舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第20章

第197話 ‘ ’

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 突然、大地を轟かせる衝撃が走ったかと思うと、月夜は空気中に放り出されていた。それまで浮かんでいた皿も一緒になって散乱していく。身体の所々に皿が接触し、皮膚が焦げつき痛みが感じられたが、それまで締められていた首もとが解放されたことによって、全体的にはむしろ清々しいようにさえ思えた。

 後方に押しやられ、月夜は背中から地面に墜落する。その衝撃と、ずっと呼吸が阻害されていたのが相まって、彼女は激しく咳き込んだ。目から涙が溢れてくる。どうやら涙は悲しいときにだけ流れるものではないようだ、と状況にそぐわないことを思いついたが、そんなことを考えている場合ではないという命令を受けて、彼女の思考は一時的に制限された。

 顔を上げて前方を見る。

 月夜の首もとを締めていたルゥラが、何者かによって押し倒されていた。

 彼女は奇声を放っている。

 その声は明らかに人間のものとは思えない低いもので、途方もない衝撃に苦しんでいるようだった。

 慟哭。

 そう呼ぶのが相応しい。

 ルゥラを押さえつけていた何者かが立ち上がる。それから、いくつもに細く分割された手を持ち上げると、ルゥラの体表面に向かってそれを突き刺した。

 ルゥラの声が一瞬途切れる。

 訪れる静寂。

 月夜は、状況が理解できないため声を出せない。

 けれど、それを阻止しなくてはならないような気がして、投げ飛ばされた反動を用いるように立ち上がると、二人の傍へと駆け寄った。

「やめて」

 声を出すと喉が痛んだ。

 月夜はルゥラの上に覆い被さる。

 自分も刺されるかもしれないと思ったが、追撃はなかった。

「どけ」

 頭上から知った声。

 ルゥラの身体に埋めていた顔を上げ、月夜は声の主を見上げる。

 ルンルンだった。

「まあ、もうその必要もないだろうが」

 そう言うと、ルンルンは両腕をもとの状態に戻す。何か分からない黒い汚れが衣服に付着していたが、少なくとも、そうしていると、月夜の知っている彼女には見えた。

「どうして」月夜は言葉を零す。

「そいつの息の根は、もう止めた」ルンルンが言った。「絶命するまで、時間の問題だ」

 月夜は自分の眼下に横たわる少女に目を向ける。

 ルゥラもまた、それがルゥラであると分かる形に戻っていた。ただし、全身に細い穴が何ヶ所も空いている。

 ルゥラは、一度起き上がろうとしたが、上手く立てないようで、再び地面へと身体をへばりつかせた。

 誰も何もしなければ、場は自然と静まり返る。

 月夜の顔を見て、ルゥラが小さく笑った。
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