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番外編
クライス&アマンダ (2/4)
もう自分は死を待つだけ。
誰とも恋をせずに終わりを迎える。
けれど後悔はひとつもしていない。
それが、クライスと出会うまでにアマンダが胸に秘めていた思いだった。
◇~◇~◇~◇~◇~◇
『はじめまして、クライス=ポーターです』
そう言って自分へ向けられた視線に、目を逸らせなくなった。
大好きな恋愛小説に書かれている表現のように胸はトクン…トクン…と高鳴る。
『俺が治します』
そう力強く言われたかと思うや否や、優しく握られた手からは温かい魔力が流し込まれ、それがなんとも心地よくて鼻の奥がツンとした。
もう死ぬだけだと思っていた。
恋など知らずに死ぬのだと思っていた。
そう思うしかなかったアマンダの心に、魔力と共に流されたクライスの愛情が流れ込んでくる。
叶うなら生きていきたい。
叶うなら恋をしたい。
そしてその相手は…クライスがいい。
そう自然と思えて、頬が熱くなり赤く染めた。
その日から間もなくしてクライスがレイチェルと共に侯爵家で暮らすこととなり、治癒の為にとクライスは連日朝から晩までアマンダの部屋に籠るようになった。
体力がなく部屋で食事をせざるを得ないアマンダの為に、クライスも三食全てをアマンダの部屋でとるようになり、目覚めから眠りにつくまで常に寝台の横に寄り添う。
それはふたりが夫婦となるまで一日として空けずに続き、変わったのは同じ寝台で寝起きするようになったくらい。
クライスの魔力と深い愛情を与えられた事で症状は改善され、一年が経つ頃には部屋の中を歩く程度にまで回復した。
ふたりが出会った当初、アマンダは急激な魔力消費で命を削った為に成長が遅れ、体が弱り長く床に臥していたせいもあって、レイチェルと同じ十二歳にはとても見えないほどに小柄だった。
しかしクライスの治癒を受け続けることで栄養が行き渡るようになると、病的に白かった肌には血色が戻り、不調だった肌や髪にも潤いや艶が取り戻され始めた。
それでも弱りきっていた体力はなかなか戻らず、一年をかけて寝台から降りて歩くことが出来るようになったのである。
それからさらに二年。
十八歳となり成人を迎えたクライスは、近く行われるデビュタント舞踏会を控えていた。
大人の精悍さが加わり始めた姿に、きっと多くの令嬢が囲むのだろう…と胸を痛めるアマンダだが、未成人の自分がついていくことは出来ず、そもそも舞踏会に耐えられる体力もない。
だが、デビュタント舞踏会は晴れ舞台。
寂しくも思うが喜んで送り出す心構えをし、アマンダはハンカチに刺繍を施していく。
少しずつ出来ることも増え、この頃には短い時間なら庭を歩くことも出来るようになった。
時にはレイチェルと共に厨房の隅を借り、焼き菓子を作ってはクライスに贈ることもある。
読書に勤しむクライスの隣に座り、穏やかに過ぎる時間のなか丁寧に刺繍を刺していると、ふと視線を感じて隣のクライスを見た。
「上手になったね」
そう言われて手に持つハンカチを見れば、確かに始めた頃より幾分かましに思える。
だが、幼い頃から勤しんできたレイチェルには到底及ばない。
「また宝物が増えるな」
刺されている名前が自分のものであると確認したクライスは顔を綻ばせ、一際優しく細めた目を再び本へと戻した。
今まで刺繍を施したものは、全てクライスによって大切に保管されており、汚れるのが嫌だからと言って一度も使われていない。
それが少しだけ寂しくもあるが、それだけ大切にされるのは嬉しくもある。
上達したらブランケットなど大物に挑戦しようと思っているが、それすらも保管されるのではと僅かに危惧していた。
だが、そのような悩みを持てるようになれた事が何よりも嬉しく幸せなのだ。
そう思い至り、アマンダの心は温かくなった。
◇~◇~◇~◇~◇~◇
デビュタント舞踏会の夜。
いつもなら部屋にいるクライスの姿がなく、もう出掛けてしまったのかと…それなら声くらいかけてくれても良かったのにと落ち込むアマンダの元に、侍女が箱を抱えてやってきた。
