【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真

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46.真実は如何に

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 「愛人がいること自体は、私は驚かないけれどね」

 ランドル、シンディー、そして私の3人はびっくりしておじさまの顔を見つめた。

 「実は、懇ろにしている女性が王都にいるらしいとは噂に聞いていたんだ。私の友人の中に人の色恋沙汰にやたら首を突っ込みたがる男がいてね、カフカ公爵閣下には王都に女がいると言うんだ。公爵領で自由気ままにお暮らしだったあの方がずっと王都にいる本当の理由はそれで、花嫁探しのためというのは建前だとね」

 おじさまは私に気遣わしげな視線を向けながら続けた。

 「その時はどうでも良いことだと思って気にも留めなかったが、エマが公爵閣下と交際していると聞いて心配になってね。エマには話したが、ここ数日公爵のことを調べていたのもそのためだ。探偵から昨日聞いた1回目の報告では、それらしい人物が屋敷を出入りしている様子はないし誰かと出かけてもいないとのことだったが…メイドとして住み込んでいるなら人目につかないのも納得だ」

 この前会った時調べたいことがあると言っていたのはそういうことだったのかと私は合点がいった。
 
 「はっきりさせる必要があるな。証拠を集めて、閣下を問い詰めないと」

 ランドルが眉間にしわを寄せてそう言うと、おじさまとシンディーも頷いた。だが、私はどうするべきか迷っていた。

 「このことがなくてもアルマン様とはお別れするつもりでいたし…そうする必要は本当にあるのかしら。正式な婚約をする前だったし、お互いに悪かったということで穏便に別れられないかしら」

 私との交際中にアルマン様が不貞な行いをしていたなら、それに対しては嫌悪感を抱くし酷いと思う。私に愛を囁き、接吻をしたその唇は、他の女性とも睦言や口づけを交わしたばかりだったかもしれないのだ。騙されていたのなら、やはり悲しい。

 だが、それでも私は彼を責めたくはなかった。一方的な理由で別れを告げた負い目があったからだ。アルマン様だけが悪いわけではない。最後に会ったときの強引さは怖かったし心底困ってしまったが、一緒に過ごした優しく穏やかな日々の思い出が消し去られたわけではない。しかしシンディーはきっぱりと首を横に振った。

 「だめよ。愛人がいるのにそれを隠してあなたと結婚前提の交際をしていたなら、婚約前とは言え立派な詐欺だもの。ランドルの言う通りはっきりさせておかなきゃ。」

 いつになく強い調子でそう言うシンディーの言うことに、私は耳を傾けた。

 「ねえエマ、友人としてはっきり言うわ。愛人の件がなければ、もしあなたが公爵を袖にした後で周りから悪く言われても仕方がないわ。だって別れたいのはあなたの都合なんだもの。噂はどこからか漏れるだろうし。私にも非があるわ、幼馴染の君のことをあなたが愛していることには気がついていて、それでも公爵様とのお付き合いを勧めたんですもの」

 正直そこまで考えていなかった。シンディーのせいでは全くない、そう言いかけたが話はまだ終わっていなかった。

 「でも、愛人の件が事実なら話は変わって来るわ。そのことを知っていたら、そもそも絶対にお付き合いなんてしなかったでしょう?騙されていたなら、あちらの方がずっとタチが悪いわ。謂れのないことであなたが非難されたり、将来の縁談に差し障りがあったりしたらいけないわ。あなたの人生に関わるのよ」

 「シンディー…」

 考えの足りない私のことをそこまで心配してくれて、ありがたいのと申し訳ないのとで何と言って良いか分からないほどだった。今度はおじさまが口を開いた。

 「真実を明らかにしなくてはならないね。私が王都にいるのはあと1週間と少し…。大至急メイドについて調べさせて、ある程度情報が集まったら…四者面談だね。もちろん私が同席するよ」

 つまり私とおじさま、アルマン様とメイドで話し合いをするということだろう。私は頷いた。一体どうなることやら想像もつかないが、シンディーの言うことはよく分かった。自分の人生も大事だが、私のせいでシンディーまで悪く言われるのは耐えられないし、おじさまとランドルにも迷惑がかかるかもしれないと考えると嫌でも何とかしなければいけない。私は腹を括った。

 今後について少し話し合ってから、今日のランチ会はお開きになった。帰り際、ランドルとシンディーは私とおじさまにひとつずつ小さめの瓶を渡してくれた。それは手作りのジャムだった。

 「ランドルのお母様がベリーをたくさん送ってくれたの。お砂糖の量は控えめだから早めに食べてね。エマ、今は大変だと思うけど…きっとすぐ解決するわ。私たちもいるし、あなたにはエルネストおじさまがついていてくれるんだもの。絶対に大丈夫よ」

 私はじわっと溢れて来た涙を慌てて拭いて、シンディーとランドルに何度もお礼を言った。こんな風に味方でいてくれて、力づけてくれる友人がいてくれることに感謝しながらさよならを言って屋敷を出る。ふたりは表まで出て見送ってくれた。

 私はおじさまと一緒にのんびり歩いて辺境伯邸へと向かった。今日はおじさまのお屋敷にお泊まりなのだ。今日明日と連休をいただいて、外泊届けも出してある。賑わう城下町を抜け、静かな住宅地を通り、一等地へと向かう。おじさまのお屋敷のすぐ近くまできたとき、何やら声が聞こえてきた。閑静なこの辺りにそぐわない、言い争うような声だ。喧嘩だろうか。その時点で私は少し怖くなっていたが、辺境伯邸の門の前に立っているふたりの人間の姿を確認した時の恐怖とは比べ物にならない。

 門前で騒いでいたのは、私の両親だった。
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