46 / 74
46.真実は如何に
しおりを挟む
「愛人がいること自体は、私は驚かないけれどね」
ランドル、シンディー、そして私の3人はびっくりしておじさまの顔を見つめた。
「実は、懇ろにしている女性が王都にいるらしいとは噂に聞いていたんだ。私の友人の中に人の色恋沙汰にやたら首を突っ込みたがる男がいてね、カフカ公爵閣下には王都に女がいると言うんだ。公爵領で自由気ままにお暮らしだったあの方がずっと王都にいる本当の理由はそれで、花嫁探しのためというのは建前だとね」
おじさまは私に気遣わしげな視線を向けながら続けた。
「その時はどうでも良いことだと思って気にも留めなかったが、エマが公爵閣下と交際していると聞いて心配になってね。エマには話したが、ここ数日公爵のことを調べていたのもそのためだ。探偵から昨日聞いた1回目の報告では、それらしい人物が屋敷を出入りしている様子はないし誰かと出かけてもいないとのことだったが…メイドとして住み込んでいるなら人目につかないのも納得だ」
この前会った時調べたいことがあると言っていたのはそういうことだったのかと私は合点がいった。
「はっきりさせる必要があるな。証拠を集めて、閣下を問い詰めないと」
ランドルが眉間にしわを寄せてそう言うと、おじさまとシンディーも頷いた。だが、私はどうするべきか迷っていた。
「このことがなくてもアルマン様とはお別れするつもりでいたし…そうする必要は本当にあるのかしら。正式な婚約をする前だったし、お互いに悪かったということで穏便に別れられないかしら」
私との交際中にアルマン様が不貞な行いをしていたなら、それに対しては嫌悪感を抱くし酷いと思う。私に愛を囁き、接吻をしたその唇は、他の女性とも睦言や口づけを交わしたばかりだったかもしれないのだ。騙されていたのなら、やはり悲しい。
だが、それでも私は彼を責めたくはなかった。一方的な理由で別れを告げた負い目があったからだ。アルマン様だけが悪いわけではない。最後に会ったときの強引さは怖かったし心底困ってしまったが、一緒に過ごした優しく穏やかな日々の思い出が消し去られたわけではない。しかしシンディーはきっぱりと首を横に振った。
「だめよ。愛人がいるのにそれを隠してあなたと結婚前提の交際をしていたなら、婚約前とは言え立派な詐欺だもの。ランドルの言う通りはっきりさせておかなきゃ。」
いつになく強い調子でそう言うシンディーの言うことに、私は耳を傾けた。
「ねえエマ、友人としてはっきり言うわ。愛人の件がなければ、もしあなたが公爵を袖にした後で周りから悪く言われても仕方がないわ。だって別れたいのはあなたの都合なんだもの。噂はどこからか漏れるだろうし。私にも非があるわ、幼馴染の君のことをあなたが愛していることには気がついていて、それでも公爵様とのお付き合いを勧めたんですもの」
正直そこまで考えていなかった。シンディーのせいでは全くない、そう言いかけたが話はまだ終わっていなかった。
「でも、愛人の件が事実なら話は変わって来るわ。そのことを知っていたら、そもそも絶対にお付き合いなんてしなかったでしょう?騙されていたなら、あちらの方がずっとタチが悪いわ。謂れのないことであなたが非難されたり、将来の縁談に差し障りがあったりしたらいけないわ。あなたの人生に関わるのよ」
「シンディー…」
考えの足りない私のことをそこまで心配してくれて、ありがたいのと申し訳ないのとで何と言って良いか分からないほどだった。今度はおじさまが口を開いた。
「真実を明らかにしなくてはならないね。私が王都にいるのはあと1週間と少し…。大至急メイドについて調べさせて、ある程度情報が集まったら…四者面談だね。もちろん私が同席するよ」
つまり私とおじさま、アルマン様とメイドで話し合いをするということだろう。私は頷いた。一体どうなることやら想像もつかないが、シンディーの言うことはよく分かった。自分の人生も大事だが、私のせいでシンディーまで悪く言われるのは耐えられないし、おじさまとランドルにも迷惑がかかるかもしれないと考えると嫌でも何とかしなければいけない。私は腹を括った。
今後について少し話し合ってから、今日のランチ会はお開きになった。帰り際、ランドルとシンディーは私とおじさまにひとつずつ小さめの瓶を渡してくれた。それは手作りのジャムだった。
「ランドルのお母様がベリーをたくさん送ってくれたの。お砂糖の量は控えめだから早めに食べてね。エマ、今は大変だと思うけど…きっとすぐ解決するわ。私たちもいるし、あなたにはエルネストおじさまがついていてくれるんだもの。絶対に大丈夫よ」
私はじわっと溢れて来た涙を慌てて拭いて、シンディーとランドルに何度もお礼を言った。こんな風に味方でいてくれて、力づけてくれる友人がいてくれることに感謝しながらさよならを言って屋敷を出る。ふたりは表まで出て見送ってくれた。
私はおじさまと一緒にのんびり歩いて辺境伯邸へと向かった。今日はおじさまのお屋敷にお泊まりなのだ。今日明日と連休をいただいて、外泊届けも出してある。賑わう城下町を抜け、静かな住宅地を通り、一等地へと向かう。おじさまのお屋敷のすぐ近くまできたとき、何やら声が聞こえてきた。閑静なこの辺りにそぐわない、言い争うような声だ。喧嘩だろうか。その時点で私は少し怖くなっていたが、辺境伯邸の門の前に立っているふたりの人間の姿を確認した時の恐怖とは比べ物にならない。
門前で騒いでいたのは、私の両親だった。
ランドル、シンディー、そして私の3人はびっくりしておじさまの顔を見つめた。
「実は、懇ろにしている女性が王都にいるらしいとは噂に聞いていたんだ。私の友人の中に人の色恋沙汰にやたら首を突っ込みたがる男がいてね、カフカ公爵閣下には王都に女がいると言うんだ。公爵領で自由気ままにお暮らしだったあの方がずっと王都にいる本当の理由はそれで、花嫁探しのためというのは建前だとね」