可愛くラッピングされた箱を開けると、そこには上質な生地で作られた薄紫色の部屋着が入っていて、銀糸で繊細な刺繍が施されている。
踵のない靴はラベンダー色で、イヤリングとネックレスは透き通る色合いのアメジスト。
「お着替え致しましょう」
意図が分からずに困惑しているアマンダを置いてきぼりにして、侍女達は楽しそうに箱の中身でアマンダを着飾る。
「あの…これは……」
「では、私達は扉の外におりますので。素敵な時間をお過ごしくださいませ」
普段はしない化粧まで施され、ただただ呆然とするアマンダ。
そして侍女と入れ違いで部屋の中へ訪れたのは、正装に身を包んだクライスだった。
黒のタキシードを着用し、耳元には稀少なピンクダイヤモンドが使われたピアス。
タキシードの襟元には金糸で施された刺繍。
さすがのアマンダも気付く。
そして知らず涙が溢れ落ちた。
「アマンダ、俺のハンカチは?」
恋人や婚約者を持つデビュタントの男性は、贈られた刺繍済みのハンカチを胸元に飾る。
言葉にしたことはないけれど、想い合っていることは感じていたふたり。
クライスは、このところ熱心に刺していたハンカチがこの日の為であると気付いていた。
だからそれを渡して欲しいと伝えたのである。
「……へたくそだけど…」
「アマンダが刺してくれたことに意味がある」
幾筋も涙を流すアマンダからハンカチを受け取ると、さっと胸元のポケットに差し込む。
これでクライスの正装は完成した。
そして手を差し出す。
「踊っていただけますか?」
アマンダより大切なものはない。
デビュタント舞踏会なら、アマンダの時に自分がエスコートして楽しめばいい。
一生に一度しかないその時を、アマンダ以外と過ごすなど考えられなかった。
アマンダのデビュタントまであと三年。
それだけの時間があれば、舞踏会を楽しみ踊れるまでに回復させてやれる。
クライスはそう計画立てていた。
「よろこんで」
花が綻ぶように笑ったアマンダの腰を抱き寄せ、ゆっくりとリードしながら踊り始める。
拙い動きだが、ダンスなど三年前までのアマンダの世界には存在しなかったもの。
だからこそ、その拙さが心を温かくした。
じっくり時間をかけてはいるものの、それでさえも時に体調を崩し寝込むこともある。
けれどその苦痛に耐え、生きたいと望むアマンダをクライスは深い愛で包んできた。
たとえ完治し自由に羽ばたけるようになろうと、その手を放してやるつもりはない。
今はまだ拙い足取りも、これから幾らでもある時間の中で自分が導いてやればいい。
そんな風に強く心に決めていた。
視線を感じたアマンダが顔をあげて視線が交わると、ポッと染まる白い頬。
踵のない靴を履いたアマンダはクライスの胸元ほどしか身長がなく、仮に唇へ口付けるなら身を屈めなければならない。
義弟(予定)同様に、アマンダの全ては初夜で貰うことも決めている。
だから、小さな額に口付けを落とした。
「アマンダ、俺と婚約してくれないか?」
クライスは、あえて判断を委ねた。
今まで多くのものを諦めるしかなかったアマンダだからこそ、自身で決めて欲しくて。
アマンダに望んで欲しくて。
「……はい」
小さく聞こえた声と共に顔は綻び、その可愛らしさに思わず踊るのをやめ抱き締めた。
誰もいないふたりきりの舞踏会。
まだ夜は始まったばかりである。
◇~◇~◇~◇~◇~◇
「アマンダ!!」
結婚してからも侯爵に住まい、別館を建ててそこを治癒院として開設したふたり。
貴族は勿論、平民も訪れる事が出来るように配慮されている。
その為に老若男女問わず様々な人が出入りするのだが、互いに嫉妬深いふたりはそのせいでよく小さな喧嘩を繰り広げていた。
今日はクライスが嫉妬に駆られたようだ。
本館に戻り赤子に授乳していたところに、自身の抱える患者の治癒を終えたクライスが勢いよく飛び込んできた。
「おかえりなさい、クライス」
「うっ……」
