212 / 255
第21章
第210話 紺濁澄
しおりを挟む
安定性を考慮し始めると、安定しなくなるという問題がある。もっと簡略化すれば、それについて考え始めると、それが成り立たなくなるということだ。安定性についていえば、安定させようとしている内は、安定することはなく、それを忘れたときに一番安定しているという事実があって、後々それに気がつくことになる。だから、そのときに、賢い者は、なるほど、安定性を考慮してはいけないのだな、ということに気がつくが、そうでない者は、それならば、安定性とは何なのだ、という方向に考えが発展し、結果的に安定しなくなる。
安定性というものは、安定性であって、安定性とは何なのだ、ということを考えている内は、安定性とは何なのかが分かっていないから、その間には安定しない。
今、自分は安定しているだろうか?
月夜は考える。
何かという方向で考えるのと、しているか否かという方向で考えるのとでは違うが、結局のところ、それについて考えていることには違いないので、今は安定しないということが分かる。
隣に座るフィルに手を伸ばして、彼の体表面をゆっくり撫でる。その撫でる動作は安定しているか、と考え出すと、上手く撫でることができなくなる。どの程度の速度で撫でれば良いかとか、どの程度の力で撫でれば良いかというような、本来数値化する必要のないことを、いちいち数値化しようとする。それによって、安定性が失われる。そして、そんなことを考えに置かないで、ただ単に彼の体表面に触れることの気持ち良さを味わっているときが、一番安定している。
「先ほどから、言い回しを変えているだけで、ずっと同じことを考えているな」撫でられながらフィルが話す。「考えているんだから、安定していないんだろうな」
「安定していない」月夜は答える。
「安定していようと、安定していまいと、等しく明日はやって来るからな。考えるだけ無駄というものだ」
「思考が飛躍している」
「飛躍はしていないだろう。現に、お前には理解できたはずだ」
「では、何が飛躍しているの?」
「何も」フィルは首を傾げる。「強いて言えば、飛躍しているか否かという判断が、か」
本来定まっているはずのものが、定まっていない状態を不定という。何も定まっていない状態を不定とは言わない。何も定まっていない場合は未定という。
だからどうしたというのだろう?
こういうミクロな情報を積み上げていくことで、何になるのか?
しかし、そうしたことが、多少は重要なのではないかという思いが、月夜の中にあることは確かだった。
安定性というものは、安定性であって、安定性とは何なのだ、ということを考えている内は、安定性とは何なのかが分かっていないから、その間には安定しない。
今、自分は安定しているだろうか?
月夜は考える。
何かという方向で考えるのと、しているか否かという方向で考えるのとでは違うが、結局のところ、それについて考えていることには違いないので、今は安定しないということが分かる。
隣に座るフィルに手を伸ばして、彼の体表面をゆっくり撫でる。その撫でる動作は安定しているか、と考え出すと、上手く撫でることができなくなる。どの程度の速度で撫でれば良いかとか、どの程度の力で撫でれば良いかというような、本来数値化する必要のないことを、いちいち数値化しようとする。それによって、安定性が失われる。そして、そんなことを考えに置かないで、ただ単に彼の体表面に触れることの気持ち良さを味わっているときが、一番安定している。
「先ほどから、言い回しを変えているだけで、ずっと同じことを考えているな」撫でられながらフィルが話す。「考えているんだから、安定していないんだろうな」
「安定していない」月夜は答える。
「安定していようと、安定していまいと、等しく明日はやって来るからな。考えるだけ無駄というものだ」
「思考が飛躍している」
「飛躍はしていないだろう。現に、お前には理解できたはずだ」
「では、何が飛躍しているの?」
「何も」フィルは首を傾げる。「強いて言えば、飛躍しているか否かという判断が、か」
本来定まっているはずのものが、定まっていない状態を不定という。何も定まっていない状態を不定とは言わない。何も定まっていない場合は未定という。
だからどうしたというのだろう?
こういうミクロな情報を積み上げていくことで、何になるのか?
しかし、そうしたことが、多少は重要なのではないかという思いが、月夜の中にあることは確かだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる