舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第6章

第51話 ……遭遇?

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 日が暮れきった校舎の中を、一人で歩き回った。このくらいの時間は、教室で過ごすことが大半だから、移動をするのは珍しい。まだ完全に夜にはなっていないので、体感する冷たさはそれほど酷くはない。酷いと形容したが、そこにマイナスの意味は含まれていない。

 廊下の窓がかたかたと揺れていた。一枚ではなく、ほとんどのものが揺れている。風が強いようだ。一枚の窓が揺れたら、その揺れが隣に伝わって、さらにその揺れが隣の窓に伝わるということはあるだろうか。ものは振動すると揺れを周囲に波及させるが、同時に波及されるまでに力は弱まっていく。だから、工夫しないと上手く揺れを伝えることはできない。そして、完全に同一の大きさの揺れを伝えることは不可能だ。それを実現したければ、所々で揺れを補わなくてはならなくなる。

 リノリウムの床は相変わらず固い。上履きの材質とこの床の相性は、はっきり言ってあまり良くはない。少なくとも、月夜はあまり好きではなかった。リノリウム単体、あるいは上履き単体では別に嫌いではないが、その二つの組み合わせは良い方ではない。

 階段を上る。

 二階の廊下にある流し台で、水が蛇口から漏れてちろちろと音を立てていた。月夜は蛇口を掴み、右回しに捻って水を止める。全体的に乾いている金属製の桶の中で、そこだけが微妙に濡れて川が形成されていた。水面に自分の象がぼんやりと映っている。

 背後に、誰かいるかもしれない、と思って、振り返る。

 けれど、もちろん誰もいない。

 ときどき、そういう幻想を見ることがある。

 そして、それから、幻想だと気がついて、幻想だったんだなと納得する。

 二階の廊下を進む。

 右上、教室の入り口に差し出された表示が、その教室が何のための部屋なのかを示している。彼女が今歩いている廊下には、学生が勉強するための部屋はなかった。資料室の類や、職員に関係のある部屋が並んでいる。ここには職員室と呼ばれる部屋がないから、教師はそれぞれ教科ごとに与えられた部屋に詰めている、らしい。最近聞いたことなので、真偽のほどは分からないが、たしかに、職員室らしい部屋を見かけたことがないので、たぶんそうなのだろう。

 前方に影。

 それが、自分の影なのか、それとももっと別のものなのか、月夜は判断しかねた。

 後ろを振り返る。

 廊下の先。

 黒い塊が立っていた。
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