ふわりと微笑まれ、また、子に乳を与える神々しい姿に胸を打たれて勢いを殺したが、すぐに再燃させアマンダに近付いた。
「今日、トム爺さんの治癒をしたって聞いた」
「えぇ、そうなの。高い庭木を剪定していたら落ちてしまったそうで、出血を止めるのに貴方を待つだけの余裕がなかったのよ」
嫉妬深いせいで、それぞれの患者は同性に限ると取り決めているが、緊急性がある時には見捨てるわけにもいかないので治癒を施す。
二度とするななどと憤ることはないものの、たとえ赤子だろうと死にかけだろうと嫌なものは嫌なふたりは、ひとたび燃え上がった嫉妬を解消する為に、ひたすら向き合い言葉と態度と行動で愛を伝えることにしている。
なんとも厄介な…と思われている事にはついぞ生涯に渡って気付くことはなかった。
「……アマンダ、もうひとり子供が欲しい」
晴れて夫婦となった翌年には元気な娘が生まれ、困るほどによく出る母乳は惜しげもなく娘へと与えられている。
乳母もいるにはいるが、時間さえ空けば自ら与える事をアマンダが希望した。
それはとても微笑ましいのだが、アマンダを独占できないクライスは実子にすら嫉妬し、己の種を再度植え付けたい衝動に駆られてしまう。
子が生まれればまた独占出来なくなるのだが、その種を植え付けるのは自分にだけ許された権利…という優越感を得たいクライス。
体調と命が戻ると共に成長は進み、背丈こそ小柄なもののとても豊かになったふたつの膨らみ。
アマンダの全ては自分のものだと豪語するクライスは、その膨らみにしゃぶりつくのがたとえ実子であろうと嫉妬してしまう。
そして夫からの歪んでいるともとれる想いをぶつけられたアマンダは、その想いを拒絶することなく全身全霊で受け止める。
結果としてふたりは五人の子宝に恵まれ、三番目に生まれた次男は誕生の瞬間からクライスをも凌ぐ魔力を開花させていた。
次男以外の子供達も大なり小なり魔力を持って生まれており、クライスとアマンダが亡きあとも子供達がその意思を継ぎ、侯爵家の治癒院は世界屈指のものへと成長した。
後にも先にも、治癒師同士が結婚した例はふたりをおいて存在せず、やがて伝説となって後世に語り継がれるのであった。
誰とも恋をせずに終わりを迎える。
けれど後悔はひとつもしていない。
それが、クライスと出会うまでにアマンダが胸に秘めていた思いだった。
◇~◇~◇~◇~◇~◇
『はじめまして、クライス=ポーターです』
そう言って自分へ向けられた視線に、目を逸らせなくなった。
大好きな恋愛小説に書かれている表現のように胸はトクン…トクン…と高鳴る。
『俺が治します』
そう力強く言われたかと思うや否や、優しく握られた手からは温かい魔力が流し込まれ、それがなんとも心地よくて鼻の奥がツンとした。
もう死ぬだけだと思っていた。
恋など知らずに死ぬのだと思っていた。
そう思うしかなかったアマンダの心に、魔力と共に流されたクライスの愛情が流れ込んでくる。
叶うなら生きていきたい。
叶うなら恋をしたい。
そしてその相手は…クライスがいい。
そう自然と思えて、頬が熱くなり赤く染めた。
その日から間もなくしてクライスがレイチェルと共に侯爵家で暮らすこととなり、治癒の為にとクライスは連日朝から晩までアマンダの部屋に籠るようになった。
体力がなく部屋で食事をせざるを得ないアマンダの為に、クライスも三食全てをアマンダの部屋でとるようになり、目覚めから眠りにつくまで常に寝台の横に寄り添う。
それはふたりが夫婦となるまで一日として空けずに続き、変わったのは同じ寝台で寝起きするようになったくらい。
クライスの魔力と深い愛情を与えられた事で症状は改善され、一年が経つ頃には部屋の中を歩く程度にまで回復した。
ふたりが出会った当初、アマンダは急激な魔力消費で命を削った為に成長が遅れ、体が弱り長く床に臥していたせいもあって、レイチェルと同じ十二歳にはとても見えないほどに小柄だった。
しかしクライスの治癒を受け続けることで栄養が行き渡るようになると、病的に白かった肌には血色が戻り、不調だった肌や髪にも潤いや艶が取り戻され始めた。
