79 / 114
第四章 「後悔」と「過去世」
79.平気なのか?
しおりを挟む
ミル様は至って冷静だった。
右肩はバーサーカー状態だったにも関わらずボロボロでもう使えない。いや、もがれてなかっただけマシか。
長期戦は最早無理。最後の決定打に賭けるようだ。
黒い革のベストを脱ぎ静かに左手で剣を構えた。
皇子の方も結構衝撃が強かったのか苦悶の表情で左手で腹を抑え右手で長剣を構える。バーサーカーは吹っ飛ばされた時に解けたのか獅子の顔では無くなっていた。割と効いたんだな。女とはダンスくらいしか踊って無いだろうし、ちょっと甘く見てたのかな?
どちらにせよ次で決まる。
俺はチラリとシャザを見た。どうするのかな?もし、ミル様が切られたら.........。
助けるか?剣士とは何か!とか言い出しそうだから途中では止めないかな。怪我の心配もして無いし。
風で.........はダメだな。神が居るからバレる。不正した、とか言われて次に進めなくなって《リンミン》貰えなくなると困るしな.........。俺は手を出せない。
少し下を向いてから再度ミル様を見る。何だか俺も過去この人に会った気がしていた。だが、かなり薄っすらだ。好意は.........無かったんだろうな。顔は全く記憶に無いんだが、なんだろう.........関わりは有ったみたいだ。すれ違った、くらいの感覚。なのに.........
実はずっと気になっていた。
彼女からする.........
花の匂いに。
身体がムズムズした。
サラが審判神に抱き抱えられた時に花の匂いがしたと言っていて、俺も気が付いた。花の.........香水などでは無い。多分これ.........番.........の。
勿論サラのとは全く質が違う。彼女の匂いはとろける甘さが有り、花と果実が合わさった身体の芯から痺れを伴う官能的で絶対的な強い芳香だ。俺の番に間違いない。だから比べようも無いのだが.........ミル様からも確かに感じているのだ。
彼女がチョッカイを出して来るのもその所為かも知れない。何か感じているのだろう。だが、口にする事は出来ない。決して交わらない。
俺はサラを幸せにしたいんだ。2人で幸せになりたい。家族になりたい。泣かせたくない。失いたく無い。
今度こそ.........間違え無い。
ああ、サラ.........どうか俺から離れないでくれ。心配で仕方がない。
無言で見つめ合うミル様と皇子を俺達も見つめる。
「シャザ.........お前.........平気なのか?」
「.................平気では無い」
「本当に?」
「平気では.........無い」
「.........そうか」
なんだ、良かった。そりゃそうか。獣人はそう言う感情薄いのかと思った。
これがもしサラなら.........いや、勝ち抜きトーナメントなんてものに絶対参加させないわ。全力で阻止してるな。それか代わりに俺が全部戦うか。
「アウィン、すまん。お前とは戦えないかも知れない」
「.........ん?」
俺がどう言う意味か聞こうとシャザに振り向いたその時、闘技場の真ん中で風が動く。
あ.........
あの"ハーレム"皇子.........余裕があるな。やっぱ獅子は特別か.........。ミル様はどうなんだろう。剣技、変化、バーサーカーと来て、若干皇子とタイプが似てるよな。と、言う事はやっぱり力じゃ無くて能力勝負か?
.................本来ならな。
俺はゲームの時同様にやろうと思えばどの角度からも観えるし聞こえる。風が運ぶのは.........ミル様の噛み締める様な息遣い。そして皇子の.........喉で笑う下卑た声。
.........そうか。
決まってたんだな。
「.................」
ミル様の脚が一瞬にして再びカモシカになり、そのまま地を蹴って高く飛び上がりレイピアを内から外へ振り切る。皇子は長剣でガアンッと受け、ガードしたまま力でそれを振り払った。吹っ飛ばされるかと思いきや、ガラ空きになった皇子の首に長い物がしゅるりと巻き付き体制を崩したミル様の身体をグルンと正面に戻しその遠心力の勢いで尖った切っ先を皇子の胸目掛け突き刺した。あれは猿の尻尾かな?だが、やはり威力が足りない。硬い鎧に弾かれる。いや、多分力が入らないのだろう。
先程の肩に突き刺さった爪に毒でも塗ってあったのかも知れない。ミル様は身体が小刻みに震えていた。
麻痺毒か.........目玉が揺れて噛み締めた歯の間から泡が出ていた。
これは危ないな。
俺は眉間に皺を寄せてそれを観ていた。毒攻撃が悪いとは思わないが、使う程でも無かったのに。
どうするかな.........ああ、そう言えば.........ガイザックが居たか。あいつに毒出して貰えば良いんじゃないか?いや、獣人神が何とかするかな?娘だし.........。
まあ、この獣人神の領域は薬作りが盛んだ。怪我をしても脚を斬り落としても割と元通りになるらしい。領域内なら即死で無ければまあ、助かる。医務室にはそんな薬を扱う薬師が居るらしいし。だから皆んな遠慮が無いんだけどな。死ななけりゃ良いって事だ。
右肩はバーサーカー状態だったにも関わらずボロボロでもう使えない。いや、もがれてなかっただけマシか。
長期戦は最早無理。最後の決定打に賭けるようだ。
黒い革のベストを脱ぎ静かに左手で剣を構えた。
皇子の方も結構衝撃が強かったのか苦悶の表情で左手で腹を抑え右手で長剣を構える。バーサーカーは吹っ飛ばされた時に解けたのか獅子の顔では無くなっていた。割と効いたんだな。女とはダンスくらいしか踊って無いだろうし、ちょっと甘く見てたのかな?
