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第二章
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しおりを挟む「……ナタリーさんと、アルフレッドさんは?」
「……ミアさんは、アルフレッドみたいに、大人の男の方が良かった?」
ルカ君が、頭に顔を埋めて呟く。
「ううん、そんな事ないよ。そうじゃなくて、二人を置いてきてしまって、良かったの?」
「大丈夫。ここに僕達がいるのは、分かってると思うから」
「そ、そうなんだね」
「…………いつも、自信が無かったんだ。出会った時は、僕の方がずっと幼くて、やっと外見は追いついてきたけれど、それは、ミアさんのおかげで、ミアさんの方が、ずっと中身も大人で」
う、うん、ごめんね。中身がアラサーだから……
「僕が必死に願って、それを、ミアさんはいつも叶えてくれる。……けど、ミアさんが聖属性だから、選んだ訳じゃない」
「うん、それは、分かってる。ごめんね」
「分かってないよ。……僕が、どれだけ、ミアさんを好きか」
ルカ君に、首筋を、甘噛みされる。
「ん、だ、だめ」
「……どうして?」
「ちゃんと、話がしたい」
「…………分かった」
腰に回されていた腕を解き、ルカ君の方に向きを変えて、手をぎゅっと握る。
「さっきは、突き放す様な言い方をして、ごめんなさい。……私も、ずっと、自信が無かったの」
「……ミアさんも?」
「うん。自分で良いのかなって。ルカ君がちゃんと大人になったら、私なんかよりも、相応しい人を選ぶんじゃないかなって、ずっと、そう思ってた」
「そんな事、絶対に、ない」
「うん、ありがとう。……でも、絶対なんて、無いでしょう? そんな事言い出したらキリが無いのも分かってる。ただ、もし、自分が聖属性じゃなかったら、って考えてしまって。もし、そうだったら、ルカ君には選ばれて無かったんだろうなって」
「…………僕は、ずっと、自分が魔属性の人間である事が、嫌で嫌でしょうがなかった。なんで、こんなに縛られなきゃいけないんだって。理不尽だって。……でも、ミアさんと出会って、初めて良かったって、思ったんだ。ミアさんと会う為だったんだって。魔属性の人間で良かったって、初めて心底思えたんだ」
泣くつもりなんか無かったのに、目の端から、ぽろっと涙が零れ落ちていた。
「ごめん」
慌てて手で拭う。
握っていた手をそっと振り解かれ、ルカ君に、ぎゅっと抱き締められる。
「不安にさせて、ごめん」
ルカ君に優しく言われ、ぽろぽろと涙が出てきてしまう。
ルカ君が、零れた涙をそっと舐め、ぎゅっと頭を抱える様にして、キスをされる。
角度を変えて、何度も何度も、唇を喰む様に重ねられる。
「……ミアさんが、好きだよ。何度言っても足りない位、好きなんだ。……どうやったら、伝わるのかな。今まで、こんな気持ちなった事がないんだ」
「私も……」
言葉にするのが、もどかしくなって、私からルカ君にそっとキスをする。
ルカ君の表情が固まり、顔が真っ赤になってしまう。
自分でも顔が熱くなる。
「それは……ずるいよ。ミアさん……」
ルカ君が、赤い顔のまま呟く。
「…………このまま、ミアさんを押し倒してしまいたいんだけど、」
「え、う、うん」
「ミアさんを、大切にしたいから、やめておく。ちゃんと、手順を踏んでからにする。自分の欲望のままに、ミアさんに触れたりしないって誓う」
ルカ君の真剣な眼差しと、言葉に、こくりと頷いて応える。
そっと抱き締められ、
「……とりあえず、ナタリーに謝らないと……母さんにも叱られるな。きっと……」
と、ルカ君が諦める様に呟いた。
◇◇◇
夕食のために、またドレスを着替えるらしい……。
ナタリーさんが、取り出してくれたものの中から、選ばせてもらう。
「ナタリーさん、今日は、色々と無理を言ってしまい、申し訳なかったです。……本当に、ありがとうございました」
あの後、ナタリーさんとアルフレッドさんが、焼き菓子のお土産を、しっかりと買って来てくれて、ルカ君と、そのお菓子を頂きながらお茶をした。
