善悪を超えて行く者

べんぞう

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最後の罠

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悟りとはどういうものか、というイメージができて初めて、この道を進むことになる。
しかし、最後にはその「悟りたいという欲」も落とさないと悟りは訪れない。
ではどうやって悟りたい欲を落とすか?
結果から言えば、それは不可能だ。
悟りの何たるかをイメージしつつ、それをなかったことにしろということだ。
例えて言うなら、貧しい生活しか知らず、世間はみんな同じ生活をしているのよと親に教えられた子供が、ふとしたことで裕福な生活を体験し、再びもとの生活に戻った状態に似ている。
自分にできるかできないかは別として、裕福な生活というものは確かにある。忘れろと言われても、決して記憶から消すことはできない。
憧憬とか羨望とか以前に、意図して記憶を消すなどと言う芸当はできないのだ。

修行の途中で、小悟を体験する。
それをまた体験したくて、修行に身が入るようになる。
だが意識としては、悟りたい欲が強くなったせいで他の欲を落としやすくなっただけであり、悟りに対する欲が猛烈に強くなっているだけだ。
じゃあ悟りたい欲を落とすには?
悟らなくてもいい理由をたくさん見つける?
悟っても悟らなくてもいつか死ぬんだと割り切る?
罠はここにある。
マインドは、すべてを超えた素晴らしい状態、最強のカードとして「悟り」をインプットしている。
イメージが完成してしまうと、あるものとして認識してしまう。
そうなると、「無い」と証明するのは難しい。マイナスの証明は難しい。
気づくべきはここだ。
悟りを忘れる、悟りたい欲を落とす、それには、自分のマインドを説得できるだけの情報が必要になる。質の高い情報が。
だが、「悟り」の設定は最高にランクづけされているから、何を持ってきても、「悟り」はその上にずり上がる。
だから、この欲を落とすことはできない。
できない、ということをはっきり認識する。
「悟り」が存在しようがしまいが、もはやどうでもいい。
矛盾を残したまま修行してはいけない。
息を吐きながら吸うことはできない、それと同じくらい、この欲は落とせない。
もともとそういう仕掛けの修行なのだ。
完全に無理だと理解できれば、「悟り」を追う労力が無駄だとわかる。

神に愛されたいという気持ちが叶うなら、きっと最高の幸せだろう。だが、それは神をどのように認識しているかによっても違う。愛されたいのはコミュニケーション依存であるし、それを追い求めるのは労力演算だ。
悟りに対しては、人格のあるものとは想定しない。神との違いはここだろう。
「悟り」を求めるのも、ただの労力演算なのだ。
答えが無く、捨てようが無い理由はそれなのだ。
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