舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第5章

第49話 循環

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 ノートにではなく、黒板に残されていた文字を利用して、月夜はその日の授業の復習をした。よく、教科書に書いてある説明は分からない、人の口から聞いた方が良い、といったようなことを言う生徒がいるが、それは違うのではないかと月夜は思った。何しろ、教科書に書かれていることがすべてなのだ。すべてというのは、過もなく不過もないということで、人の口から出る情報の性質の傾向と対立している。文字を読むというのは、音を聞くよりも難易度が高いが、説明の正確さからいえば、前者の方が優れている。

 黒板に書かれている情報を自分で一通り整理し直して、月夜は復習を終えた。所々教科書の内容と照らし合わせたが、言い回しが違うだけで、この授業ではどちらも言っていることは同じだった。ここで、同じ、という処理をしなければ、頭に入れるべき情報が二つになって、明らかに負荷がかかることになる。

 世間に出回っている情報の、果たしてどれほどが新しい情報なのだろうかと、月夜は想像した。本を読んでいると、なんだ、言っていることは結局あの本と同じではないか、という感覚に陥ることがある。装飾は違うが、本質的な部分に変わりはないという意味だ。

 日本語と、英語では、言語として種類は二つだ。しかし、言語の仕組みは共通している。何しろ、言語とは世界を代替し、相手に伝えるためのコミュニケーションの手段なのだから、もし仕組みが異なるのであれば、それは代替される世界か、あるいはコミュニケーションをとる相手が、日本語の場合と英語の場合とで異なることになってしまう。

 そういう意味では、物事の共通性、つまり定理と呼ばれるものを見つけることは、非常に有用な手段となる。そして、すべてのものに共通する定理、すなわち真理を見つけることができれば、あとは何も考える必要がない。その真理という名の骨格に、色々と装飾を施していけば、その場面に適した形にすることができる。

 世界には、対立するものがいくつも存在する。

 けれど、それらは本当に違うものなのだろうか?

 違うことにしなければ、価値を見出せないだけではないのか?

 そして、違うことで生じる価値と、同じと纏めることで得られる利便性とでは、どちらの方が大切だろう、と月夜は考えた。

 そして、いや、きっと、どちらも……、とも。
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