手が飛んできた。
どっちかの愛人か? だとしたら、色んな意味で趣味が悪い。女は口下手そうで、見るからに不健康なうえ、体のラインが出すぎるドレスは品がいいとも言えなかった。
「おかしいなぁ」
「アリス、あの女? 」
「そう、あのヒト。……本当にヒトかな」
「ヒトじゃないのか? 」
「いつのまにかジェイムズの近くで会話に入り込んでいたのよね。ヒトだとしたら、わたしと同じかんじがするかな」
――――アリスと同じ感じのする女?
アリスが俺の袖を引く。青い瞳が頷いた。俺はそこらへんの飲み物を拾うと、ゆっくりと『ジェイムズ』に近づいていく。同時に、ビルオーナーと議員は、何気なく『ジェイムズ』から離れていった。残ったのは、あの薄ぼんやりした女だけだ。厚くチークを塗った女たちの中で、睫毛や眉の薄い女は目立つ。
「博士。こんなところにいたのかよ」
「おお……チェシャーか」
おいおいアリス。ちゃんと調整しろよ。俺は『アレン』だっての。
女の顔が俺の方を向き、にっこりと笑んだ。近くで見ると確かに美人なのだが、やけに長い首や、そこに薄く浮かんだ緑の血管が気持ちが悪い。瞳はやけに明るいイエローで、爬虫類めいている。
確かに……これは分類的にヒトだとしても、俺たちと同類だ。
「おいあんた。話があるのは、うちのボスにだろ? そんな肉人形じゃなくってさ」
女の、太い喉が蠢いて声を発した。
「……ほう。まさか貴殿の方から赴いてくれるとは。ぜひとも『アリス』に、お目通りしたいと会える場所に出向いたのだが。これは無駄足にならずにすんだか」
アリスが俺たちのトップだと認識しているのか。
俺はより疑いを深めたが、まあ何にしろ、この紙がこすれるようなガサガサ声は、神経に触る。
ジェイムズは他の客に話しかけられ、その場を離れていった。相手は筆頭株主……すでにアリスの支配が及んでいるはずの人間だ。
順調に、俺と女の周りで人払いが始まっていた。窓際でアリスがニッコリ手を振っているのが見える。女はひらひらと、薄ら笑いで手を振った。
「でもその前に、あんたの素性を明かしてくれよ」
「それはどうして」
「危険人物をトップに会わせるわきゃあねーだろ。そこまで馬鹿じゃないぜ。交渉には公平さが必要だ。そうだろ? 」
「ふむ。まあ、どうせアリスも聞いているのだろう……」ああ……その通りだ。「わたし……というか、この肉体の所有者の所属は、俗に『イセカイ管理局』という組織でな。わかるかい」
「イセカイ? 違う世界ってことか? 」
「そう、『異世界』だ。わたしから開示できる情報はひどく少ない。あなたから質問してくれ」
「おいおい、そりゃあ無いだろ。そこは何をしている組織なんだ」
「『異世界管理局』は、世界の秩序を守る組織だ。主に異世界人の被害にあった世界の事後処理や、漂流して困っている異世界人の保護を行っている。基準に達した世界を見つけ、商売もする。今回は商談と警告に来たのだ」
「へえ、警告に商談ねえ。ま、詳細は後で聞くとして、あんたの肉体の所有者ってのは、どういう意味っていうわけ。あんた自身は、その組織に所属していないのか」
「わたしは所有者の所有物だ。そうだな……使い魔とでも表現するか。使い捨ての伝書鳩……いや、伝書鳩は教育の手間がいるから、それより粗悪な使い捨て出来る存在で……ああいや、これは言ってはいけないのだったな」
「ふうん。けっこう話せるんじゃないか。つまり、交渉に伝書鳩以下のチリ紙送り付けて商談しにきたってわけ? とんだ主人だ」
そこで、アリスとの『同期』があった。俺は舌打ちを隠さず、女を睨むように観察する。ただの女なら、十二分に力で抑え込めるんだが。癪に障るが、クイーンを連れてくりゃあ良かったかもしれない。
「ボスが早くおまえと話したいってさ。髪の毛一本でもボスに危害を加えたと判断したら、商談はその場で終わりだぜ」
「わかった。保証はできないが考慮しよう」
「そこは保証しろ」
「わかった。努力する」
すでに、視界の端からアリスは消えている。俺は女を連れて、エレベーターに乗った。エレベーターは最上階のさらに上、屋上へと昇っていく。
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