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赤の盗賊団

第19話 赤の盗賊団 『法国の使者』

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 「シバの女王様。まずは貢ぎ物をお納めくださいませ。我が街『楼蘭』の特産品『ココヤシ酒』でございます。」

 ジュニアくんがシバの女王にそう進言した。

 「おお! 桜蘭の『ココヤシ酒』か! あれは美酒であったな。たしか以前、当主のカシムから献上されたな。ん? カシムはどうした?」

 「は! 父・カシムは先日『赤の盗賊団』に襲われ、殺されました。僕はカシムの息子、カシム・ジュニア!
その跡を継ぐべく仇討ちをしたく存じます! ぜひ女王様にその許可をいただきたく馳せ参じた次第であります!」

 おお・・・ジュニアくん、なんと立派な・・・。ちょっと、オレ、うるうるしちゃうな。



 「それは気の毒したな。カシムジュニアよ。当然、『赤の盗賊団』サタン・クロースの奴めの所業は報告が来ておる。
妾の街『イラム』にとっても許しがたきこと。この街は商業で栄えている街・・・。盗賊は成敗する! カシムジュニアにその先陣に立つことを許可しようぞ!」

 「ははっ! 謹んでその役目果たして見せましょう!」

 「うむ。妾の兵にも力添えをさせるが、冒険者ギルドにも特別依頼を出しておく。屈強な冒険者達にも期待しよう。」

 「はは! このアマイモン、承りました!」



 「ベン・シラ! 『風の子』を使うか? まあよい。兵の選抜は貴殿に任せる。」

 「シバ様。畏まりました。『風の子』は特殊部隊。ここは我が『ラ・レーヌ・ドゥ・シバ女王兵団』きっての戦士ギルガメシュ兵長を任じましょう。」

 「ふむ。ギルガメシュなら間違いなかろう。ギルガメシュ! 前へ!」

 ギルガメシュ兵長が前へ進み出てきた。いやぁ、なんか歴戦の勇者感があるなぁ。

 「は! 承りました!お任せあれ!」




 「うむ。では諸君らに紹介したき人物がおる。入って参られよ! パラス・アテナ殿!」

 そうシバの女王が告げると、扉が開き、騎士姿の美しい女性が入ってきた。

 お供にフクロウの顔をした騎士、蛇の顔をした騎士、さらに有翼の若い女性と一緒にその見目麗しい女性騎士が堂々と歩いて前へ進み出てきた。

 その女性騎士が名乗り出た。



 「シバよ。久しいな。我が法国の国土交通大臣、ヘルメス・トリスメギストス様もこのたびの盗賊共の悪行にその御心を痛められ、わたしを派遣された。ありがたく思うのだぞ?」

 「うむ。アテナ殿も息災で何よりじゃ。ヘルメス様にはよしなにお願いしますぞ。偉大なるゼウス・ヒケシオス(救いを求める者を救う)に感謝を!」

 「ああ。わかった。偉大なるゼウス・ヒケシオスの名のもとに! ・・・して、この者らは何者じゃ?」

 「ええ。行商集団『アリノママ』の代表・カシムと、あの魔獣サンドワームを討伐した旅のもので、名をアシア・ジンと申す者とその仲間じゃ。」



 「ほう。あのサンドワームを倒したと言うか。実力はあるようだな。ジン殿。カシム殿。わたしはパラス・アテナだ。法国で軍人をやっている。よろしくな。」

 「カシムよ。このアテナ殿は、かの法国の防衛大臣であられる。法国は世界中の平和のために動いてくれておる。
このたびの『赤の盗賊団』についても、妾の要請に基づいてアテナ殿を派遣してくれた。頼りにするが良いぞ。」

 「ははっ! ありがたき幸せ! よろしくおねがいします。」



 「カシムよ。我が法国は貿易にも力を注いでいる。遠慮なく我が力を借りるが良い。」

 アテナがそう言ってカシムへウインクをした・・・。な、なんだか気さくな人でよかった。しかも美人! これはさぞ法国でも人気であろうな。

 しかし、防衛大臣に国土交通大臣か・・・。法国ってえらくやはり名の通り法治国家っぽいな。

 うーむ。なんとか、ざっくりでもいいから、この世界の各国のこと、知っておきたいな。今後、マンガやアニメを広めていくには世界を知らないとなぁ。



 (マッピング・地図作成のためのロボット、マッパ・マッパーに周辺の地図作成をさせております。ダウンロード致しますか?)

 アイが思念通信をしてきた。

 (そうだね、頼む。あと地形も大事だけど、情報がほしいな。)

 (はい。では、情報収集のほうはマスターがお目覚めになる前にワタクシがこの世界で手なづけた者たちに任せることにしましょう。)

 (へ? そんなことしてたの?)

