怠惰令嬢の玉の輿計画 昼寝してたら侯爵様と面倒なことになりました

糸掛 理真

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第三十三話 帰りたい場所はやはりここです

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 馬車の中は、静かだった。



 王宮を出てから、プリップルはほとんど口を開かなかった。
 喋れば、張りつめていた何かが崩れそうだった。

「……疲れました」

 ぽつりと漏れた声は、取り繕っていない。

「そうだろう」

 アデルバートは、それ以上を言わない。



 屋敷に着く。
 灯りの具合も、廊下の匂いも、昨日と同じだ。
 それが、ひどく胸に染みた。

「……帰ってきたって感じがします」

 誰に向けた言葉でもない。



「帰る場所だ」

 短い返答。

 プリップルは、思わず彼を見た。

「……私の、ですか」

「今は」

 限定付きの答え。

 だが、否定ではない。



 部屋に戻ると、椅子に腰を下ろした瞬間、力が抜けた。
 王宮では、息の仕方すら管理されている気がした。
 ここでは、何もしなくていい。



 夜。
 ベッドに横になり、天井を見つめる。
 玉の輿。
 楽な人生。
 期待されない立場。
 どれも、まだ欲しい。
 でも。



(……ここから出るのは、嫌だ)

 それだけが、はっきりしていた。
 逃げたいわけじゃない。
 縛られたいわけでもない。
 ただ。

(……戻ってきたい)

 満月まで、あと少し。
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