どちらにせよ次で決まる。
俺はチラリとシャザを見た。どうするのかな?もし、ミル様が切られたら.........。
助けるか?剣士とは何か!とか言い出しそうだから途中では止めないかな。怪我の心配もして無いし。
風で.........はダメだな。神が居るからバレる。不正した、とか言われて次に進めなくなって《リンミン》貰えなくなると困るしな.........。俺は手を出せない。
少し下を向いてから再度ミル様を見る。何だか俺も過去この人に会った気がしていた。だが、かなり薄っすらだ。好意は.........無かったんだろうな。顔は全く記憶に無いんだが、なんだろう.........関わりは有ったみたいだ。すれ違った、くらいの感覚。なのに.........
実はずっと気になっていた。
彼女からする.........
花の匂いに。
身体がムズムズした。
サラが審判神に抱き抱えられた時に花の匂いがしたと言っていて、俺も気が付いた。花の.........香水などでは無い。多分これ.........番.........の。
勿論サラのとは全く質が違う。彼女の匂いはとろける甘さが有り、花と果実が合わさった身体の芯から痺れを伴う官能的で絶対的な強い芳香だ。俺の番に間違いない。だから比べようも無いのだが.........ミル様からも確かに感じているのだ。
彼女がチョッカイを出して来るのもその所為かも知れない。何か感じているのだろう。だが、口にする事は出来ない。決して交わらない。
俺はサラを幸せにしたいんだ。2人で幸せになりたい。家族になりたい。泣かせたくない。失いたく無い。
今度こそ.........間違え無い。
ああ、サラ.........どうか俺から離れないでくれ。心配で仕方がない。
無言で見つめ合うミル様と皇子を俺達も見つめる。
「シャザ.........お前.........平気なのか?」
「.................平気では無い」
「本当に?」
「平気では.........無い」
「.........そうか」
なんだ、良かった。そりゃそうか。獣人はそう言う感情薄いのかと思った。
これがもしサラなら.........いや、勝ち抜きトーナメントなんてものに絶対参加させないわ。全力で阻止してるな。それか代わりに俺が全部戦うか。
「アウィン、すまん。お前とは戦えないかも知れない」
「.........ん?」
俺がどう言う意味か聞こうとシャザに振り向いたその時、闘技場の真ん中で風が動く。
あ.........
あの"ハーレム"皇子.........余裕があるな。やっぱ獅子は特別か.........。ミル様はどうなんだろう。剣技、変化、バーサーカーと来て、若干皇子とタイプが似てるよな。と、言う事はやっぱり力じゃ無くて能力勝負か?
.................本来ならな。
俺はゲームの時同様にやろうと思えばどの角度からも観えるし聞こえる。風が運ぶのは.........ミル様の噛み締める様な息遣い。そして皇子の.........喉で笑う下卑た声。
.........そうか。
決まってたんだな。
「.................」
ミル様の脚が一瞬にして再びカモシカになり、そのまま地を蹴って高く飛び上がりレイピアを内から外へ振り切る。皇子は長剣でガアンッと受け、ガードしたまま力でそれを振り払った。吹っ飛ばされるかと思いきや、ガラ空きになった皇子の首に長い物がしゅるりと巻き付き体制を崩したミル様の身体をグルンと正面に戻しその遠心力の勢いで尖った切っ先を皇子の胸目掛け突き刺した。あれは猿の尻尾かな?だが、やはり威力が足りない。硬い鎧に弾かれる。いや、多分力が入らないのだろう。
先程の肩に突き刺さった爪に毒でも塗ってあったのかも知れない。ミル様は身体が小刻みに震えていた。
麻痺毒か.........目玉が揺れて噛み締めた歯の間から泡が出ていた。
これは危ないな。
俺は眉間に皺を寄せてそれを観ていた。毒攻撃が悪いとは思わないが、使う程でも無かったのに。
どうするかな.........ああ、そう言えば.........ガイザックが居たか。あいつに毒出して貰えば良いんじゃないか?いや、獣人神が何とかするかな?娘だし.........。
まあ、この獣人神の領域は薬作りが盛んだ。怪我をしても脚を斬り落としても割と元通りになるらしい。領域内なら即死で無ければまあ、助かる。医務室にはそんな薬を扱う薬師が居るらしいし。だから皆んな遠慮が無いんだけどな。死ななけりゃ良いって事だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる