舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第17章

第170話 to look

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 窓の向こうを眺めたまま、暫くの間ぼうっとしていた。焦点が合っていないまま、目に映るものを見ているのか見ていないのか分からない状態が続く。

 頭では何かを考えていた。しかし、それは動きを伴った情報として処理され、故に言葉に変換するのが難しい。

 ルゥラに出会った日の光景がフラッシュバック。

 あのとき、彼女は玄関のドアの陰に隠れていた。いや、意図的に隠れていたのではないだろう。彼女の小さな身長がそうさせたのだ。でも、あのときの彼女は弱々しく見えた。小さな指で挟んだ皿をおずおずと差し出して、月夜に食事をとらないかと尋ねてきた。

 どうして、今ルゥラは自分の家にいるのだろう?

 おそらく、いても問題がないからだろう。見ず知らずの人間を自宅に置くようなことは普通しない。それが何日も続いて、その日常に問題が感じられなかったから、今の状態が継続することになった。

 小夜に出会った日の光景は思い出せなかった。

 フィルに出会った日の光景も思い出せなかった。

 真昼に出会った日の光景も思い出せなかった。

 そして、自分が自分と出会った日の光景も、思い出せなかった。

 なぜだろう?

 風が窓を叩いてかたかたと音を立てた。焦点が再び合う。そうなることをどこかで予想していたようだ。だから、実際に焦点が合っても動揺しなかった。この場合の「だから」の用法は、想定されている用法と異なるだろうか。

 立ち上がって自室を出た。階段を下りてリビングに向かう。

 明らかに無意味な移動。

 階段を上ることも、下ることも、別段好きではないのに、如何にも好でやっているような感覚に襲われる。そうすると、もう好きでやっているとしか思えなくなる。仕事と同じ原理かもしれない。

 ルゥラはリビングにあるソファの上で眠っていた。何もかけていないことに気がついて、また自室に向かうことになる。

 明らかに無意味な移動。

 しかし、自室の中に足を踏み入れたとき、もしかしたらその移動に意味があったのかもしれないと、捉え方が変わった。

 窓の外に誰かが立っている。

 もちろん、窓の外に陸などない。

 彼女は浮いていた。

「やあ」ルンルンが大仰に片手を挙げて言った。「また来た」

 月夜は冷静さを保って彼女を見つめ返した。別に、意識的に冷静でいようとする必要はなかった。少なくとも、彼女はそう思っていた。
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