舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第1章

第9話 学校探検:夜

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 フィルに唆されて、月夜は学校の中を探検することにした。教室で本を読んでいても良かったが、まだ高校に入ったばかりで、校内の様子も把握しきれていないところがあったから、良い機会かもしれないと判断した。

 教室の扉をスライドして閉め、真っ直ぐ続く廊下を歩き始める。彼女が所属する一年生の教室は廊下の端の方にあって、だから、反対側の端まで向かうとなると、長い、という印象を受ける。

 左手に理科室が現れた。壁面の一画に硝子で覆われた部分があって、そこに様々な標本が展示されている。爬虫類の骨や、分子の構造を模式的に形作った模型、それに、人体の様子が描かれた板状の図など、種類は多岐に渡っていた。

「こういうものが展示されていると、如何にも学校という感じがするな」フィルが呟いた。彼の声は暗い廊下によく木霊する。

「小学校にあったかは、覚えていないけど、中学にはあった」

「今は夜だから、お前みたいに、悪戯をするやつがいると、動き出すかもしれないぞ」

「いつ、私が悪戯した?」

「今」

「何が、悪戯?」

 廊下を最後まで進むと、左手に階段が現れた。それを上ると二階に辿り着けるようだ。月夜は階段を上って、誘導されるまま二階へと向かった。

 学校の階段は途中で向きを変えるものが多い。つまり、踊り場があるタイプだ。反対に、向きを変えずに真っ直ぐ続くタイプのものは、この学校では昇降口に向かうためのものくらいしかない。

 真っ直ぐ続く階段を校内にも適用したら、学校自体はどんな格好になるのだろう、と月夜は考える。その分奥行きが出ることになるから、学校自体が階段のような構造になるかもしれない。

 建物は人間が作るものだから、きっとそこには合理性が宿るのだろうな、と月夜は思った。感覚的な部分はともかくとして、論理的に思考して成された結果には、必ず合理性が伴う。簡単に言ってしまえば、エネルギー効率について配慮されているということになるだろう。人間も動物には違いないから、極力エネルギーを使わないで済む方法を採用したいのだ。

「月夜も、どちらかというと、そっちの系統だろう?」

 腕の中のフィルに問われ、月夜は呟くように応える。

「私は、人間だから、私について、取り立ててそんなふうに言うのは、意味が分からない」

「もしかしたら、人間じゃないかもしれないぜ」

「どうして、そう思うの?」

「その方が素敵だからさ」

「フィルは、猫だよね」

「いいや」フィルは首を振って答えた。「俺は物の怪だ」
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