 (はい。目的だったある金属を探していたときに、たまたま助けた者たちでございまして、ワタクシに忠誠を誓っておりますゆえ、ご安心ください。)



 (そっか・・・。今度、紹介してくれな。)

 (はい。わかりました。では今度その三匹をご紹介しますね。マスター。)

 へー、三匹いるのか・・・。アイってば、オレが目覚める前にそんなことしてたのね。



※霧越楼閣・周辺地図(マッド・マッパー作成)



 「アテナ様! よろしくおねがいしまチュ!」

 あ! ジュニアくん、訛りが出ちゃってるよ。

 「アテナさん、オレからもよろしくお願いするよ。」

 「うむ。よろしくな。ジン殿。カシム。」





 「では、下がって良いぞ。」

 シバの女王がそう宣言した後、続いて言葉を発した者がいた。

 「はよ!下がって良いぞ。はーあ。やっと終わったな!」

 あ! ネブカドネザル王子が喋った・・・。まだ幼いのにこんな政治の場のようなところに顔を出しているので退屈しちゃったかな?

 オレはちょっとした余興にと、某国民的人気漫画に出てきた某漫画家のように、猫ミミク様の親友キャラ・くまんちゃの絵を指で空中に描き、それをナノテクマシンで発光させ色をつけた。

 「くまんちゃ!バイバイしてね?」

 そう言いながら、絵をバイバイさせるように動かし、キラキラ・エフェクトをかけた。



 「うわぁ! かわいい!!」

 お! ネブカドネザル王子が笑顔になった。

 「それ、なぁに?」

 「これは『くまんちゃ』くんですよ。王子。」

 「くまんちゃくんかぁ。かわいいね。」

 隣で、それを見たシバの女王も一瞬、目を丸くしていたが、微笑み、オレに向かって礼を言ってきた。

 「ジン。礼を言うぞ。」

 「いえ。王子は退屈されていたようでしたので。」



 オレたちはその場を離れ、部屋を出た。

 廊下を進んでいると、アテナさんとその従者たちが声をかけてきた。

 「アマイモン。今後のことを話し合っておきたいのだが、どこかで会合できぬか?」

 「は! アテナ様。では、我がギルドへ後刻にお越しください。冒険者連中も集めておきましょう。」

 「うむ。では、後ほど。」

 そう言って、アテナさんはさっそうと去っていく。

 うん、気品があるなぁ。騎士っていうか、女神だわ。アテナってたしかギリシャ神話の女神様の名前だったよなぁ。やっぱ女神のほうがしっくりくるな、あの美しさは。



 (コホン・・・ええー、マスター! 美しい女には毒があると申しますよ。気をつけてください!)

 アイの思念通信が飛んできた。なんだか、その言い方のほうが毒があるような・・・。

 (なにか? おっしゃいましたか?)

 (いやいや、なにも! なんでもないよ!)



 「アマイモン! この後、冒険者を集めて会合をするのか?」

 「そうですね。」

 「じゃあ、オレたちもそれに参加させてくれ。」

 「もちろんだ。最初からそのつもりだよ。」

 「ああ、感謝する。」



 「うーん、ジン様~。僕、おなか空いちゃったよ~。」

 ヒルコがそう言ってきた。まあ、たしかに。朝、食べてからしばらく時間が経ったしな。

 「よし、じゃあ、何か通りの店で買って食べようか?」

 「わーい。だからジン様、大好きなのだー。」

 「わ、ワタクシもマスターのこと大好きですよ!!」

 「あ! 僕も大好きですよ!ジン様!」

 「拙者も大好きでございやす。」

 いや、ジュニアくんもジロキチまでも乗っかって来なくていいんだよー。



 「おほん。えー、我ら『ラ・レーヌ・ドゥ・シバ女王兵団』も後ほどギルドへ行くことにしよう。兵長のギルガメシュだ。よろしくである。ジン殿。カシム殿。」

 あ・・・。ギルガメシュ兵長、いたんだ・・・。ラ・レーヌ・ドゥ・シバ女王兵団か・・・。なんだか美味しそうな名前だな。

 「え・・・ええ。後ほどよろしくおねがいします。」

 オレはなんだか恥ずかしかったが、挨拶だけはちゃんとしておいた。

 「ああ。ギルガメシュ兵長もあとでギルドに寄ってくれ。じゃ、フルカス。行くぞ。」

 「御意。」

 アマイモンとフルカスが去っていく。オレたちもギルガメシュ兵長にお辞儀をしながら、外へ向かった。



 こうして、シバの女王との謁見を無事にすませたオレたちは、女王の宮城を出た。

 さて、通りに美味しそうなものはあるかな? ちょっと楽しみになってきたとオレの意識は食べ物に向かったのだった。




 さて、謁見室では―。

 「どう見る? ベン・シラよ。」

 「は。女王様。あの者が見せた魔法・・・まったく魔力を感知できませんでしたぞ。」

 「む。たしかに。見事であったな、だが、魔力を感知できないほどか? たしかに、あのギルガメシュのヤツも反応できてなかったな。」

 「その通りです。潜ませていた『風の子』らも察知できなかったようですな。なぁ!? 風魔の小太郎よ!」

 一陣の風が吹いたかと思うと、子供の姿の一人の精霊が女王と王子、ベン・シラの前に現れた。



 「不覚っす。オレっちもわかんねくた。」

 「ほう。『風の子』のリーダー小太郎でもわからなかったか?」

 「おそらく恐ろしいほどの隠形の魔法力で隠していたと思うっす。」

 「ふむ。面白い。今後も目を離さぬようにするのじゃ。」

 「は!」



 なぜか、知らないところで、魔法力がめちゃくちゃあると勘違いされ、警戒されているジンであった―。



~続く~


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