【完結】365日後の花言葉

Ringo

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従姉妹の盲執 sideシェスリーナ

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 ラシュエル王国の第一王女である私シェスリーナには、マリーベルと言う同い年の従姉妹がいる。

 同い年で同性とあって、生まれたときから当たり前のように一緒に過ごし成長してきた従姉妹。

 兄と弟に挟まれていたから女の子同士で遊べることを喜び、少しおしゃまなマリーベルの訪れをいつも楽しみにしていたほど。


「マリーはいつもかわいいものをもっているのね」


 娘を溺愛してやまないとの噂どおり、マリーベルの両親は常に流行の最先端を取り入れさせ、食材にも身の回り品にも惜しみ無く金銭を注いでいた。

 一言「欲しい」とねだれば何であろうと手に入れ、叶わぬことは何一つない一国の姫をも思わせる。

 …ダメな方の意味で。


「おとうさまがくれたの」


 幼い頃、マリーベルは父親のことを魔法使いだと本気で思っていた節があり、それだけ彼女の願いは余すことなく叶えられ、与えられてきた。

 けれど、そんな彼女が何よりも欲して唯一手に入れられなかったものがある。


「フリードリヒ様が…わたくしではないご令嬢とご婚約をしてしまったの……っ!!」


 誰もが分かっていた。

 4歳で初めてマリーベルとフリードリヒが出会ってから、追いかけ回しているのはマリーベルだけで、フリードリヒはそれを拒絶していることを。

 耳年増なマリーベルは母親や侍女など大人話す恋愛に憧れ、勘違いしたまま突き進む。

 フリードリヒが笑わないのは照れ隠し。

 目が合わないのは恥ずかしいから。

 全てを自分の都合に合わせて解釈し、許可もされていないのに…むしろ“正式に”拒絶されているのにも関わらず、フリードリヒの色を身に纏い付きまとう様子は盲執と言えた。


「きっと無理強いされたのよ…」


 誰もが知っている。

 フリードリヒからの熱烈な申し出により婚約は結ばれ、どう見ても相思相愛のふたりなのだと。

 気付かないのは、分からないのはマリーベルだけ。


「今はまだ幼いから…だからフリードリヒ様もご自身ではどうにもならないのよ……でもいつか、ご自身でお決めになられる時が来れば…その時は違うご決断をされるはずだと思うの……」


