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第二章
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しおりを挟む「セオドア様ね……」
「はい。自意識過剰かもしれないんですけど、特殊な状況なので、どう対応していいか分からなくて……」
「そうよね。思春期の男の子が、可愛い巨乳の女の子を、好きにならないはずないですものね」
「ディ、ディアナさん……」
ディアナさんから、「巨乳」という単語が出てくるとは……。
「私だったら、好きになるわよ、絶対。こんな可愛いミアさんが、自分のために献身的に、身を差し出してくれたら、ころっといくわね。間違いなく」
美しいご尊顔で、言い切られる。
「そ、そうでしょうか。眼鏡もかけて、髪もひっつめで、愛想もないので、とてもそんな風になるとは思えないんですが……」
「そこが逆にぐっとくるわね。完全にギャップにやられるわ」
ぐっと……。ディアナさんこそ、言葉のチョイスと、顔のギャップがすごいです……!
「ど、どうすれば良いと思いますか? セオドアさんが元気になる為に必要な事だとは、分かっているのですが……」
「……18禁乙女ゲームですものね……」
「はい……」
「逆にお色気ムンムンで迫ってみるとか? その方が萎えそうだわ」
「……確かに」
「待って、ごめんなさい、ミアさん。もし、向こうが受け入れてしまったら、セオドア様ルートになっちゃうわ」
「そ、それは……やめておきましょうか」
「セオドア様ルートはプレイした事がないから、情報がなくて……せっかく相談して下さったのに、お役に立てなくて申し訳ないわね……」
「いえ! こうやってお話を聞いて下さるだけで、嬉しいです。誰にもこんな事、相談出来ないので……」
「……その、ルカ様とはどうなのかしら? 随分と前にお話を聞いた以来でしょう? その後何か進展はあったのかしら?」
前に話した時とは、ルカ君に対する自分の気持ちが、全然違っている事に気がつく。
「……えっと、仲良くさせてもらってます。放課後、よく図書館で一緒に過ごしていて、恋人? になるのかな……?」
「やだ! 本当に!? 良いわね。青春ね! 素敵!!」
「あの、でも、やっぱりヒロインだからこそ、そんな風になってるんでしょうか……?」
「ヒロインだから? そんなもの気にしないで良いのよ!! じゃないと、私だって殿下と、今みたいになっていないもの!」
「た、確かに、そうですね」
ディアナさんは、強いな。明るくて前向きな力があって、まさにヒロインだ。
この世界では、ヒロインだけど、ヒロインじゃない私は、どう振る舞うのが正解で、どうしたら、みんな幸せになれるんだろうか……?
◇◇◇
年末の休暇が始まり、ルカ君のおうちの馬車に乗って、辺境領へと向かう。
王都から、辺境領まで三日かかるので、途中で宿泊をするらしい。
「母さんが、ミアさんが来るのを楽しみにし過ぎて、色々と用意してるらしくて……」
「その、ただの友達なのに、図々しく、おうちに泊まらせてもらっても良いのかな?」
「……ミアさんの事は、友達というか、大事な人を連れて行くって言ってあるんだけど」
「そ、そうなんだね」
「良かったかな?」
「うん。緊張するけど、嬉しいよ」
「……良かった」
ほっとした顔をして、手を握られる。
「ずっと、ミアさんと一緒にいられるなんて、夢みたいだ」
甘い言葉に、思わず顔が熱くなってしまう。
「ミアさん?」
「あ、ごめん、昨日あまり眠れなくて、ぼーっとしちゃって」
「眠れなかった?」
「ルカ君の実家に行くと思うと、なんだか緊張してしまって……」
「みんな、ミアさんが来るのを楽しみにしてるよ。南部と違って田舎だし、貴族でも、おおらかな人達ばかりだよ」
「ありがとう。うん、ちょっと気が楽になったかも」
「……今日は、眼鏡をかけてないんだね。髪もいつもと違う」
髪の毛は、ひっつめじゃなくて、緩く編み込んでまとめている。お店の手伝いをするのに、普段も下ろしてはいなかったから、いつもみたいにしてみたんだけど……、久しぶりだからか、少し落ち着かない。
「普段はこうだったから、お休みの時は良いかなって。変じゃないかな?」
「とても似合ってるよ。うん、そうやって、いつものミアさんでいてくれたら嬉しいな」
「……せっかくのお休みだし、一緒に楽しもうね」
「そうだね。沢山連れて行きたい所があるから、忙しくなるよ」
「あの、……週末の日は、セオドアさんの所に行くと、ユリアさんと約束していて、ユリアさんが迎えに来てくれる事になってるんだけど……」
「……そうか、そうだね。それなら、僕が送って行くよ。うちが、ミアさんをお預かりするんだから、責任を持って送って行かないと」
「いいの? ユリアさんに、わざわざ迎えに来てもらうのが申し訳なかったから、……ありがとう」
「もちろんだよ。ユリアの家までなら一日で着くからね」
「……ルカ君だけでも、辺境領まで、転移魔法で移動した方が楽だったんじゃないかな?」
「ああ、でも、転移魔法だと、僕が抱えられるくらいの人や物しか一緒に運べないからね。それに、移動距離と比例して力もいるんだ。まだ、一度に沢山の力を使うのは、制御が難しくて。……ザイードが、前に神力が暴走したのも、久しぶりに力を使ったせいもあったと思うんだ」
「そうだったんだね……」
「それに、ミアさんと一緒に馬車で行く方が、絶対に楽しいしね」
ルカ君が、笑って言う。
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