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赤の盗賊団
第42話 赤の盗賊団 『ミトラ砦・崩壊』
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サタン・クロースは悟った―。
サタン・クロースの身体から魔力が打ち消されていく・・・。
エリクトニオスの唱えた闇を払う魔法『聖者の行進』で自身の魔力が打ち消されていく。
吸血鬼の闇魔法・『エレジー』の効力が消えていく。
****
サタンたちが吸血鬼に生まれ変わったその時―。
ヴァン・テウタテスが呪文を唱えた。
『おお甘き春よ!過ぎ去った昔の、緑の季節よ、お前は永遠に去ってしまった!あの青空をもう見ることはない、あの鳥のさえずりを聴くことも!
私の幸せをみな持って、おお恋人よ、お前は行ってしまった!春が戻ってもむなしいだけ!そうなのだ!帰ってこないのだ、お前も、太陽の輝きも!
微笑みの日々は消え去ってしまった! 私の心の中は暗く凍り付いている! すべては終わった! 永遠に!!』
新たに吸血鬼となったサタンたちの身体から異常に魔力が増幅されて、肉体がチカラでみなぎってきた。
「おおお!! このパワーは!」
「なんと!」
「すばすばすば・・・るわしぃいいいいい!!」
レッド・マントも仕立て屋もそのチカラに感動していた。
ヴァン・エススが説明する。
「我ら吸血鬼はこの闇魔法『エレジー』によって、魔力も身体能力も爆発的に増大する。そして、その身体回復能力もな。」
ヴァン・タラニスがさらに付け加える。
「さらに、吸血鬼の固有能力で、たとえ死しても、その灰の中から蘇ることができるのだ。つまり、不死身!」
ヴァン・テウタテスが言う。
「だが、生き血を吸わねば、この能力は維持できない。生命力は血にあるのだ!」
「なるほど。感謝しよう。我らレッド・キャップ種族の運命はそなたら吸血鬼一族と一蓮托生というわけだな。」
「我ら吸血鬼の真祖であるヴァン・パイア様は、この大森林に拠点を作ることを望んでおられる。奴らを殲滅して、円柱都市イラムを乗っ取るのだ!」
ヴァン・テウタテスは不死国・ラグナク王国の密命を帯びていたのだった。
「行くぞ!! おまえたちも我らが仲間となれぃ!!」
そう言って、成り行きを見ていたレッド・キャップ種族の民へ次から次へと噛み付いて血を吸いにかかったのだった―。
****
闇の魔力も打ち払われ、妖精族のベッキーにかけられた草木呪文で逃げることも能わず・・・。
もはや絶望的な状況に、サタン・クロースは覚悟を決めた。
レッド・キャップ種族の英雄が残したという秘文、魔核爆裂呪文『魔王』が最後の選択だった。
「こ・・・こんな! もはや、これまでか!? 魔神王よ! 我が最後の願い! 聞き届け給えぇい!!」
『夜の風をきり馬で駆け行くのは誰だ? 可愛い坊や、私と一緒においで!楽しく遊ぼう!キレイな花も咲いて、黄金の衣装もたくさんある。
素敵な少年よ、私と一緒においで!私の娘が君の面倒を見よう!歌や踊りも披露させよう!
お前が大好きだ。可愛いその姿が。 いやがるのなら、力ずくで連れて行くぞ!』
唱えている途中で、アテナさんの聖なる槍のひと突きが炸裂した!
サタン・クロースの左胸を貫き、血がドバッと吹き出す。
「ぐ・・・ぐあぁあああああぁ・・・あぁーっはっはっはっははぁああーーーんっ!!」
サタン・クロースの魔核が貫かれたのだ!
「ぐふ・・・ふふふふふ・・・。きざま・・・らも、道連れだ・・・。我が種族は、英雄の種族・・・。ただでは死なん・・・。」
サタン・クロースはその命が燃え尽きるその間際に、最後の呪文を完成させようとその魔力をすべて魔核へ集中させた。
「なにか危険だっ! みんな逃げろ! この場にいるのは危ないっ!!」
「まずいっ! ヤツの魔力が暴走している!!」
「この・・・膨大な魔力はいったい・・・!?」
「まさか!? 英雄レベルの魔法使いが使ったという魔核爆裂呪文『魔王』かっ!!」
「みんな! 私の後ろに来るんだ!!」
アテナさんがアイギスの盾を構えた、魔力を集中させる。
みんながアテナさんの後ろに避難し、魔力で加勢する・・・。
オレ? オレは魔力なんてひとかけらも持っていない。
だから、代わりにアイと協力し、超ナノテクマシンの防御壁を集中させる。
アテナさんが呪文を唱えた!
