舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第16章

第158話 接触と離反の競合

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 とりあえず、ルゥラには風呂に入らせた。暴れたせいで見るからに汚れていたからだ。月夜もまだ入っていない。彼女が出てきたあとで入るつもりだった。

 二階の自室に戻ると、フィルが部屋の中でげんなりしていた。一目見ただけでげんなりしているのが分かった。頭に「げんなり」と書かれていてもおかしくないほどに。

「どうかしたの?」後ろ手にドアを閉めて、月夜は彼に尋ねる。

「疲れたのさ」フィルは言った。「食べるのも運動だからな」

「フィルにも労力の概念があるの?」

「あるさ。ほかにも色々ある。活力、気力、底力……。それらを合わせて労力と呼ぶわけだが」

「なるほど」

 皿に埋もれた部屋の中を進み、月夜はフィルの隣に座り込む。量は大分減りつつあったが、それでもまだ沢山あった。たぶん今日中にどうこうなる量ではない。

 これほどの皿を一気に生み出したルゥラの側にも、相当な負荷がかかっているに違いない。だから彼女はずっと眠っていたのだ。まだ完全には回復していないだろう。もっとも、フィルにもルゥラにも、彼が言うように労力があるのであればだが。

「ルゥラはどうした?」皿を片手にフィルが尋ねてくる。

「風呂に入っている」月夜は落ちている皿の破片を拾う。

「一人で大丈夫か?」

「フィルが一緒に入る?」

 フィルはそっぽを向く。どうやら面白くなかったようだ。

 目の前に破片を掲げてじっと見つめる。断面は鋭利で触れば怪我をしそうだった。しかし綺麗だ。薔薇と同じ性質を持つようにも思えるが、どちらかというと麻薬に近いかもしれない。ルゥラが生み出す皿にはそんな魅力がある。たとえ割れていてもだ。いや、割れているからこそだろう。

 裂けて血を流した自分の首もとに触れる。

 あのとき、少しだけ心が浮き立つような感覚に襲われた。

 もう随分と長い間忘れていた感覚だった。

 自分が生きていることを確認できて嬉しかったのだろうか?

 それとも、死へ近づく方向に進むのが楽しかったのだろうか?

 月夜は立ち上がり、勉強机の隣にある窓の傍に向かう。

 空気は澄んでいた。今が春とは思えない。しかし、だからといってほかの季節にも思えない。水蒸気が霧散する大気の在り様は、まるでほかの惑星に移住してきたみたいだった。

 question.
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