【完結】彼と私と幼なじみ

Ringo

文字の大きさ
8 / 10
リクエスト☆番外編

押しの強い令嬢と逃げ腰の令息 (1/3)

ちらっと頂いたリクエスト
【ポーター男爵夫妻の馴れ初め】を♡

お楽しみくださいませ☆






*~*~*~*~*~*






「デイビス、釣書が来たぞ。見るか?」


息子を執務室に呼びつけた父親は、揶揄するような面持ちで釣書を差し出した。

そんな父親に息子が向ける目は白けている。


「……見るまでもないのでしょう?父上がそういう顔をする時は、碌でもない縁談だ」

「おぉ!!さすが俺の息子だ。どいつもこいつも、我が家の資産や権利を目当てにしている」

「でしょうね。それでは」


用がそれだけならと部屋を出ようとする息子を、父親は尚も引き留める。


「まぁ待て。来月はデビュタントの舞踏会だ」

「そうですね」

「素っ気ないなぁ」

「特に思うこともないので。久し振りに友人達と会えるのは楽しみですが」


一年間の大半を雪に覆われている僻地に、わざわざ訪ねてくる者は少ない。


「そこで誰か見初めてこい」

「見初めてこいって…見初めたところで、こんな僻地に嫁ごうなんていう物好きはいませんよ」

「マデリンは嫁いできたぞ」

「母上は…まぁ、そうですね」


結婚して二十年経つのに、未だ父親にべた惚れの母親を思い浮かべた…と同時に欲に目をギラつかせた令嬢達も思い出してしまい、気分が悪くなってしまった。

雪深い僻地でも嫁ぎたいと言う女性はそれなりにいるが、その殆どが家業が生み出す利益目当て。
もしくはデイビスの容姿しか見ていない。

かつて媚薬まで盛られたこともあり、軽い女性不信に陥っているデイビスは、弟に全ての責任を丸投げするつもりでいる。


「さすがにデビュタントの舞踏会で媚薬などは盛られまい…たぶん」

「……そこはハッキリ言い切ってくださいよ」

「まぁ、そう言うな。もしも誰かいいご令嬢がいれば、爵位を気にすることはないからな?」

「…分かりました」


今度こそ部屋を出て自室へ向かうが、その途中下車で暫し立ち止まって外の様子を眺めた。

しんしんと降り積もる雪。

屋敷の中は満遍なく暖められているが、一歩外に出れば凍えそうになる寒さ。
自分は生まれ育った場所なので慣れているが、お洒落なお店も娯楽も少ないこの地に、誰が好き好んで来るだろうかとデイビスは考える。

分かりやすく欲を孕んだ女性は嫌だし、自覚している容姿だけを目当てと言われても面白くない。


『ダーティスを見た瞬間、心が溶けたわ』


一目惚れを不思議な表現に変えて話す母親曰く、その時が来れば分かるのだと言う。
恋愛経験のないデイビスにとっては理解できない事だが、少しばかり羨ましくも思っていた。

町へ出れば、雪が降り積もる中を寄り添い歩く恋人達をよく見かける。
自分も誰かとそうしてみたいと思ったりはするけれど、周りにいるのは欲深い貴族達。
純粋に…ただ互いを愛する関係に憧れてしまう。

それなら平民もありでは?と考えた事もあるが、家業の仕組みが些か複雑なので、それを理解した上で手伝って貰えないと困るのだ。
弟に丸投げするつもりでいるが、押し付けようとしているのは家督と子作りだけで、研究や作業に関しては継続して携わる予定でいる。


「……舞踏会か…」


そう呟き、デイビスは部屋へ向かった。






*~*~*~*~*~*






迎えた舞踏会…デイビスはひとりの女性と踊りながら、逸る鼓動に困惑していた。


「お上手ですね」

「母上に叩き込まれました」


互いにしか聞こえない声量で交わされる会話も、抱き寄せている腰の細さも、鼻先を擽る花のような香りも…何もかもが胸を高鳴らせる。


『一目見て心が溶けるのよ』


そう表現していた母親の言葉が脳裏を過り、デイビスは“なるほど”と内心で納得した。

目の前の女性を一目見た瞬間…それまで感じたことのない熱が心を支配し、形容しがたい感情が沸き起こっている。


「……デイビス様とお呼びしても?」


名前で呼びたいと女性から言われ、許可したことは今まで一度もないが、この女性にはむしろ呼んで欲しいと思った。


「是非…俺もシャーロット嬢と呼びたい」

「光栄ですわ」


ふわりと微笑まれ、デイビスは自覚した。
自分はシャーロットに恋をしている…と。
だが相手は筆頭公爵家の令嬢である。
父親は爵位など気にするなと言っていたが、さすがに無理だと想いを封じ込めた。


