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孤猿
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例えばあなたが、一匹の猿だったとする。
群れの中で平和に暮らしていたが、ある日大きな怪我を負い、体を動かすことが困難になった。
タイミングの悪いことに、季節は冬を迎える頃で、生活圏一帯の食糧が乏しくなっていた。
ボス猿は群れを率いて、移動することにした。
あなたはまだ動けない。ボス猿は、あなたを置いていくしかなかった。ただ、食糧を少しばかり残してくれたので、体を養生させることはできた。
やがてあなたの怪我も癒えたが、食糧も底を尽きた。
もうここを離れて、新しいところを探さなければならない。
思い起こされるのは仲間のことだろう。
これまでは何不自由なく支え合ってきた仲間たちだが、今はもういない。群れを追い出されたわけではないが、誰も様子を見にくることもなかった。相当遠くへ移ったか、群れが別れてしまったのかもしれない。
腹が減り、風が冷たくなってきた。
嘆くことも恨むことも、あなたはできる。
だが、そうはしないだろう。
己を哀れむことなんかより、新しい場所を探すことに労力を使わなければならないと分かっているからだ。
しかし、先のことは分からない。
明日まで待てば、誰か迎えがくるかもしれない。
旅に出れば、以前の群れを見つけられるかもしれない。
全く別な群れに加えてもらえるかもしれない。
しかしあるいは、野犬や鷲に襲われて食われるかもしれない。
自分の取る行動には、もはや善も悪もないし、他者に対する依存もない。
殊更に恐怖を抱くことも、貴重な体力を消耗するもとになる。なるようになれ、と腹を括るのが一番楽だと判る。
ただ一瞬を生きる、それしかない。その先がどうなろうとも、何の責任もない。
これが野生の世界である。社会を作る動物も、テリトリーを一歩出ればただ一個の個体に過ぎない。
われわれ人間の社会はネットワークが強力で、そう簡単には個体があぶれないように作ってある。それは、同朋に対する愛の現れである。
このテリトリーを強固にするために経済や法律が創られ、生息の範囲を地球全体に広げることができた。それはごく自然な成り行きである。
われわれが孤立の猿のような体験をすることはほとんどない。そのため、周囲への依存が残ったままでも不便にはならない。
だが、たった一人になってもしっかり己を保ち、あきらめずに生きていく強さは必要なはずである。
具体的には非常にシンプルな心構えだけだ。結果には責任を感じなくてよい。強くなりたければ、余計なものを捨てるだけで完成なのである。
群れの中で平和に暮らしていたが、ある日大きな怪我を負い、体を動かすことが困難になった。
タイミングの悪いことに、季節は冬を迎える頃で、生活圏一帯の食糧が乏しくなっていた。
ボス猿は群れを率いて、移動することにした。
あなたはまだ動けない。ボス猿は、あなたを置いていくしかなかった。ただ、食糧を少しばかり残してくれたので、体を養生させることはできた。
やがてあなたの怪我も癒えたが、食糧も底を尽きた。
もうここを離れて、新しいところを探さなければならない。
思い起こされるのは仲間のことだろう。
これまでは何不自由なく支え合ってきた仲間たちだが、今はもういない。群れを追い出されたわけではないが、誰も様子を見にくることもなかった。相当遠くへ移ったか、群れが別れてしまったのかもしれない。
腹が減り、風が冷たくなってきた。
嘆くことも恨むことも、あなたはできる。
だが、そうはしないだろう。
己を哀れむことなんかより、新しい場所を探すことに労力を使わなければならないと分かっているからだ。
しかし、先のことは分からない。
明日まで待てば、誰か迎えがくるかもしれない。
旅に出れば、以前の群れを見つけられるかもしれない。
全く別な群れに加えてもらえるかもしれない。
しかしあるいは、野犬や鷲に襲われて食われるかもしれない。
自分の取る行動には、もはや善も悪もないし、他者に対する依存もない。
殊更に恐怖を抱くことも、貴重な体力を消耗するもとになる。なるようになれ、と腹を括るのが一番楽だと判る。
ただ一瞬を生きる、それしかない。その先がどうなろうとも、何の責任もない。
これが野生の世界である。社会を作る動物も、テリトリーを一歩出ればただ一個の個体に過ぎない。
われわれ人間の社会はネットワークが強力で、そう簡単には個体があぶれないように作ってある。それは、同朋に対する愛の現れである。
このテリトリーを強固にするために経済や法律が創られ、生息の範囲を地球全体に広げることができた。それはごく自然な成り行きである。
われわれが孤立の猿のような体験をすることはほとんどない。そのため、周囲への依存が残ったままでも不便にはならない。
だが、たった一人になってもしっかり己を保ち、あきらめずに生きていく強さは必要なはずである。
具体的には非常にシンプルな心構えだけだ。結果には責任を感じなくてよい。強くなりたければ、余計なものを捨てるだけで完成なのである。
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