舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第4章

第36話 立ち替わり入れ替わり

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 いつの間にかいなくなっていたフィルが、外から帰ってきた。どこかに出かけていたらしい。身体には所々に泥が付着していて、そのまま室内を駈けずり回れる状態ではなかったので、月夜は濡れたタオルを持ってきて、彼の身体を拭いてやった。

「今日は、いつもより早かったね」月夜はフィルを抱きかかえ、話かける。「もう、散歩はお仕舞い?」

「月夜、来てほしいところがある」フィルが言った。

「どこへ? どうして?」

「行けば分かる」

 ふと後ろを振り返った月夜は、そこに誰もいないことを認識した。今、タオルを持ってきて、ソファの前を通過したときには、確かにそこに真昼が座っていた。けれど、今は誰もいない。

 部屋の中を見渡してみたが、特別隠れられるような場所はない。キッチンの中も覗いてみたが、そこにも彼の姿は見つからなかった。

 もう、帰ったのだろうと、月夜は判断した。

「その用事は、今日じゃないと駄目なもの?」月夜はソファに座り、フィルとの話を再開する。

「駄目だ」

「どうして?」

「俺がそうしたいからだ」

 理由を求められれば、人は多くの場合、論理的な形でそれを差し出す。そうして、相手に合理的だと判断されるように工夫する。しかし、本当は理由というものはそうしたものではないはずだ。理由などないと言った方が良いかもしれない。したいからする、したくないからしないというのが、最も根本的な形ではないだろうか、と月夜は考えている。

 だからフィルがそうしたいと言うのであれば、それに従うのが良いと彼女は判断した。一応、毎回理由を尋ねはするが、それは説明を求めているのではない。ではなぜ尋ねるのかというと、彼女もよく分からなかった。理由を尋ねるという行為が、そのままの内容で差し出されているわけではないという可能性もある。つまり、ジョークや皮肉の類と同じだ。それぞれの言葉が持つ意味と、それらを組み合わせた結果成される意味が一致しない。

「分かった」月夜は了承した。「じゃあ、行こうか」

 家を出る前に時刻を確認すると、午前十時を少し過ぎたくらいだった。まだ昼にはなっていない。ただ、挨拶をするなら「こんにちは」が適切な時間だ。この矛盾はどのように対処したら良いだろうか。

「これから行くところは、そんなふうに、泥だらけになるようなところなの?」

 月夜が尋ねると、フィルは真剣な眼差しで答えた。

「別に、好きで泥だらけになっただけだ」
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