流行りじゃない方の、ピンク髪のヒロインに転生しました。

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第三章

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 セリーナ様に挨拶をして、エリカさんと、同席するユリアさんの二人で、セオドアさんの部屋へと向かう。
 私が来る必要は無かったのだけれど、エリカさんの、不安な様子が気になってしまい、一緒に来させてもらう事にした。一緒に部屋には入らず、隣の部屋で待たせてもらう。

 しばらくして、バタンと扉の開く音がして、パタパタと足音がする……
 すると、この部屋の扉が開いて、エリカさんが入ってきた。ブラウスの前をぎゅっと押さえて、少し涙目になっている。

「エリカさん? どうしたんですか?」
「……ごめんなさい。やっぱり、こんなの無理。……ごめん、ミアさんは、ルカを、助けてくれたのに……」
「…………いえ、私こそ、エリカさんが無理をされているのに、気づかなくて……、神官様も、エリカさんの心のままに……と仰っていたでしょう? 無理なら、それで良いんです。出来る人がしたら良いんです」

 ユリアさんが、心配そうな顔で部屋に入って来る。

「エリカさん……、大丈夫かしら?」

 エリカさんが、下を向いてしまう。

「ユリアさん、エリカさんの側にいてくれますか?」
「ええ、良いけれど……、ミアさんは?」
「セオドアさんの所に行きますね」
「……いいの? ミアさんは大丈夫?」

 ユリアさんが、私の事も心配そうに見る。

「はい、大丈夫です。この間は、突然の事で、セオドアさんを、驚かせてしまって申し訳なかったです。いつもなら、あんな事ないですから」
「……そう、なら、……ミアさんに、お願いしても良い?」
「はい」
「ありがとう、……いつも、ごめんなさいね」

 ユリアさんと目が合い、申し訳なさそうな顔をするので、首を振って大丈夫だと伝える。

 
 セオドアさんの部屋の扉をノックする。

「……誰かな?」
「ミアです」
「……どうぞ、入って」

 扉を開けると、セオドアさんが、心配そうな顔でこちらを見る。

「……ミアさんも、来てたんだね。……僕が、エリカさんに、何かしてしまったかな?」
「……初めての時は、不安になってしまうので。私も、そうでしたから」
「…………ミアさんの初めては、ルカだった?」
「はい……」
「……僕が元気だったら、ミアさんはここには来てくれなかっただろうけれど、学園で出会う事は出来たのかな?……でも、一つ年下だから、結局一番には出会えなかったんだね……」
「私は、先輩として、学園の事を教えてあげられますよ?……セオドアさんが、元気になったら、学園に入学して、沢山の出会いがあると思います。模擬訓練はちょっと大変ですけど、同級生と力を合わせてする事で、距離が縮まりますし、サウィン祭りや、私もまだ経験した事はありませんが、……春には花祭りもあるんですよ。……セオドアさんにも、学生の時にしか出来ない、楽しい経験を沢山して欲しいです」
「……うん、楽しみだな」


 セオドアさんが、体液を飲み終える。
 ブラウスのボタンを止めながら、先程の、エリカさんとの会話を思い出し、自分の出来る事の少なさについて、ぼんやりと考えていた。

「……ミアさん?」
「あ、……すみません。少し考え事をしてしまって」
「ミアさんが、ぼんやりするなんて、珍しいね……どうしたの?」

 セオドアさんの、優しい問いかけに、思わず口にしてしまう。
 
「……私は、出来ることが、とても少ないな、と思って……」
「出来ること?」
「……はい。神力もあまり高くなくて、使い方もまだまだで……、薬草の事も詳しく無いですし、」
「……誰かと比べてる?」
「あ……、はい、そう、ですね……」

 本当だ。無意識に、エリカさんと比べてしまっていた。
 
「ミアさんが来てくれる様になってから……、僕は、日中ずっと起きていられる様になって、最近では、調子の良い日は散歩も出来るし、歩く距離も増えてきてるんだよ」
「……本当に、良かったです。嬉しいです……」
「それは、ミアさんのおかげだよ? 段々と弱っていく僕を見ている母や、父も、ユリアだって、すごく悲しい顔をしていたんだ。それが、笑って話せる時間がどんどん増えていって……僕にとっては、奇跡なんだ。ミアさんは、奇跡を起こしてくれたんだよ」
「……私が?」
「目の前にいるんだから。ミアさんが元気にしてくれたんだよ? 僕がその証だ」
  
 セオドアさんが、柔らかな笑顔で言う。
 何故か、泣きそうになってしまう。

「…………セオドアさん、ありがとう」
「僕の方こそ」

 元気そうな笑顔で、セオドアさんが、言う。
 つられて、私も笑う。
 
 ――始めの頃は、とても緊張していて、余計な心配をしたこともあったけれど、セオドアさんの柔らかい物腰と、人懐っこい人柄に、段々と緊張がほぐされていったんだった。

 セオドアさんにも、幸せになって欲しいと思う。ここに来るのは四月までと伝えていたけれど、学園に入学するまで、元気になった姿を見届けたいと思ってしまう。
 
「……また、来ますね」
「うん、待ってる」



◇◇◇
 


「秋まで、セオドアの所に行く……?」
「……エリカさんには、無理をさせてしまったから、私が今まで通り行くつもり。それに、セオドアさんの婚約者が中々決まらないらしくて。その……、お仕事としてされてる方にも、お願いしたみたいなんだけれど、そちらも難しかったみたいで」
「……四月までと言っていたのに、どうして、秋まで……?」
「セオドアさんも、元気になれば、九月には学園に入学するでしょう? そうすれば、色々な人と出会って、きっと、良い方が見つかるんじゃないかなって。それまでの間だけでも、と思ったんだけど……」
「……」

 ルカ君が難しい顔をして、黙ってしまう。

「セオドアさんにも、元気になって欲しいから」
「……僕が止めても、ミアさんは行くよね?」
「行っては、駄目なの?」
「っ、そりゃ、好きな人が、他の男に触れられるなんて、考えただけでも、気が狂いそうになるよ」
「でも、セオドアさんは、そんなんじゃ、」
「っ、ミアさんは、男じゃ無いから、分からないんだ!! セオドアだって、男なんだよ?」
「ユリアさんにも、一緒にいてもらってるよ?」
「……思い詰めたら、何をするか分からないよ。僕だって……」
「……セオドアさんは、ルカ君の大切な従兄弟なんでしょう? 信じて見守ってあげられないの……?」
「……セオドアだって、大切に思ってるよ。……でも、それ以上に、ミアさんが、大切なんだよ……」

 ルカ君に、痛いくらいに抱きしめられる。



「……婚約するのを、先に伸ばせないかな?」

 ルカ君がバッと身体を離し、真剣な目で見つめられる。

「……なんで、」
「セオドアさんが元気になるまでは、きっと、気になってしまうから。……私に出来る、数少ない事の一つだから。ちゃんと、最後まで見届けたいの」
「……………………分かった」

 ルカ君が、低い小さな声で呟いた。



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