『さ霧消ゆる湊江(みなとえ)の舟に白し、朝の霜。ただ水鳥の声はして、いまだ覚めず、岸の家。
嵐吹きて雲は落ち、時雨(しぐれ)降りて日は暮れぬ。若(も)し灯火(ともしび)の漏れ来(こ)ずば、それと分かじ、野辺(のべ)の里。』
周囲の空気が一気に冷却し、凍結を始めた。
広範囲の凍結呪文で、爆裂のエネルギーを防御しようというのだ。
サタン・クロースが最後の呪文を唱え終えようとしたその瞬間―。
「おっとぉおおおおおお!!」
レッド・ズッキーニャ、サタン・クロースの娘が叫び声を上げ、サタン・クロースに駆け寄った。
「ズッキーニャ! おめぇ! マントのヤツ・・・殺れなんだか。」
「おっとぅ! 死んじゃヤダ!」
「すまんなぁ。おっとぅは・・・。もう助からんのじゃ。」
「やだやだ! 帰ってくるって言ったじゃない!?」
「すまんこったな。約束・・・守れんかったな。」
「うわぁああん。よくも! よくも! おっとぅを!! おっとぅをいじめるなぁ!!」
ズッキーニャが叫んだ。
そう言って、サタンとオレたちの間に立ちはだかった。
「あれは! サタン・クロースの娘か!」
「その通りです。マスター。」
「このままでは、あの娘も巻き添えになるぞ!」
「ジン殿! もう間に合いません!」
アテナさんもそう言って、目の前の凍結防御呪文に集中していて、身動きができない様子だった。
だが、かと言って呪文をやめるわけにはいかない。
「いや・・・。ここから前に出て、あの娘を助けるわけにはいかん。こっちの身が危ない。」
ギルガメシュ兵長も苦渋に満ちた顔をしている。
「あれは、犯罪者の娘です。見捨てて当然!」
そう、ツン・グースカが言う。
オレはそれを聞いて、胸の内側がざわつくのを感じた・・・。
今では、もう遠い・・・遠き故郷のモラルでは、親が犯罪者だったからと言って、その子には罪はない、と考えられていた。
人は生まれながらにみな平等であるのだ。
そんなことを考えた時、サタン・クロースの目がこちらを見て、こう叫んだのだ。
「は・・・恥を忍んで・・・頼む! 娘を! 娘の命だけは! 助けてやってくれぇ! も・・・もう我は魔力の暴走を抑えるのは・・・限界じゃ!」
その声を聞き、オレは決断した。
「いや! 親の罪を娘がかぶる必要はない! 助けよう!」
オレは力強く叫んで、助けに出ようと身を前に乗り出した!
「イエス! マイ・マスター! ただちに実行致します!」
アイがそう応答したかと思うと、超ナノテクマシンの巨大な見えざる手で、ズッキーニャを拾い抱えて、こちら側に引き寄せた。
「これで・・・よろしいのでしょう?」
アイは何事もないような顔でそう言った。
で・・・ですよね。前に出なくても、こうやって引き寄せれば良かったですね・・・。
オレは前に身を乗り出していたことを悟られないように、こっそり、引っ込んだのだった。
サタン・クロースの狂気を宿していた目が、オレのほうを見て、一瞬、優しく見えた。
「恩に着る・・・。」
「おっとう! おっとぅ! あたしも一緒に連れて行って!」
「ズッキーニャ! シューニャも生きておるのか・・・。姉妹、仲良く・・・達者で生きるんじゃぞ!」
「あああーー! おっとぅ! イヤだ! 離して!」
「お嬢ちゃん! 君のお父さんの勇姿を目に焼き付けるんだ!」
「あああ! おっとぅ!」
もうすでに膨張し、破裂寸前だった、サタンの魔力がすべて一点に集中し、膨大なエネルギーを生んでいた・・・。
そして、最後の呪文の詠唱が終わった。
『お父さん、お父さん! 魔王が僕をつかんでくるよ! 魔王が僕を苦しめるぅうううう!!!』
そして―。
ミトラ砦は崩壊した。
莫大なエネルギーの反発により、巨大な爆発が起きたのだった・・・。
~続く~
©「エレジー」(曲:マスネ/詞:ガレ)
©「冬景色(ふゆげしき)」(文部省唱歌。作詞、作曲ともに不詳。)
©「魔王」(曲/シューベルト、詞/ゲーテ)
サタン・クロースの身体から魔力が打ち消されていく・・・。
エリクトニオスの唱えた闇を払う魔法『聖者の行進』で自身の魔力が打ち消されていく。
吸血鬼の闇魔法・『エレジー』の効力が消えていく。
****
サタンたちが吸血鬼に生まれ変わったその時―。
ヴァン・テウタテスが呪文を唱えた。
『おお甘き春よ!過ぎ去った昔の、緑の季節よ、お前は永遠に去ってしまった!あの青空をもう見ることはない、あの鳥のさえずりを聴くことも!
