舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
233 / 255
第24章

第231話 僕は僕、君は君

しおりを挟む
 二階からフィルがやって来た。リビングに入ってくるなり、月夜の傍に立つ少年を見て警戒を示したが、月夜が彼を落ち着かせた。落ち着かせるといっても、フィルはもともと落ち着いている。彼が取り乱すことはそうそうない。

「物の怪なんだろう?」フィルが月夜を見て言った。「お前を殺そうとしているんだぞ」

「殺そうとしている?」月夜が言葉を発する前に、ルーシが反応した。「それが、もう一人の僕の目的?」

 フィルは一度ルーシを見、それから再び月夜に目を向ける。

 月夜は、ルーシから聞いた話をフィルに伝えた。つまり、ルーシが何を目的としてここへ来たのか分からないこと、そして、もう一人の自分なるものを抱えていて、そのもう一人が、おそらくその理由を知っているらしいことだ。

「君は?」

 月夜が一通り説明し終えると、ルーシがフィルに質問した。

「俺は物の怪だ」フィルが答える。

「さっき、君は、僕のことも物の怪と呼んだ」

「一度死んだものを、そう呼ぶらしい」

「死んだ?」

「お前も、どこかで死んだんじゃないのか?」

 ルーシは沈黙する。沈黙して、沈黙した。つまり、二段階沈黙だ。現在では、本人確認など、あらゆるものが二段階になりつつあるので、彼もその流れに従ったということだろう。

 ルーシは首を振る。

「分からない」

「月夜に近づくな」フィルが告げた。

「別に、近づいてもらっても構わない」月夜が反論する。

「どうして、そんなことを平気で言っていられるんだ」フィルが呆れたような声で、しかしいつも通りの目で言った。「相手は、お前を殺そうとしているんだ」

「それは彼ではない、ということらしいから」

 フィルは一度黙り、月夜の周囲をぐるぐると歩き始める。顔はずっと月夜の方を向いているから、傍から見たら太陽と地球の関係のように見えたに違いない。いや、地球と月の関係の方が状況に合っているか。しかし、それでも反対になっている。

「彼ではないというのは、どういう意味だ?」

 フィルに問われ、月夜は応える。

「ノット彼、という意味」

「説明になっていないな」

「そういう性質を帯びている、ということ」

「それで、僕は、どうしたらいいのかな?」気の抜けたような声で、ルーシが隣から口を挟む。

 月夜とフィルは、同時に彼の方を見た。少しの間、彼の存在を忘れていた。それくらい、ルーシの存在感は薄かった。存在感というのはよく分からない言葉だが。

 沈黙。

「では、さようなら」

 そう言って、ルーシは立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...