舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第15章

第146話 錐の頂上にて

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 道の途中に木々に巡らされたテープがあった。道といえないような道だから、何か目印のつもりで施したのかもしれない。しかし、山といってもそれほど広いわけではないし、何のためのものなのか推測するのは難しい。

 木の根が地表に浮かび上がっている。でこぼこしていて歩いていて気持ちが良かった。普段どれほど平らな地面で暮らしているのかがよく分かる。道路も平ら。学校の廊下も平ら。何もかも押し潰すことで抵抗をなくそうとする。人間関係もそんなようなものだろう。

 いつの間にか先を歩いていたフィルが立ち止まって、月夜に意味ありげな視線を送ってくる。

「何?」

 少し息を切らした声で月夜は尋ねた。

「小夜がいる」

 山の母線を上りきって、フィルが立っている頂上付近に辿り着くと、数メートル先に白い制服が浮かんでいるのが見えた。その後ろ姿に見覚えがある。まだ確認していないのに、それが小夜だと確信できる自分に驚いた。

 月夜はフィルと一緒に木々の間を進む。密度はあまり大きくないから通り抜けるのは簡単だ。

「小夜」

 後ろから声をかけた。

 月夜の声に反応して立ち止まり、小夜がこちらを振り返る。

「どうしたんですか、こんな所で」小夜は少し驚いたみたいだった。

「小夜を見つけたら、追いかけた」

「見つけたって……。私はここにしかいませんよ」

「山の中で見つけた」

「どうして、山の中にいるんですか? どこから入ったのですか?」

「川の方から」

「なるほど。目的は?」

「特にない」

 小夜と一緒にさらに先へと進み、彼女がいつもいる社がある場所までやって来た。木々の隙間から眼下に僅かに公園が見える。そこまで行けば自宅まであと少しだ。

「お久し振りですね」小夜が言った。「元気にしていましたか?」

「うーん、元気かどうかは分からない」月夜は小夜の隣に腰を下ろす。フィルはすでに小夜の膝の上にいた。「小夜は? 元気?」

「元気といえば元気です」

「元気でないといえば元気でない?」

「どうでしょう……」小夜は少し笑った。「元気であり、元気でないといった感じです」

 フィルにルゥラが生み出した皿を片づけさせたことについて、月夜は小夜に尋ねた。尋ねるというよりは確認した。月夜の推測は正しく、フィルにそうするように命じたのは彼女だった。

「あの子は少々危険です」

 小夜の言葉を聞いて月夜は首を傾げる。

「危険?」

「どうやら、自分の力を制御できないみたいです」
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