私の幸せをみな持って、おお恋人よ、お前は行ってしまった!春が戻ってもむなしいだけ!そうなのだ!帰ってこないのだ、お前も、太陽の輝きも!
微笑みの日々は消え去ってしまった! 私の心の中は暗く凍り付いている! すべては終わった! 永遠に!!』
新たに吸血鬼となったサタンたちの身体から異常に魔力が増幅されて、肉体がチカラでみなぎってきた。
「おおお!! このパワーは!」
「なんと!」
「すばすばすば・・・るわしぃいいいいい!!」
レッド・マントも仕立て屋もそのチカラに感動していた。
ヴァン・エススが説明する。
「我ら吸血鬼はこの闇魔法『エレジー』によって、魔力も身体能力も爆発的に増大する。そして、その身体回復能力もな。」
ヴァン・タラニスがさらに付け加える。
「さらに、吸血鬼の固有能力で、たとえ死しても、その灰の中から蘇ることができるのだ。つまり、不死身!」
ヴァン・テウタテスが言う。
「だが、生き血を吸わねば、この能力は維持できない。生命力は血にあるのだ!」
「なるほど。感謝しよう。我らレッド・キャップ種族の運命はそなたら吸血鬼一族と一蓮托生というわけだな。」
「我ら吸血鬼の真祖であるヴァン・パイア様は、この大森林に拠点を作ることを望んでおられる。奴らを殲滅して、円柱都市イラムを乗っ取るのだ!」
ヴァン・テウタテスは不死国・ラグナク王国の密命を帯びていたのだった。
「行くぞ!! おまえたちも我らが仲間となれぃ!!」
そう言って、成り行きを見ていたレッド・キャップ種族の民へ次から次へと噛み付いて血を吸いにかかったのだった―。
****
闇の魔力も打ち払われ、妖精族のベッキーにかけられた草木呪文で逃げることも能わず・・・。
もはや絶望的な状況に、サタン・クロースは覚悟を決めた。
レッド・キャップ種族の英雄が残したという秘文、魔核爆裂呪文『魔王』が最後の選択だった。
「こ・・・こんな! もはや、これまでか!? 魔神王よ! 我が最後の願い! 聞き届け給えぇい!!」
『夜の風をきり馬で駆け行くのは誰だ? 可愛い坊や、私と一緒においで!楽しく遊ぼう!キレイな花も咲いて、黄金の衣装もたくさんある。
素敵な少年よ、私と一緒においで!私の娘が君の面倒を見よう!歌や踊りも披露させよう!
お前が大好きだ。可愛いその姿が。 いやがるのなら、力ずくで連れて行くぞ!』
唱えている途中で、アテナさんの聖なる槍のひと突きが炸裂した!
サタン・クロースの左胸を貫き、血がドバッと吹き出す。
「ぐ・・・ぐあぁあああああぁ・・・あぁーっはっはっはっははぁああーーーんっ!!」
サタン・クロースの魔核が貫かれたのだ!
「ぐふ・・・ふふふふふ・・・。きざま・・・らも、道連れだ・・・。我が種族は、英雄の種族・・・。ただでは死なん・・・。」
サタン・クロースはその命が燃え尽きるその間際に、最後の呪文を完成させようとその魔力をすべて魔核へ集中させた。
「なにか危険だっ! みんな逃げろ! この場にいるのは危ないっ!!」
「まずいっ! ヤツの魔力が暴走している!!」
「この・・・膨大な魔力はいったい・・・!?」
「まさか!? 英雄レベルの魔法使いが使ったという魔核爆裂呪文『魔王』かっ!!」
「みんな! 私の後ろに来るんだ!!」
アテナさんがアイギスの盾を構えた、魔力を集中させる。
みんながアテナさんの後ろに避難し、魔力で加勢する・・・。
オレ? オレは魔力なんてひとかけらも持っていない。
だから、代わりにアイと協力し、超ナノテクマシンの防御壁を集中させる。
アテナさんが呪文を唱えた!
