舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第14章

第136話 さらに皿が消える

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「私の皿、どこに行っちゃたんだろう……」ルゥラが月夜の手を握る。「ねえ、知らない?」

「どこに行ったかは知らない」月夜は素直に答える。「でも、どこかに行った原因は知っている」

「え? どうしてなくなったの?」

「フィルが片づけたから」

 月夜の回答を聞いて、ルゥラは足もとにいる黒猫に目を向ける。フィルは相変わらず丸まっていたが、少しだけ尻尾が動いた。たぶんわざとだろう。彼が猫らしい素振りを見せることなどありえない。

「なんで!?」大きな声を出して、ルゥラはフィルを思い切り掴む。そのまま上に持ち上げ、下から睨みつけるように彼を見つめた。

「痛い。離せ」フィルが抵抗する。

「どこにやったの?」

「俺が食べた」

「食べた? なんで?」

「美味しそうだったからな」

 フィルの答えに対して、ルゥラは何も言えなくなった。彼女は人にものを食べてもらうことで喜びを得る。それは料理でなくても良いのだ。たとえ、誰かに食べてもらうために作ったものでなくても……。

「だいたい、道端に放っておくようなものを、俺が片づけたというだけで、なぜ腹を立てるんだ」

「だって、あれは道に散らかしておくからいいんだもん……」ルゥラはぐったりと腕の力を抜き、そのままフィルをウッドデッキに下ろす。かのように思われたが、直前で力を入れ直して、彼を宙ぶらりんの状態で維持した。

「通行人の邪魔だ」

「ちゃんと、月夜たちにしか見えないようになっているんだよ」ルゥラは今度はフィルを中くらいの位置まで持ち上げ、対等な目線で話し合う姿勢を見せた。「だから、片づける必要なんてないでしょう?」

「お前がすることが、後々どんな影響を及ぼすか分からない。今の内に対処しておくのが賢明だ」

「お皿は綺麗なんだよ……」

「だから何だ」

「綺麗なもので街を飾って、何が悪いわけ……」

「悪いとは言わない。もう少しやり方があるだろう、と言っているだけだ」

「言ってないじゃん」

「今言った」

 フィルが皿を片づけたのは、小夜にそうしろと言われたからだ。つまり、意志や責任の所在は彼女にあり、フィルはそれを実行に移しただけだ。

 小夜と真昼が結託しているということはなさそうだが、いずれにしろ、二人とも同様の理由でルゥラが生み出した皿を処理した。真昼はそうとは明言していなかったが、月夜を危険から守るためだと言った。

「私の机の上に、まだあるよ」月夜はルゥラに声をかける。

 ルゥラはおずおずと月夜を振り返り、上目遣いで彼女を見つめた。
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