ぐれい、すけいる。

羽上帆樽

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第28部 4202年28月28日

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 両側を花壇に挟まれた通路がある。ここから見ると、道は一点透視図法として機能しており、向かう先は視線の先に収束しているが、その終着は見えなかった。花壇に沿って街灯が真っ直ぐ続いている。街灯は明かりを灯していた。夜のようだ。僕達は時計を持っていないので、正確な時刻を確認する術がない。空気は冷たかった。吐き出す息が白く染まっている。

「saki ni susumou」僕の隣で彼女が言った。

「待って」僕は応じる。「危険かもしれない」

「kiken tte ?」

「何かの罠かもしれない」

「wana tte ?」

 僕は傍にある花壇の淵に飛び乗り、道の先を見る。しかし、やはりどこまで続いているかは分からなかった。

「先の見えない先に進むものじゃないよ」

「saki no mienai saki tte, nani ?」彼女は少し笑って言う。

「いいから、引き返そう」

 そう言って、後ろを振り返ってから、僕は引き返せないことを思い出す。後ろにも同じように道が続いているからだ。この場合、実は前も後ろもない。それは見方によって変わるだけだ。道を挟むどちら側かの花壇を正面とすれば、右に進むか、左に進むか、という問いになる。

「migi ni susumu no ga, ii yo」彼女が言った。

「それは、どちらから見た場合の?」

「migi toka, hidari toka, dou yatte kimaru no ?」

「つまり、正面を向いたとき、心臓がある方が左、と定義するわけだ」

「kimi ni, shinzou wa, aru no ?」

 僕は自分の胸に手を当てて確かめる。鼓動があることは分かった。しかし、鼓動があるからといって、心臓があるかは分からない。それは、胴体を切り裂いてみなければ分からない。空に白い円が浮かんでいるからといって、本当に月なるものがあるかどうか分からないのと同じだ。

「逆にきくけど、君には心臓はあるの?」僕は彼女に質問する。

「aru yo」

「へえ、どこに?」

 そのとき、僕は自分の体内が熱を帯びるのを確かに感じた。

 それは、新たな心臓の所在を主張している。

 僕は苦しくなって、その場にしゃがみ込む。

「ii kara, migi ni susumou」と彼女が繰り返す。

 しかし、自分の身体に心臓が二つあるようでは、もはや左右は定義できない。

 そうだ。

 定義など、そもそもその程度のものだ。言葉でしかない。僕達が定義しようとしまいと、心臓はそこにあるのだ。

 愛も、自信も、経済も、社会も、世界も、宗教も、定義の必要などない。

 僕は道を前後や左右に続くものとして見るのをやめた。

 定義の必要のない最も基本的なものとは、力だ。

 僕達が生まれた世界では、力は常に上から下に向かって生じている。

 僕達は、下方に向かって、道を勢い良く滑っていった。
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