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第4章

106話 リザードマンの罠

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 辺りは暗闇ち包まれている。

 ジャングルの草木を掻き分けて歩き進む。
 人数は二十人にも満たないが、この人数でジャングルを歩くにしては考えられない程の静かさを保ちながら進む俺達。
 
 リザードマンの村を出てからは最低限の会話だけして後は静かに歩くのみである。
 そろそろあっち側の村に着くらしいのでより一層慎重になる。相手に気付かれない様に光も点けられない為前の人に何度か当たってしまった。

 ……リザードマンごめんね

 そして前を歩いていたリザードマンが止まったので慌てて俺も止まり息を潜める。どうやら村付近に到着したらしい。時間的にも真夜中であり恐らく起きているのは見張りくらいで後の村人達は寝静まっているだろう。ここからは一気に攻め込みその間に女性を救出する作戦だ。

 前のリザードマンから合図が来た。この合図から五分後に攻め込む予定だ。

 なんだが緊張してきたぜ……。俺とロピはとにかく他の人の邪魔にならない様に立ち回らないとな。頭の中でどう動くか考えていると前の方が立ち上がり勢い良く走って行くのが見えた。

 時間か!

 それからは、俺も立ち上がり、前のリザードマンに置いていかれない様に必死に着いて行く。
 暗闇の為、足元が見えず転びそうになりながらも、村の砦付近まで近づく。この砦で前回は村の内部に入れなかったらしいが、今回は力技で解決する事にした。

 その方法とは身体強化持ちのチルを中心に、他の身体強化系リザードマン達と一緒に、一点に攻撃をするという方法だ。普通なら無理かもしれないが、チルのスキルランクはBの為、恐らくいけるはずだ。チルとリザードマン達がスキルを発動する。

「アームズ……」

 そしてチル達は砦に対して全力で攻撃を仕掛ける。もちろん俺もサーポトをする。

「アタック!」

 チルの下に赤いラインを敷き攻撃のサポートを行う。この組み合わせで小型にダメージを与える程の威力を持つのだ。これくらいの砦なら問題無く破れるだろう。
 真夜中の静かな場所でいきなり大きい音が辺りを埋め尽くすように鳴り響く。
 恐らくこの音で村人達は起き上がり集まってくるだろう。
 チル達の攻撃で案の定砦は壊れ中に入れるくらいの道は出来た。

「よし! 中に突っ込むぞ!!」
「「「「「「おう!」」」」」」

 一度大きい音を出したので後は普通に話し始める。

「ほっほっほ。ワクワクしてきますね」
「戦闘狂め……」
「ほっほっほ。これは手厳しいですな」

 俺達は村に乗り込んでからは出来るだけ大きい声や音を立てながら乗り込む。こちらが目立てば目立つ程、救出部隊の仕事がスムーズに進むのだ。

「お兄さん私達はどうするの?」
「チルとリガスは先行してくれ」
「アトス様の命とあれば!」
「チル様に付いていきます」

 二人はスピードを上げて前に先行するが少し進み立ち止まる。そして他にも前を走っていたリザードマンや後ろから追従していたリザードマンまでも足を止める。

「ん? どうしたんだ?」
「お兄さん、囲まれてる……」
「ふむ。どうやら待ち構えられてたらしいですな」

 チルとリガスはすぐに俺達の近くに戻ってきて守る様に前に立つ。

「アトスさんどうした?!」

 トッポ達が近付いて来た。

「どうやら作戦がバレてたらしい」
「まさか!?」

 そんな事を話していると暗闇だった村から次々と火が灯される。それは前方だけでは無く後方や左右からも火が灯る。どうやら敵に囲まれたらしい。

「完全に囲まれています……」

 チルは戦闘態勢に入る様に構えを取る。それは周りのリザードマン達も同様に武器を構え円を描く様に並び全方向からの攻撃に対応出来るようにする。そして松明の火を灯しながら一人のリザードマンが俺達に近付いて来る。

「フッ、ノコノコと現れてこのザマとはな」

 ニヤつきながら近付いて来る。この村の村長だろう。

「女達を返せ!」
「何を言う? 元々のこの村の女達だ。返す理由なんてあるのか?」

 お互いの村長が主張し合う。

「それは昔の話だろ!」
「フッ、それで? この状況でお前に何が出来る?」

 辺りを見回すと情報通り百人くらいは居ると思われるリザードマン達が武器を構えている。リガスが居なかったらこの人数を相手にするなんて無理だったな……。

「助っ人を呼んだ」
「そこにいる奴らか?」
「そうだ」
「お前と言う奴は……。リザードマンとしての誇りは無いのか?」

 向こうの村長が呆れ果てた表情をしながら首を振っている。

「他種族に頼って、何がリザードマンだッ! お前達はリザードマン戦士としての恥晒しだ!」

 相手の村長が激昂して怒鳴り散らす。

「まぁ、良い。この人数相手に助っ人がいようがどうしようもあるまい」

 そして、松明を持ちながら戻っていく。恐らく集団の中まで戻ったら向こうのリザードマン達は攻めて来るだろう。

「それじゃ、アトスさん達頼むぜ!」
「ほっほっほ。チル様私達も参りますかな?」
「うん。全滅させる!」
「チルちゃんも魔族さんも気をつけてね?」

 そして二人が走り出す直後の事だった。トッポが何やらポケットから出しそれをいきやりチルの首元向けて挿しこもうとした!!

「な!?」
「チルちゃん!?」

 俺の目と脳は反応が出来ているのかトッポがチルに向かって刃物みたいなのを突き立てようと首に向かって腕を振り下ろしているのは見えている。

 しかし、身体は全く反応が出来ておらずチルを庇う事が出来ない。だがチルの首元に刃物が到達する前に黒い影がチルを突き飛ばした。

「リガス!?」

 影の正体はチルの執事であるリガスだった。そしてリガスの腕にはトッポが突き立てたと思われる刃物が刺さっている。

「ほっほっほ。チル様お怪我はありませんか?」
「な、ないよ! でもリガスが……」
「不覚を取りました……」

 そしてリガスは立って居られなくなったのか片膝を着き最終的には倒れ込んでしまう。

「チッ! 流石魔族だな。殺す気の毒を塗っていたんだけどな」

 トッポは人が変わった様な表情で忌々しいと言わんばかりにリガスを睨みつける。そしてゆっくりと相手側のリザードマン達が居る所まで歩き出す。それを止める者は居ない。むしろ誰もがこの状況に追い付けて居ないのか止められないでいる。そしてグインも驚いているのか目を見開いてトッポの歩く後ろ姿を見ていた。
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