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目指せ!Sランク!

第100話 目指せ!Sランク! 『ギルド長アスモデウス』

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 『円柱都市イラム』の東方にある都市『キトル』。そこがこのバビロン地方の中心の都市だ。

 オレたちは今、『キトル』に向かっている。

 『イラム』の冒険者ギルドのギルドマスター・アマイモンさんから『キトル』の街のクエストを受注・達成しなければ、冒険者ランクが上がらないと聞いたからだ。



 おえらいさんの都合……ってやつだな。

 まあ、愚痴を言っても仕方ない。

 で、移動の手段はもちろん、砂竜のボス・ガレオンに乗っての移動である。300ラケシスマイル(約500km)の距離も四半刻(約30分)で着いてしまった。



 「いやぁ……。もうなれましたけど……早いものですねぇ。」

 「ああ。アーリくんも、おもらししなくなってなによりだよ……。」

 「いやいや! そ……それは内緒にしてくれるって約束じゃないですか!? ジン様ぁ!!」

 「アーリ様……。ホントにそれはネズミとして恥ずかしいですよ?」

 「アーリは小便小僧であるか!?」

 「アーリは小便小僧なのか!?」

 「ちゃんとクリーンモードできれいに洗浄しましたので、お気になさらず。」

 「もぉ!! アイ様までーー!!」



 この東方の都市『キトル』。驚くほど豊かな都市で、『イラム』よりも栄えている。

 人口はおよそ100万人。特産品は香料、香辛料、黄金などが有名。『樹上都市トゥラン』や『平原都市ナスカ・シティ』と交易が盛んである。


 香料で特に有名なものは「女神ブライアー・ローズ」、「女神ヘカテー」、「美女レウコトエー」、「王女ミュラー」といった絶世の美女の名を冠した香料だ。

 「美女レウコトエー」、「王女ミュラー」と黄金はこの街に住む東方の三賢者がもたらした品だと言われている。

 また、香辛料は『エルフ国』の樹上都市『トゥラン』からの交易の品である。



 神聖娼婦イシュタル・イナンナを祀る『イシュタルの門』から入ったところで、ひときわ大きく目に入るのは『ブルジュ・バベル』……バベルの塔だろう。

 このバビロンの都市『キトル』に建てられた天高くそびえる塔なのだ。

 「ジン様! すごいですね! 僕、『ブルジュ・バベル』、初めて見ましたよ!」

 「ジン様。この『ブルジュ・バベル』ですが、旧世界の神話に出てくるブルジュ・ハリファをモデルにしたと言われています。ブルジュ・ハリファというのはその当時の人類が驕り高ぶり天にまで届く塔を建てたため黙示録の戦いで雷が落ち、崩れ去ったと言われています……。」

 オリンがそう説明してくれた。



 いやいやいや……。それ、逆じゃないか? いや、逆だっけ……?


 (お答えします。ブルジュ・ハリファが『バベルの塔』を模したという記録はございません。)

 (だよね……。この時代というかこの世界で変なふうに曲解されてしまったのかな……?)

 アイ先生。すかさず答えてくれるのはさすがです!



 「さて……。冒険者ギルドはどこだろう?」

 「マスター。この『キトル』の街のマップは、すでに作成済みでございます。」

 「さすがアイだな! 仕事が早い!」

 「いえ……。そんな……。当然のことでございます。」



 「ジン様。冒険者ギルドへ顔を出した後、『キトル』の街の王、ナボポラッソル王へ謁見をするのがいいと思います。」

 「アーリくん。それはそうだね。まあ、あまり偉い人に会うのは緊張するから遠慮したいところだけどね。」

 「ジン様。かの王は『イラム』のシバの女王の夫君であらせられます。ジン様は『イラム』の英雄です。受け入れられるのは間違いないと思いますよ。安心してください。」

 「オリン……。そうだね。ありがとう。勇気が出るよ。まあ、まずは、アマイモンさんに言われた冒険者ギルドのアスモデウスさんに会いに行こうか!」



 しばらく歩いて大通りを進んでいくと、冒険者ギルドは見つかった。大きな看板で『冒険者ギルド』と出ている。

 『イラム』と同じ『七雄国文字』と言われる文字で書かれており、もちろんアイ先生に習得・翻訳してもらったのでオレは日本語のように読める。

 ギルド内にはやはり出会いと別れの酒場『デュオニュソスの酒場』があった。時刻はまだ昼の刻だからまだ開いていない。



 受付には超イケメンのバリッとスーツで決めた美男子と、威厳のある竜人とかわいい猫の獣人の女性二人が忙しそうに仕事をしている。

 まわりには冒険者であろう者たちでごった返していていっぱいだ。


 猫の獣人の女性が叫ぶ。

 「セーレくん! そっちでこの人、受けてくれる!?」


 「アイムさーん……。こっちも忙しいんですよぉ! ブネさんにお願いしてください!」

 「おい! セーレ! こっちも忙しい。猫の手も借りたいくらいだ!」

 「ブネちゃーん? やーよ! 手、貸さないよーっ!」

 「アイムちゃーん! こっちまだぁ?」

 「はいはーい! えっと……。じゃあ、報酬はこちらでーす!」



 うーーーん……。これは混んでて時間かかりそう……。

 困ったな……。どうしようか……。

 「ジン様。イシカに任せろであるぞ!?」

 「ジン様。ホノリに任せろなのだ!!」

 イシカとホノリが、ずんずんと前へ進んでいった。

 ……大丈夫か?



 「たのもぉーーーーーーーっ!!」

 「たのむのだぁーーーーーっ!!」

 イシカとホノリが同時にバカでかい声で受付に向かって叫んだ。

 これにはギルド中にいた人たちがみんな、手を止めてオレたちのほうを見た。



 「……なにか御用でございますか?」

 そんな中、声を書けてきたのは、受付で忙しそうに働いてきたギルドの人たち……ではなくて、隅に佇んでいた、杖を持ち、尾を生やした手の長い鬼のような姿の醜い男だった。

 つか、他の三人は忙しそうなのに、この人のところには誰も来てないのね……。


 「あ……。ギルドの方ですか? オレはジンと言います。『イラム』のアマイモンさんから言われて……。ええと、アスモデウスさん……っていますか?」

 オレはアマイモンさんに書いてもらった紹介状を見せながら、尋ねた。

 すると、その男は目をギラリと光らせてこっちに手を見せてきた。



 「アスモデウスさ・ま……とお呼びなさいっ!! ワタシはロノウェ! アスモデウス様の忠実なる部下にして、彼女の偉大なる愛に生かされてる下僕でございます!!」

 突然、大声でオレの目の前に顔を寄せて発狂したように叫んだ。

 あぁ……。これ、変な人に捕まっちゃったパターンだ……。



 「アマイモン!! ヤツの紹介とは……! またしてもアスモデウス様のお手を煩わせようと言うのか!? あの男は!! んんんーーー? ア・ナ・タ……偉大なる御方を前にして……色目使うんじゃあねぇゾ!? いいな? コラァ!?」

 な……なんだ、こいつ。アスモデウスさんに異常な愛情でもあるのか……。


 (マスター! この男……精神のバイオリズムの波が激しい数値を示しております!)

 (つまり……?)

 (狂人……と推測されます! お気をつけを……。)



 うわぁ……。一番絡みたくない相手だわぁ。

 すると、奥から服着てないんじゃないか? ……ってくらいの生地が小さい黒の水着を着た、またそのお胸が巨乳……いや爆乳……いや、魔乳か!? ……ってくらいのお色気ムンムンの美しい王冠をかぶった長い赤髪の女性が現れた!

 しかし、明らかに人間ではないとわかるのが、その女性には背中にドラゴンの翼と、右肩に牛の首と左肩に羊の首がついていたのだ……。



 「はいはぁい……! なにさわいでるのぉ? ロノウェ?」

 「ああああーーー!! はい! 我が最愛のアスモデウス様ぁ!! こいつらが、アスモデウス様に会いたいと申しております!!」


 アスモデウスは、オレたちをゆっくり一人一人見定めるかのように、舐め回すかのように見ていく……。



ゴクリ……。

 なんだか、すごい緊張感が漂う……。




 「あらぁん!! かわいいじゃないの!? ううん! もぉ! ほら! なにしてるの? ロノウェ! 早くア・タ・シの部屋に連れ込んじゃいなさぁい!!」

 「は……はいっ!!」



 なんだか、気に入られたようだ……。

 オレたちはギルドの奥のギルドマスターの部屋に案内されたのであったー。



~続く~

※参考 byウィキペディア
『旧約聖書』「エステル記」の『タルグム・シェーニー』(エステル記の二番目のアラム語訳および註釈)はソロモンとシバの女王に関して以下のような異説を載せている。 あるときソロモンは東西の諸王を招いて大宴会を開いた。その酒宴に遅参した鳥のヤツガシラに激怒したが、ヤツガシラの話す驚くほど豊かな東方の都市キトルとその地を治めるシバの女王に興味を示し、女王に親書を届けるように命じたという。

●「女神ブライアー・ローズ」という中世の神話は、処女をイバラの薮の中のバラとして描いている。このイメージは、詩人セデュリウスが古い昔に用いた性的なイメージであった。

「茂みの栄光にして、王冠なる愛らしきバラの
自らはとげを持たねど、とげの間より咲き出でしごとくに、
イプの根より萌え出でし新しき乙女マリアは、
古き昔の最初の乙女の罪をあがなえり」

●ギリシャ神話では、ラベンダーは女神ヘカテーに捧げられたハーブです。


●同じくギリシャ神話ではヘーリオスはその罪により生き埋めにされたレウコトエーの死体にネクタールを降り注ぎ、彼女の姿を乳香の木に変え、天界へと連れていったという。

●没薬(ミルラ)も中国で命名された没薬の没も苦味を意味するヘブライ語のmor、あるいはアラビア語のmurrを語源としているとされるほか、ギリシア神話のミュラーに由来するとされることもある。


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