舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第7章

第64話 食べる

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 月夜はお菓子を持ってきていたので、それを小夜にあげてみた。すると、小夜はそれを受け取って、ありがとうございますと言ってから、普通に食べ始めた。こちらのものは食べられないということはなさそうだ。持ってきたのはクッキーとビスケットだが、月夜は両者の違いを理解していなかった。

「お菓子を食べるのは、久し振りな気がします」ビスケットの欠片を飲み込んでから、小夜が言った。

「普段は、どんなものを食べているの?」月夜は質問する。

「どんなものと言われると、少し困ってしまいますね……。うーん、たぶん、皆さんが食べているものとほとんど同じだと思います」

 フィルはキャットフードは食べないが、人間が食べるものなら何でも食べる。小夜が皆さんと言ったのはそれを考慮してのことだろう。少なくとも、自分がキャットフードを食べると思われていることはないはずだと、月夜は解釈した。

「どうして、ご飯を食べるのかな?」

 月夜は思いついたことをそのまま口にする。吟味しないで発言するのは、彼女の中では珍しい方だった。

「食べないと、生きていけないからではありませんか?」小夜が応じる。

「では、どうして食べないと生きていけない?」

 月夜が尋ねると、小夜は少し俯いて考え出した。瞬きが停止する。暫くすると顔を上げて、また月夜を見て彼女は発言した。

「食べないと、生物全体のバランスが保てないからです」

「皆、食べなくても良い身体になっても、同じことでは?」小夜の意見を受け、月夜は自分の意見を述べる。「食べなくても大丈夫な身体になれば、良いんじゃない?」

「おそらく、変化することが重要なのでしょう。食べることで、環境に変化が生じます。常に変わり続けることが、この世界の摂理なのではありませんか?」

「それは、どうして?」

「うーん……。そうなると、もう、変化がないよりも、変化がある方がいいから、としか言えないような気がします」

 変化といっても、その変化は、内容物の変化でしかない。それを入れるための器は変化しない。つまり、どれほど生物内の個体が変化しても、生物そのものが変化するのではないし、またそれらが生きる世界の規則が変わるわけでもない。

 もっと変化を繰り返せば、いつか器も変わるだろうか。

 変わってどうなるのだろう?

 ただ、少なくとも人間は、変化を好む傾向にある。ずっと同じことはやっていられない。いつか必ず飽きる。それは、対象が物であっても人であっても同じだ。

 フィルと、小夜は、きっとそれを超えている。

 飽きるというルールを、飛び越えてしまったのだ。
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