蜜柑製の死

彼方灯火

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2023年6月7日

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最後に安眠できたのはいつだろう?

考えても、思い出せない。

考えると言っておきながら、すぐあとで思うと言うのは、おかしいだろうか。

安眠を求めているわけではない。

しかし、安眠から逃れているわけでもない。

同様に、幸福を求めているわけではない。

しかし、幸福から逃れているわけでもない。

幸福とは、何か?

陳腐すぎる哲学問答のように聞こえるが。

その問いを捨てて生きることが最も陳腐だろう。

幸福の類の言葉に足りないのは、時間軸の中で捉えられた局面。

幸福とは、物ではない。

少なくとも、物のような側面だけで成り立つものではない。

故に、その形を捉えることはできない。

捉えたとしても、指の隙間から零れてしまう。

むしろ、幸福とは、波のようなものだ、と捉えた方が意義があるだろう。

そう、波……。

波に形はない。

あるが、その形は一定でもなければ、一度現れたものは二度と現れない。

波の動きに意味がある。

たとえば、上手く波に乗ることができれば、楽しいという感情が沸き起こる。

それこそが、波の意義。

楽しいという感情を未来永劫保持することはできない。

その考え方が、そもそも楽しくない。
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