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幕間3

第119話 幕間その3『下僕たちの冒険』

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 『巨人国』のあるゾティーク大陸の西方には、氷に包まれた大陸・北極大陸があり、そことゾティーク大陸を隔てる海には巨大な氷の壁がそびえ立っている。

 その南方にある淡水の海『アプスー』に、氷に覆われた海域と極寒の海が広がっているのだ。

 あまりの寒さであらゆる生き物がその活動を制限される。



 その氷塊が漂う極寒の海の底、光も届かない暗闇の中に三尾の龍が身を固めていた。

 巨大な氷塊によって海底に沈められた彼らは身動きができなくなっていた。

 燃える炎の塊のような龍の生命力を少しずつ消費し、極寒の世界に抵抗しているのだ。



 「タロエルよ……。おまえだけでも生き残って欲しい……。我らの魔力を受け取れ!」

 「いや……! レオネル兄さん……。まだ諦めちゃダメだ! それに僕はまだ大丈夫です。それよりアストラエルのほうが心配です……。」

 「タ……タロエル……。私もまだいけます……。だけど、このままではジリ貧だ……。レオネル兄さんの提案も一理あると思います……。」



 三尾の龍たちはそれぞれがお互いを思いやって、なんとか耐えに耐えていたが、自分たちの上にのしかかる巨大な氷塊を排除することは敵わなかった。

 レオネルとアストラエルは兄弟で、かつ、タロエルといとこ同士でもあった。

 しかし、本家はタロエルの一族であり、前『龍国警備隊』隊長の末っ子であるタロエルの初任務と言っていいこの任務で彼を死なすわけには行かないと兄弟は思っているのだ。



 「そうだ……。タロエルよ。今から我ら兄弟が、おまえにすべての魔力を注ぎ込むゆえ、この氷塊の隙間からおまえだけでも脱出するのだ。」

 「それは承服できません! こたびのこの不始末は僕の責任なんです! それに敬愛するレオネル兄さんや、幼馴染のアストラエルを犠牲に僕だけ生き残るなんてことは……。できません!!」

 「タロエル……! ダメだ! 君だけでも生き残って欲しい。これは私とレオネル兄さんの気持ちなんだよ。」

 「嫌だ! それなら、君が生き残ればいい! アストラエル!」

 「タロエル!」



 三龍たちが言い争いをしているところに、なんだか音が聞こえてきた。


 ギュリュリュリュリュ……



 「ちょっと静かに……! なにかの音が聞こえる!」

 「レオネル兄さん!? ……たしかに聞こえますね……。」

 「うん……。アストラエル……。君も聞こえるかい?」



 身動きできない三龍たちの耳に聞こえてきたのは何かのスクリュー音……。


 「まさか……!? スクリュウか?」

 「ティアマト様のスク竜部隊では……?」

 「ティアマト様が動いてくれたのか……!? しかし、それでも我らの位置をよく探知できたものよ……。」



 すると三龍たちの前に無機質な金属のボディのゴーレムらしきものが現れた。

 そのゴーレムは光を放ち、三龍たちを照らしたのだ。

 そして、何かの信号音を発していた。



 ピコーォ……ン。

 ピコー……ン……。


 それはアイの派遣した深海無人探査機『かいこう』であった。

 音波と電波のソナーでこの一切の光が届かない暗闇の世界で、三尾の龍を発見したのである。



 『かいこう』はこの深さ7ラケシスマイル(約11000メートル)の深海にまで潜航能力のある潜水探査挺である。

 そしてその背後には海龍ラハムとラフム率いるスク龍たちの軍であった。

 このスク龍という種族は潜航能力に特化した龍族で、海龍王ティアマトの配下である。



 「ぐははは……。本当にタロエルたちがいたわ! この『かいこう』というゴーレム……本物であった!」

 海龍ラフムが叫ぶ。もちろん深海なので、音波となってタロエルたちにも響く。

 赤い帯と6つの巻き髪を持つ雄の龍でティアマトの息子だ。


 「我ら海龍でも探知できぬほどの深海でのこの正確無比な補足能力………少し恐ろしくもあるな。」

 海龍ラハムも唸る。

 赤い帯と6つの巻き髪を持つ雌の龍でティアマトの娘であり、ラフムの姉だ。





 海龍ラハムと海龍ラフムは『ティアマトの11の怪物たち』と呼ばれるティアマト所属の強力な龍であった。

 彼らは海の嵐などを神格化したとされる海の魔物で、その名は『凶暴』を意味する。

 その強力な能力でさえ、この広大な海の藻屑と消えたものを探し出すのは難しい。

 それをいとも簡単に探し出してみせたこの無機質なゴーレムの能力に、彼らは感心するとともに恐れを抱いたのであった。



 「この海底から引き上げる能力は、この『かいこう』にはございません。あとはラハム様、ラフム様。よろしくおねがいします。」

 アイの声が直接、頭の中に響く。


 「「わかった。あとは任せておれ。」」

 二尾の海龍は音波を揃えて返事をするのだった。



 「助かった……。すまんかったな。」

 「まさか、君たちが来てくれるとはね。」

 「海龍王様に感謝せねばな……。」

 三尾の龍たちは口々に言う。



 「海龍王様と、天空龍王様とは親しき仲。当然であろう?」

 そう言ってラハム、ラフムの二龍とスク龍族が氷塊を砕き、三尾の龍たちを救出した。

 だが、なんとか意識は保っていたものの三尾の龍たちは弱りきっていた。



 海上に引き上げられたものの、今度は海龍たちに彼らを陸地、レムリア大陸のある『龍国』にまで運ぶ手段がなかった。

 ……というのも、三尾の龍たちの体力が尽きかけていたからだ。一番近い陸地はゾティーク大陸の『巨人国』であるが、急を要するこの状況で果たしてすんなりと受け入れてくれるだろうか……?

 そんな心配の中、潜水艇『かいこう』からアイの声がまた発せられた。




 「ご心配なく……。コタンコロが来ております。彼にみなさんを運ばせましょう。」

 そう言った瞬間、上空に巨大な鳥が出現した。

 そして、三尾の龍たちをその足で掴み上げると、冷えないようにその周囲をアイの超ナノテクマシンで温め、保温モードにしたのだった。



 「では、あとは我に任せよ!」

 「うむ。任せた。」


 こうして、コタンコロは一目散に『龍国』へ引き返すのだった。




 その後、こうして、コタンコロと『ヴァスコ・ダ・ガマ』は『龍自由連盟』との親睦をさらに深めることとなった。

 後にこの『龍国』との航路は、東インドラ航路と呼ばれ、ルネサンスの繁栄に大いに貢献することになるのだ。

 インドラとは雷神のことで、コタンコロが雷撃一発で道を開いたことから、名付けられたという……。


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 さて、一方その頃ー。



 マル・コポ郎を無事救出したアイは、『帝国・南部幕府』の都市『風天市』に侵入していた。

 マル・コポ郎からの『帝国見聞録』の情報で、この国の地理関係はすでに把握していたアイは三匹の魔物のうち『猿』を捕らえにやってきたのだ。

 『南部幕府』は、南北に1.6~1.7ドラゴンボイス(約2500km)、東西に1ドラゴンボイス(約1500km)、高さは20ドラゴンフィート(約100m)の長大で亭亭たる城壁に囲まれた城塞国家であり、その内部は碁盤の目のような整然とした都市造りになっていて、その『南部幕府』の北西の最大の都市が、この『フウテン・シティ』である。

 この『フウテン・シティ』は風天ヴァーユが治めている。



 近くに『カカ王山』と呼ばれる山があり、そこは神の食べ物と称される『カカ王』の生息地なのだ。

 そして、今、この街の『カカ王』商人の家を訪ねてきた者がいた。



 「こちらにハヌマーンという猿がいると聞いてきたが、ハヌマーンはおりますか!?」


 「え……!? 父ちゃんに用か!? 父ちゃんは……今はいないよ……。」

 出てきたのは猿の娘・セイティーンだった。



 「あんたは誰だい……?」

 セイティーンが訪ねると、アイが答えた。




 「ハヌマーンの所有者……ですわ!」


 「ええ!? 所有者!?」



~続く~

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