『さ霧消ゆる湊江(みなとえ)の舟に白し、朝の霜。ただ水鳥の声はして、いまだ覚めず、岸の家。
嵐吹きて雲は落ち、時雨(しぐれ)降りて日は暮れぬ。若(も)し灯火(ともしび)の漏れ来(こ)ずば、それと分かじ、野辺(のべ)の里。』
周囲の空気が一気に冷却し、凍結を始めた。
広範囲の凍結呪文で、爆裂のエネルギーを防御しようというのだ。
サタン・クロースが最後の呪文を唱え終えようとしたその瞬間―。
「おっとぉおおおおおお!!」
レッド・ズッキーニャ、サタン・クロースの娘が叫び声を上げ、サタン・クロースに駆け寄った。
「ズッキーニャ! おめぇ! マントのヤツ・・・殺れなんだか。」
「おっとぅ! 死んじゃヤダ!」
「すまんなぁ。おっとぅは・・・。もう助からんのじゃ。」
「やだやだ! 帰ってくるって言ったじゃない!?」
「すまんこったな。約束・・・守れんかったな。」
「うわぁああん。よくも! よくも! おっとぅを!! おっとぅをいじめるなぁ!!」
ズッキーニャが叫んだ。
そう言って、サタンとオレたちの間に立ちはだかった。
「あれは! サタン・クロースの娘か!」
「その通りです。マスター。」
「このままでは、あの娘も巻き添えになるぞ!」
「ジン殿! もう間に合いません!」
アテナさんもそう言って、目の前の凍結防御呪文に集中していて、身動きができない様子だった。
だが、かと言って呪文をやめるわけにはいかない。
「いや・・・。ここから前に出て、あの娘を助けるわけにはいかん。こっちの身が危ない。」
ギルガメシュ兵長も苦渋に満ちた顔をしている。
「あれは、犯罪者の娘です。見捨てて当然!」
そう、ツン・グースカが言う。
オレはそれを聞いて、胸の内側がざわつくのを感じた・・・。
今では、もう遠い・・・遠き故郷のモラルでは、親が犯罪者だったからと言って、その子には罪はない、と考えられていた。
人は生まれながらにみな平等であるのだ。
そんなことを考えた時、サタン・クロースの目がこちらを見て、こう叫んだのだ。
「は・・・恥を忍んで・・・頼む! 娘を! 娘の命だけは! 助けてやってくれぇ! も・・・もう我は魔力の暴走を抑えるのは・・・限界じゃ!」
その声を聞き、オレは決断した。
「いや! 親の罪を娘がかぶる必要はない! 助けよう!」
オレは力強く叫んで、助けに出ようと身を前に乗り出した!
「イエス! マイ・マスター! ただちに実行致します!」
アイがそう応答したかと思うと、超ナノテクマシンの巨大な見えざる手で、ズッキーニャを拾い抱えて、こちら側に引き寄せた。
「これで・・・よろしいのでしょう?」
アイは何事もないような顔でそう言った。
で・・・ですよね。前に出なくても、こうやって引き寄せれば良かったですね・・・。
オレは前に身を乗り出していたことを悟られないように、こっそり、引っ込んだのだった。
サタン・クロースの狂気を宿していた目が、オレのほうを見て、一瞬、優しく見えた。
「恩に着る・・・。」
「おっとう! おっとぅ! あたしも一緒に連れて行って!」
「ズッキーニャ! シューニャも生きておるのか・・・。姉妹、仲良く・・・達者で生きるんじゃぞ!」
「あああーー! おっとぅ! イヤだ! 離して!」
「お嬢ちゃん! 君のお父さんの勇姿を目に焼き付けるんだ!」
「あああ! おっとぅ!」
もうすでに膨張し、破裂寸前だった、サタンの魔力がすべて一点に集中し、膨大なエネルギーを生んでいた・・・。
そして、最後の呪文の詠唱が終わった。
『お父さん、お父さん! 魔王が僕をつかんでくるよ! 魔王が僕を苦しめるぅうううう!!!』
そして―。
ミトラ砦は崩壊した。
莫大なエネルギーの反発により、巨大な爆発が起きたのだった・・・。
~続く~
©「エレジー」(曲:マスネ/詞:ガレ)
©「冬景色(ふゆげしき)」(文部省唱歌。作詞、作曲ともに不詳。)
©「魔王」(曲/シューベルト、詞/ゲーテ)
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