ナタリーさんが淹れてくれたお茶を、ばつが悪そうな顔で飲んでいるルカ君が、なんともおかしかった。
「いえ、ミア様とルカ様が、仲直りされて良かったです」
「ナタリーさんの、おかげです」
「私は、ミア様が望まれる事を、ご用意しただけですよ。ルカ様と、向き合って下さり、ありがとうございました」
「っ、いえ、ナタリーさんが、ルカ君に言って下さった言葉に後押しされて、ちゃんと話が出来たんです」
「……それなら、良かったです」
ふ、とナタリーさんが微笑む。
「……ナタリーさんは、ルカ君と昔からの付き合いがあるんですか?」
「そうですね。ルカ様と弟が同い年で、母が乳母をしていたんです。ですので、分不相応かもしれませんが、ルカ様の事は、弟の様に思っております」
そうなんだ。格好良いお姉さんだな。ディアナさんとは、また違う意味で憧れてしまう。
「イブニングドレスは、コルセットをつけますので、ミア様、少しの我慢が必要になります。……いきますよ」
背中で編み上げられたリボンを、ぎゅっと締め上げる。
肋骨がグッと締められ、自然とお腹に力が入る。
「もう少し、いけますね」
「ま、まだ、締めるんですか……?」
「はい。ミア様は締まる所が締まってますので、まだ、いけるかと」
と言いながら、更にリボンを引っ張られる。
こ、こんな状態で、お腹にご飯が入る気がしません……!
ディナー用のドレスは、オフホワイトのレースが重ねられ、清潔感がありながら、華やかなドレスだ。
長袖だけれど、昼間に着たドレスよりも胸元が開いていて、コルセットで胸が強調されて、しっかりと膨らみが見えてしまっている。
恥ずかしいけれど、イブニングドレスは、肌の露出が必須らしい……。
夕食の時間になり、ドアを叩く音がして、ナタリーさんがドアを開けてくれる。
タキシード姿のルカ君が、目を見開いて立っていた。
「…………」
「ルカ様、何か一言でも良いので、仰って下さい」
「あ、ああ、……女神が舞い降りたのかと思って、びっくりした……」
ナタリーさんが、「まあ、良いでしょう」という顔をしていて、つい笑ってしまう。
「着慣れていなくて、恥ずかしいんだけど……」
「こんな素敵なミアさんを、エスコート出来るなんて光栄だ」
と、腕を差し出してくれる。
ルカ君の腕にそっと手を乗せ、食堂へと向かう。
「ルカ君の、そんな姿も新鮮。格好良いね」
「……ありがとう。最近、格好悪いとこしか見せてない気がしてたから、そう言ってもらえて、ちょっと安心した」
ルカ君が、少し照れた顔で言う。
「ルカ君は、アルフレッドさんが着てたみたいな服も、着たりするの?」
「……どうして?」
「えっと、アルフレッドさんと、ルカ君て少し似てるでしょう? ルカ君があんな服を着たら、どんな感じになるんだろうと想像してしまって」
少し大人になった、軍服姿を着ているルカ君を見ているようで、ドキドキしてしまったのは言わないでおく。
「……アルフレッドは、分家の出で、昔から似てるって言われてたんだ。気さくで優しくて、よくモテるんだよね。適齢期になって、益々人気があって、でも、似てるはずの僕は幼いままで、ずっと、コンプレックスだったんだよ」
「……ルカ君は、格好良いですよ?」
「ありがとう。……ミアさんに、そう思ってもらえたら、もういいや」
と、嬉しそうに笑ってくれる。
ルカ君は、どんどん成長していて、その変化に戸惑うし、いつもドキドキしてしまう。
「……ミアさん、そのドレス、とても似合ってるね」
「ありがとう。……貴族の方って、一日に何度も着替えて、大変なんだね」
「ああ、確かに。でも、色んな姿のミアさんが見られて、嬉しいよ。……今のドレス姿は、綺麗過ぎて直視できないけど……」
「……ごめん。ちょっと露出が多いよね……」
「いや、そうじゃなくて、眩しくて、ずっと見てられない感じ……」
「? そうなの?」
ドレスの生地に、ビーズがついていて、キラキラ光ってるからかな。
「…………後で、キスしても良い?」
「えっ、……う、うん」
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