 そう言って盲執は深みを増し、見かねた周りからの助言も「フリードリヒ様の本当のお心は分からないでしょう?」と聞く耳を持たない。

 ドレスは緑色以外を厭い、たとえ婚約者のジュリエンヌと同伴している夜会や舞踏会でも付かず離れずの距離で付き纏う。

 サンドリヨン公爵家から正式に抗議されても、マリーベルを溺愛する両親は「恋慕うだけの娘を許して欲しい」とのらりくらり…

 ナチュリシア公爵夫人が王妹なのも相成り、「過剰な接触さえ控えてくれれば」とサンドリヨン公爵家が折れるしかなかった。

 正式な場でフリードリヒが身に纏うのは、決まってゴールドとアメジストの二色のみ。

 マリーベルの色である銀とピンクゴールドは一切使われておらず、それを指摘されれば「フリードリヒ様はお優しいから…ご婚約者に気を遣われているのですわ」と答える始末。

 対してフリードリヒとジュリエンヌは、婚約が結ばれた当初から変わらぬ愛を更に育み深め合い、一部を除いて祝福されるふたりとなっていた。

 淑女教育を熱心に受けたマリーベルも、均整のとれた美貌に加え高い教養を培い、多くの令嬢や令息から憧れの者となった…が、それもフリードリヒへの盲執さえ除けばの話。

 フリードリヒとジュリエンヌの婚姻は確実なものとされ、やがて完全に恋を失うであろうマリーベルに対して多くの釣書が届いているとも聞いていた。

 国王が姪であるマリーベルに力添えをしなかったのは、そこに特出した政略的要素も見当たらず、そもそも国王自身が相思相愛の妻を隣に置いているからに他ならない。

 国王にとって学友であり、若い頃には共に戦地へも赴いたサンドリヨン公爵の愛息子。

 その恋路を、それも相思相愛と分かるものを態々邪魔しようだなんて…と頑なに応じなかった。

 むしろ、妄想を見せるまでになったマリーベルの再教育や指導をするよう、母親である公爵夫人に告げていたほど。


「シェスリーナっ……!!」


 ある日、泣き腫らした顔のマリーベルがやって来て、フリードリヒとジュリエンヌの結婚式が決まったのだとその場に頽れた。


「マリーベル…何度も何度も話したでしょう?フリードリヒとジュリエンヌは想い合っていて、マリーベルがフリードリヒと結ばれる日は来ないのよ」


 もう何度伝えただろうか。

 最初の頃は遠回しに…優しくオブラートに包み…やがてはっきりと、そのままを告げるようになった。

 結果、何も伝わらなかったけれど。


「フリードリヒ様はお優しいから!!だからっ、長年ご婚約されてきたジュリエンヌ様を…ただ長く婚約者だってだけで捨てられなくて…っ…」


 話の通じない様子にもうこれ以上は無理だと思い、領地での生涯軟禁療養か修道院行きを国王から勧告してもらうべきだと判断した。


「とりあえず自宅でゆっくり休みなさい」


 ふらつく体を侍女に支えられて立ち去る間際、濡れた瞳が不穏に揺れたのに気付き、私個人が動かせる影に監視するよう命じた。

 フリードリヒ相手は最古参の公爵家。

 これ以上の不興を買って国外に出られては困る。


「何か動きがあればすぐに伝えて」

「御意」


 何もなければいい。

 杞憂で終わればいい。

 哀れだけれど可愛い従姉妹。

 どうか…どうか無茶なことはしないでと祈りつつ、父の執務室へと足を向けた。










 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆










 マリーベルに付けた影から「モナクール公爵家の夜会に出られるようです」と報告を受けた時、酷く胸騒ぎがした。

 フリードリヒとジュリエンヌの結婚式が3ヶ月後に控え、ここ最近は塞ぎこんで部屋から出ようともしていなかったはずなのに。


「私も向かうわ。すぐに準備と先触れを」


 当主夫妻にのみ伝えるよう指示を出し、急ぎ夜会のお忍び参加用ドレスに着替える。

 とは言っても時間はそれなりに掛かってしまい、報告を受けた時には既に夜会が始まっていたモナクール公爵家に到着したのは、終盤に差し迫った頃。

 お忍び参加でも自由になるのは難しい。

 主要な貴族達との挨拶を交わしながら「マリーベルを探して。フリードリヒでもいいわ」と影に命じる。

 彼らに求められるのは状況確認と報告だけ。

 もしもマリーベルがフリードリヒに“何か”をしたとして、彼らにそれを制する権限は無い。 


「何もなければいい……何もしないで……」


 マリーベルを領地か修道院に…との話にナチュリシア公爵家は難色を示し、せめて結婚式をその目で見て気持ちに整理をつけるまで待って欲しいと言う。

 その後は領地に留め置くから…と。

 フリードリヒとジュリエンヌ…そしてマリーベルの姿も見えないことから気は焦り、人が引き始めると漸く「庭園の奥で確認」と報告が入った。

 駆け付けると遠目にもマリーベルがフリードリヒに口付けているのが分かり、従姉妹に対し怒りとも失望ともいえる複雑な感情が湧き上がる。


「…なにをっ…!!」


 そして反対側の木陰に佇むジュリエンヌも視界に捉え、倒れるようにくずおれた様子が見えた。

 最悪の展開。


「誰も来ないようにして」

「御意」


 幸い…と言えるのか、ここは奥まっていて薄暗く、よほど足を踏み入れないと視界に入ることはない。

 けれど用心の為に周囲をそれとなく固めさせ、マリーベル達がいる四阿へと急ぐ。

 フリードリヒが抵抗しているように見えるも強く出られないと窺え、更に最悪なことにジュリエンヌが侍女に支えられながら去っていく。


「いい加減にしてくれ!!」


 なおもフリードリヒに縋りつくマリーベル。

 4歳の時…従姉妹が『お気に入りの人がいるの』と話した時は素直に応援した。

 物欲のように『あの子がどうしても欲しい』とズレたことを言った時も、恋心をうまく表現できないのだろうと微笑ましく思った。

 どれだけ慕っても叶わない恋を追いかけ、縋りつく姿を憐れに思っていたこともある。

 だからこそ「思うくらいなら…」と看過した。

 だけどこれはダメ。








「いい加減になさいませ」








 自分でも驚くほどに冷たい声音が出て、フリードリヒに縋りつく腕を力任せにベリっと引き剥がした。

 自己防衛の為に鍛練している私には簡単なことで、同性であり王女であるからこそ出来る手法。


「きゃぁっ!!」

「!!…シェスリーナ殿下っ…」


 ベンチから転げ落ちたマリーベルの前に立ち、私の登場に焦り姿勢を正そうとするフリードリヒを手で制し、困惑顔のマリーベルを見下ろす。

 もう守りきれない。

 守りたいと思えない。

 越えてはならない一線をあなたは越えた。








「マリーベル…あなたはもう終わりよ」









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