「素敵な時間を有り難うございました。貴女と踊れたことは、生涯の輝きとなります」


夢のような時間はあっという間。
デイビスはシャーロットの手を取り、その滑らかな甲にそっと口付けをして別れの挨拶をする。

彼女を望むなど分不相応。

自分には決して手が届かない存在だと自嘲し、触れる手を少しだけきゅっと握り…そのダンスを最後にデイビスは会場をあとにした。






*~*~*~*~*~*






王都へ宿泊する予定の息子がとんぼ返りした事に両親は驚いたが、それを上回る衝撃が屋敷を襲ったのは翌日のこと。


「デイビス…お前、何をしたんだ?」


執務室に息子を呼びつけ、父親は一枚の釣書と可愛らしい花柄の封書を差し出した。

釣書の送り主は筆頭公爵家。

添えられていた手紙はシャーロットからだった。


「公爵家の使いが夜通し登ってきたぞ。見初めてこいとは言ったが、まさか筆頭公爵家の娘とは思わなんだ」

「………………」

「デイビス?」


返事をしない息子に“嬉しいのか?”と思い顔を覗き込めば、予想と違い苦痛に歪んでいた。


「……嫌なのか?」


その問いに、少しの間をあけ小さく首を振って否定を示すデイビス。
ならばなぜ?と父親は思案するが、年頃の息子も色々と思うことはあるだろうと問うのをやめた。


「とにかく、この縁談を受けるかどうかは時間をかけて考えなさい。以前も言ったように、爵位の差は気にしなくていい。大切なのはお前が望むかどうかだけだ」

「…………はい」

「それから返事も出すように」

「……はい」


デイビスは握る手紙から視線を外さないまま頭を下げて退室し、ふらふらとした足取りでなんとか自室に辿り着いた。

花の妖精のようなシャーロットから届けられた、可愛らしい花柄の手紙。

本音を言えば天にも昇る気持ちだ。
高く掲げて小躍りしながら町を練り歩きたい。


『爵位など気にするな』


父親はそう言うし、実際ポーター男爵家は王家から特別な待遇を受けている。
本気で望めば筆頭公爵家相手でも婚姻は叶う。

けれどデイビスが懸念していたのはそこではなかった。


「……彼女のような女性が、この地で満足のいく生活など送れるはずがない」


その気になれば筆頭公爵家に匹敵する財産は成せるし、湯水のように欲しいものを買い与える事も出来るが…それはポーター家の理念に反する。

その理念を曲げたくはないが、もしもシャーロットがそれを望めば曲げてしまう自信があり…だからこそ縁談を受ける気にはなれない。

手紙からはシャーロットがつけていた香水の香りがして、そっと封を開けて中身を取り出すと…そこにはデイビスへの想いが綴られていた。






*~*~*~*~*~*






舞踏会から逃げるようにして自宅へ戻り、翌日にはラブレターを受け取ったデイビスだったが、偽らざる胸のうちを返事にしたためた。

自分は男爵家の人間でしかなく、筆頭公爵家の令嬢を迎える余裕などないこと。
この地には、王都のような華やかさも娯楽も存在しないから楽しめないこと。
そして何より…一日の大半を研究に割く為、結婚相手には寂しい思いをさせてしまうこと。

それら全てを素直に綴り、雪の結晶がデザインされた封筒に入れてシャーロットへ送った。

もうこれで関係は終わり…そう思って芽生えていた感情に蓋をして、やはり自分に恋愛は無理だと研究に没頭することにした。


「デイビス、これを届けてくれ」


基本的に僻地に籠っているデイビスだが、王家からの依頼で作られた商品を届けに王都へ出向くこともある。

繊細な扱いと難しい説明を必要とする為、王家への対応はデイビスが担当していた。


「分かりました。ついでに友人達と少し会ってきてもいいですか?」

「少しと言わず存分に遊んでこい」

「そうは言っても研究が途中のものもありますので、適度に息抜きをしたら戻ります」









そう言っていたデイビスは、王都から戻るのはひと月後となるなど思いもしていなかった。



感想 15

あなたにおすすめの小説

好きな人

はるきりょう
恋愛
好きな人がいます。 「好き」だと言ったら、その人は、「俺も」と応えてくれました。  けれど、私の「好き」と彼の「好き」には、大きな差があるようで。  きっと、ほんの少しの差なんです。  私と彼は同じ人ではない。ただそれだけの差なんです。 けれど、私は彼が好きだから、その差がひどく大きく見えて、時々、無性に泣きたくなるんです。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあるものを一部修正しました。季節も今に合わせてあります。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

この別れは、きっと。

はるきりょう
恋愛
瑛士の背中を見ていられることが、どれほど幸せだったのか、きっと瑛士は知らないままだ。 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。

あなたの1番になりたかった

トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。 姉とサムは、ルナの5歳年上。 姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。 その手がとても心地よくて、大好きだった。 15歳になったルナは、まだサムが好き。 気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

来栖 蘭
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話