それでも弱りきっていた体力はなかなか戻らず、一年をかけて寝台から降りて歩くことが出来るようになったのである。
それからさらに二年。
十八歳となり成人を迎えたクライスは、近く行われるデビュタント舞踏会を控えていた。
大人の精悍さが加わり始めた姿に、きっと多くの令嬢が囲むのだろう…と胸を痛めるアマンダだが、未成人の自分がついていくことは出来ず、そもそも舞踏会に耐えられる体力もない。
だが、デビュタント舞踏会は晴れ舞台。
寂しくも思うが喜んで送り出す心構えをし、アマンダはハンカチに刺繍を施していく。
少しずつ出来ることも増え、この頃には短い時間なら庭を歩くことも出来るようになった。
時にはレイチェルと共に厨房の隅を借り、焼き菓子を作ってはクライスに贈ることもある。
読書に勤しむクライスの隣に座り、穏やかに過ぎる時間のなか丁寧に刺繍を刺していると、ふと視線を感じて隣のクライスを見た。
「上手になったね」
そう言われて手に持つハンカチを見れば、確かに始めた頃より幾分かましに思える。
だが、幼い頃から勤しんできたレイチェルには到底及ばない。
「また宝物が増えるな」
刺されている名前が自分のものであると確認したクライスは顔を綻ばせ、一際優しく細めた目を再び本へと戻した。
今まで刺繍を施したものは、全てクライスによって大切に保管されており、汚れるのが嫌だからと言って一度も使われていない。
それが少しだけ寂しくもあるが、それだけ大切にされるのは嬉しくもある。
上達したらブランケットなど大物に挑戦しようと思っているが、それすらも保管されるのではと僅かに危惧していた。
だが、そのような悩みを持てるようになれた事が何よりも嬉しく幸せなのだ。
そう思い至り、アマンダの心は温かくなった。
◇~◇~◇~◇~◇~◇
デビュタント舞踏会の夜。
いつもなら部屋にいるクライスの姿がなく、もう出掛けてしまったのかと…それなら声くらいかけてくれても良かったのにと落ち込むアマンダの元に、侍女が箱を抱えてやってきた。
可愛くラッピングされた箱を開けると、そこには上質な生地で作られた薄紫色の部屋着が入っていて、銀糸で繊細な刺繍が施されている。
踵のない靴はラベンダー色で、イヤリングとネックレスは透き通る色合いのアメジスト。
「お着替え致しましょう」
意図が分からずに困惑しているアマンダを置いてきぼりにして、侍女達は楽しそうに箱の中身でアマンダを着飾る。
「あの…これは……」
「では、私達は扉の外におりますので。素敵な時間をお過ごしくださいませ」
普段はしない化粧まで施され、ただただ呆然とするアマンダ。
そして侍女と入れ違いで部屋の中へ訪れたのは、正装に身を包んだクライスだった。
黒のタキシードを着用し、耳元には稀少なピンクダイヤモンドが使われたピアス。
タキシードの襟元には金糸で施された刺繍。
さすがのアマンダも気付く。
そして知らず涙が溢れ落ちた。
「アマンダ、俺のハンカチは?」
恋人や婚約者を持つデビュタントの男性は、贈られた刺繍済みのハンカチを胸元に飾る。
言葉にしたことはないけれど、想い合っていることは感じていたふたり。
クライスは、このところ熱心に刺していたハンカチがこの日の為であると気付いていた。
だからそれを渡して欲しいと伝えたのである。
「……へたくそだけど…」
「アマンダが刺してくれたことに意味がある」
幾筋も涙を流すアマンダからハンカチを受け取ると、さっと胸元のポケットに差し込む。
これでクライスの正装は完成した。
そして手を差し出す。
「踊っていただけますか?」
アマンダより大切なものはない。
デビュタント舞踏会なら、アマンダの時に自分がエスコートして楽しめばいい。
一生に一度しかないその時を、アマンダ以外と過ごすなど考えられなかった。
アマンダのデビュタントまであと三年。
それだけの時間があれば、舞踏会を楽しみ踊れるまでに回復させてやれる。
クライスはそう計画立てていた。
「よろこんで」
花が綻ぶように笑ったアマンダの腰を抱き寄せ、ゆっくりとリードしながら踊り始める。
拙い動きだが、ダンスなど三年前までのアマンダの世界には存在しなかったもの。
だからこそ、その拙さが心を温かくした。
じっくり時間をかけてはいるものの、それでさえも時に体調を崩し寝込むこともある。
けれどその苦痛に耐え、生きたいと望むアマンダをクライスは深い愛で包んできた。
たとえ完治し自由に羽ばたけるようになろうと、その手を放してやるつもりはない。
今はまだ拙い足取りも、これから幾らでもある時間の中で自分が導いてやればいい。
そんな風に強く心に決めていた。
視線を感じたアマンダが顔をあげて視線が交わると、ポッと染まる白い頬。
踵のない靴を履いたアマンダはクライスの胸元ほどしか身長がなく、仮に唇へ口付けるなら身を屈めなければならない。
義弟(予定)同様に、アマンダの全ては初夜で貰うことも決めている。
だから、小さな額に口付けを落とした。
「アマンダ、俺と婚約してくれないか?」
クライスは、あえて判断を委ねた。
今まで多くのものを諦めるしかなかったアマンダだからこそ、自身で決めて欲しくて。
アマンダに望んで欲しくて。
「……はい」
小さく聞こえた声と共に顔は綻び、その可愛らしさに思わず踊るのをやめ抱き締めた。
誰もいないふたりきりの舞踏会。
まだ夜は始まったばかりである。
◇~◇~◇~◇~◇~◇
「アマンダ!!」
結婚してからも侯爵に住まい、別館を建ててそこを治癒院として開設したふたり。
貴族は勿論、平民も訪れる事が出来るように配慮されている。
その為に老若男女問わず様々な人が出入りするのだが、互いに嫉妬深いふたりはそのせいでよく小さな喧嘩を繰り広げていた。
今日はクライスが嫉妬に駆られたようだ。
本館に戻り赤子に授乳していたところに、自身の抱える患者の治癒を終えたクライスが勢いよく飛び込んできた。
「おかえりなさい、クライス」
「うっ……」
ふわりと微笑まれ、また、子に乳を与える神々しい姿に胸を打たれて勢いを殺したが、すぐに再燃させアマンダに近付いた。
「今日、トム爺さんの治癒をしたって聞いた」
「えぇ、そうなの。高い庭木を剪定していたら落ちてしまったそうで、出血を止めるのに貴方を待つだけの余裕がなかったのよ」
嫉妬深いせいで、それぞれの患者は同性に限ると取り決めているが、緊急性がある時には見捨てるわけにもいかないので治癒を施す。
二度とするななどと憤ることはないものの、たとえ赤子だろうと死にかけだろうと嫌なものは嫌なふたりは、ひとたび燃え上がった嫉妬を解消する為に、ひたすら向き合い言葉と態度と行動で愛を伝えることにしている。
なんとも厄介な…と思われている事にはついぞ生涯に渡って気付くことはなかった。
「……アマンダ、もうひとり子供が欲しい」
晴れて夫婦となった翌年には元気な娘が生まれ、困るほどによく出る母乳は惜しげもなく娘へと与えられている。
乳母もいるにはいるが、時間さえ空けば自ら与える事をアマンダが希望した。
それはとても微笑ましいのだが、アマンダを独占できないクライスは実子にすら嫉妬し、己の種を再度植え付けたい衝動に駆られてしまう。
子が生まれればまた独占出来なくなるのだが、その種を植え付けるのは自分にだけ許された権利…という優越感を得たいクライス。
体調と命が戻ると共に成長は進み、背丈こそ小柄なもののとても豊かになったふたつの膨らみ。
アマンダの全ては自分のものだと豪語するクライスは、その膨らみにしゃぶりつくのがたとえ実子であろうと嫉妬してしまう。
そして夫からの歪んでいるともとれる想いをぶつけられたアマンダは、その想いを拒絶することなく全身全霊で受け止める。
結果としてふたりは五人の子宝に恵まれ、三番目に生まれた次男は誕生の瞬間からクライスをも凌ぐ魔力を開花させていた。
次男以外の子供達も大なり小なり魔力を持って生まれており、クライスとアマンダが亡きあとも子供達がその意思を継ぎ、侯爵家の治癒院は世界屈指のものへと成長した。
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