おじさまは私に気遣わしげな視線を向けながら続けた。
「その時はどうでも良いことだと思って気にも留めなかったが、エマが公爵閣下と交際していると聞いて心配になってね。エマには話したが、ここ数日公爵のことを調べていたのもそのためだ。探偵から昨日聞いた1回目の報告では、それらしい人物が屋敷を出入りしている様子はないし誰かと出かけてもいないとのことだったが…メイドとして住み込んでいるなら人目につかないのも納得だ」
この前会った時調べたいことがあると言っていたのはそういうことだったのかと私は合点がいった。
「はっきりさせる必要があるな。証拠を集めて、閣下を問い詰めないと」
ランドルが眉間にしわを寄せてそう言うと、おじさまとシンディーも頷いた。だが、私はどうするべきか迷っていた。
「このことがなくてもアルマン様とはお別れするつもりでいたし…そうする必要は本当にあるのかしら。正式な婚約をする前だったし、お互いに悪かったということで穏便に別れられないかしら」
私との交際中にアルマン様が不貞な行いをしていたなら、それに対しては嫌悪感を抱くし酷いと思う。私に愛を囁き、接吻をしたその唇は、他の女性とも睦言や口づけを交わしたばかりだったかもしれないのだ。騙されていたのなら、やはり悲しい。
だが、それでも私は彼を責めたくはなかった。一方的な理由で別れを告げた負い目があったからだ。アルマン様だけが悪いわけではない。最後に会ったときの強引さは怖かったし心底困ってしまったが、一緒に過ごした優しく穏やかな日々の思い出が消し去られたわけではない。しかしシンディーはきっぱりと首を横に振った。
「だめよ。愛人がいるのにそれを隠してあなたと結婚前提の交際をしていたなら、婚約前とは言え立派な詐欺だもの。ランドルの言う通りはっきりさせておかなきゃ。」
いつになく強い調子でそう言うシンディーの言うことに、私は耳を傾けた。
「ねえエマ、友人としてはっきり言うわ。愛人の件がなければ、もしあなたが公爵を袖にした後で周りから悪く言われても仕方がないわ。だって別れたいのはあなたの都合なんだもの。噂はどこからか漏れるだろうし。私にも非があるわ、幼馴染の君のことをあなたが愛していることには気がついていて、それでも公爵様とのお付き合いを勧めたんですもの」
正直そこまで考えていなかった。シンディーのせいでは全くない、そう言いかけたが話はまだ終わっていなかった。
「でも、愛人の件が事実なら話は変わって来るわ。そのことを知っていたら、そもそも絶対にお付き合いなんてしなかったでしょう?騙されていたなら、あちらの方がずっとタチが悪いわ。謂れのないことであなたが非難されたり、将来の縁談に差し障りがあったりしたらいけないわ。あなたの人生に関わるのよ」
「シンディー…」
考えの足りない私のことをそこまで心配してくれて、ありがたいのと申し訳ないのとで何と言って良いか分からないほどだった。今度はおじさまが口を開いた。
「真実を明らかにしなくてはならないね。私が王都にいるのはあと1週間と少し…。大至急メイドについて調べさせて、ある程度情報が集まったら…四者面談だね。もちろん私が同席するよ」
つまり私とおじさま、アルマン様とメイドで話し合いをするということだろう。私は頷いた。一体どうなることやら想像もつかないが、シンディーの言うことはよく分かった。自分の人生も大事だが、私のせいでシンディーまで悪く言われるのは耐えられないし、おじさまとランドルにも迷惑がかかるかもしれないと考えると嫌でも何とかしなければいけない。私は腹を括った。
今後について少し話し合ってから、今日のランチ会はお開きになった。帰り際、ランドルとシンディーは私とおじさまにひとつずつ小さめの瓶を渡してくれた。それは手作りのジャムだった。
「ランドルのお母様がベリーをたくさん送ってくれたの。お砂糖の量は控えめだから早めに食べてね。エマ、今は大変だと思うけど…きっとすぐ解決するわ。私たちもいるし、あなたにはエルネストおじさまがついていてくれるんだもの。絶対に大丈夫よ」
私はじわっと溢れて来た涙を慌てて拭いて、シンディーとランドルに何度もお礼を言った。こんな風に味方でいてくれて、力づけてくれる友人がいてくれることに感謝しながらさよならを言って屋敷を出る。ふたりは表まで出て見送ってくれた。
私はおじさまと一緒にのんびり歩いて辺境伯邸へと向かった。今日はおじさまのお屋敷にお泊まりなのだ。今日明日と連休をいただいて、外泊届けも出してある。賑わう城下町を抜け、静かな住宅地を通り、一等地へと向かう。おじさまのお屋敷のすぐ近くまできたとき、何やら声が聞こえてきた。閑静なこの辺りにそぐわない、言い争うような声だ。喧嘩だろうか。その時点で私は少し怖くなっていたが、辺境伯邸の門の前に立っているふたりの人間の姿を確認した時の恐怖とは比べ物にならない。
門前で騒いでいたのは、私の両親だった。
356
あなたにおすすめの小説
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~
浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。
(え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!)
その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。
お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。
恋愛要素は後半あたりから出てきます。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる