舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第24章

第235話 枝は枝、幹は幹

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 日が暮れかけている。

 目の前のスペースを、ルーシが一人で歩いていた。特に何らかの規則が見られるわけではないが、規則を推測したくなるような動きではある。駐まっている自動車の間を行ったり来たりしては、今度は二つの自動車の前を平行に移動したりする。何かのゲームに似ているような気がするが、それが何か月夜は思い出せなかった。

 彼女は階段に座って、ルーシの行動を見ている。傍にいてほしくないと言ったが、ルーシは彼女から少し距離を置いただけで、完全に立ち去ることはしなかった。完全に立ち去るとはどういう意味か、と考える。人間の場合、まず視覚的に相手の存在を認識するから、見えない状態になるという条件は必要に思える。しかし、それは充分条件ではない。見えなければ良いというわけではなく、触れられない状態にもならなければならない。

 仮に透明人間が存在するとした場合、その存在に対して、立ち去る、立ち去らない、という考え方を適用することはできるだろうか。今考えた条件の中では、見えなくて、触れられない状態になることが、すなわち立ち去るということだが、それはつまり、移動するという行動の側面を記述したからそのようになるわけで、肝心の移動するという行動を記述していないのだから、意味がないといえば意味がない。

 という思考には何ら意味がないものと思われる。

 ルーシがこちらへやって来る。ふらふらとした歩き方で、きちんと背骨が通っているのか怪しい。

 彼は持っていた小枝を月夜に差し出す。差し出されたから、彼女はそれを反射的に受け取ってしまった。

「なぜ?」

 月夜は尋ねる。

「何が?」ルーシは首を傾げる。

 今のところ、彼が何をしたいのか、月夜にはよく分からない。けれど、それは如何なる相手に対してもいえることで、本当のところは、何をしたいのか把握することはできない。そうできるように感じるのは、過去の経験から推測しているからだ。すなわち、これをしたい可能性が高いだろう、と考えているだけで、これをしたいに違いない、と断定することはできない。

 「彼はXをしたい」という文は、通常おかしなものとして判断される。それは、「したい」と言い切ることができるのは、一人称、つまり自分もしくは自分たちが主語である場合に限られるからだ。

「小枝だよ」ルーシが呟く。

「うん」月夜は頷いた。

「小枝」

 月夜は顔を上げて、ルーシを見る。

「うん」
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