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【最終話】
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結婚してから10年。
変わらない愛を日々囁き合う若い夫婦の間には、5人の子供が誕生した。
男児が3人続き、次いで生まれたのは女児…しかも双子であり、両家の歴史上初めての事に領地をあげてのお祭り騒ぎとなったのも記憶に新しい。
そして彼女達は一卵性の双子。
リリーチェの幼い頃に瓜二つだった。
周囲の溺愛は凄まじく、特に今は隠居したメルロー前侯爵はメロメロどころかデロデロ。
「おじいちゃま。アリー、ほしいものがあるの」
幼きリリーチェそっくりの顔でねだられれば、金に糸目をつけずに買い与える。
「おじいちゃま。ユリー、いきたいところがあるの」
そうねだられれば、何処へでも連れていく。
アリーシャとユリーシャの2人は、祖父メルロー前侯爵は自分達に激甘だと理解していた。
この時、若干3歳である。
「お父様、少し甘過ぎですわ」
今日も今日とて公爵家を訪れ、膝に2人を乗せてご満悦の父親に抗議するリリーチェ。
アルバートが公爵を継いだので、現在は公爵夫人となり社交界で中心的な存在となっていた。
「……だって…リリーの小さい頃にそっくりなんだもん」
「だもん…じゃありません!!」
「ママ、おじいちゃまをせめないで」
「ママ、おこっちゃいや」
幼き孫に庇われ慰められて、しゅんとしていた前侯爵はみるみる元気になって遊び始める。
「おじいちゃま、これをよんで」
「おじいちゃま、これもよんで」
「よいよい、なんでも読んでやろう」
祖父を手玉にとって無邪気にはしゃぐ2人は、歴史ある公爵家の令嬢。
家族の前では気を許して自由に振舞っているが、対外的な場では静かで大人しく、子供らしい拙さはあるもののマナーや礼儀作法もなっている。
兄達に言わせれば「猫被り」だが、人を攻撃したり傷付けるような物言いは決してしない。
ただ…4歳らしからぬ辛辣な物言いをする時はまれにあり、嫌味の言い回しは伯父である現侯爵の影響だとリリーチェは思っていた。
「わたし、おうじさまとけっこんしたいわ」
「わたしはきしさまとけっこんする」
絵本の登場人物に憧れる小さな乙女達の何気ない言葉…だと思われたものが、まさか時を経て現実になるとはまだ誰も知らない。
「アリー!!ユリー!!嫁になんぞ行かんでいい!!」
小さな孫達をぎゅっと抱き締めながらそう叫ぶ様子に、リリーチェはやれやれとお腹を撫でながらソファーに腰掛ける。
「体調はどうだ?辛いことはないか?」
「大丈夫。もう6度目の妊娠だし、妊婦生活も慣れたものですわ」
「今度も双子…だったりして」
「それはないと思うけど…どうかしら?」
臨月の膨らみ具合からして恐らくひとりしか入っていないだろう…とリリーチェは思っている。
「そういえばお母様はいつ頃お帰りになるの?」
前侯爵夫人である母親は、末息子の留学先に友人と遊びに行っており、こうして父親が遊びに来るのも放置されている寂しさゆえ。
本来なら共に行くはずだったが、外交の場にどうしても同席して欲しいと先方から要請され、泣く泣く…いや号泣して諦めた。
「リリー!!生まれてはいないか!?」
扉を粉砕する勢いでバンッ!!と現れたのは、リリーチェの夫であり現公爵、近衛騎士団副団長を務めるアルバート。
ツカツカと早足でリリーチェの元に来ると、まずはただいまのキスをして腹を撫でる。
「あぁ、よかった…間に合わなかったら今度の鍛錬でぶち殺すところだった」
「言葉が悪いわよ、あなた」
「すまない…しかし妻の出産に立ち会えないなど許されることではない」
普通は立ち会わないのよ?とは言わないが、どこまでも妻至上主義である夫の愛に心は温まる。
「お邪魔しているよ、アルバート」
「おや、いらしてたんですね。今夜も夕食を食べて行かれますか?なかなか美味いウィスキーを手に入れたんです」
「いいねぇ。頂くよ」
2人の会話にリリーチェは使用人に「いつもの部屋を用意しておいて」と指示をした。
食後にウィスキーを楽しんだ日は、2人して妻の惚気話に花を咲かせすぎてしまう為、お開きになる頃にはかなり遅い時間となる。
お隣さんとはいえそれなりの距離もあり、足元もおぼつかないようでは心配になってしまう。
なので前侯爵には泊まってもらう…というのが、前侯爵夫人不在中に始まった決まりであった。
その後、リリーチェは男児を出産。
双子の姉にそれはそれは可愛がられるのだが、やがて美女双生児と名を馳せる姉を間近で見て育った四男は、かなりの面食いとなる。
更にそれから1年後に第7子の男児を出産。
更に更に10年後、もう子は出来ないと思っていた夫婦の元に最後の子となる命がやって来た。
「やっぱり私の娘だわ」
そう言って誇らしげに微笑んだのはリリーチェの母親で、自身も9人の子持ち。
リリーチェ38歳、アルバート45歳。
長男は21歳となっており、件の双子は15歳でデビュタントを迎える。
母親としてその準備に忙しなく動いていた最中にやって来た陣痛の波。
「アルバートに連絡して。少し早いけどもう生まれそうだわ」
タウンハウスである事が幸いし、アルバートは無事に立ち会うことが出来た。
「おめでとうございます。可愛らしいお嬢様でいらっしゃいますよ」
産婆によって取り上げられた第8子は、アルバートと同じ色味を持つ娘だった。
10年振りに生まれた子である。
上の兄姉達からは溺愛され、娘が自分に激似だと言われる事に愉悦を覚えたアルバートは何処に行くにも連れて歩き、自慢して回った。
近衛騎士団長を務める父親に連れ回され、常に周りに騎士がいる事が当たり前だったせいか、遊び道具は模擬剣で遊び相手は騎士。
王立学園に入ると騎士科へ進み、18歳で卒業するとそうする事が当たり前のように騎士団に入り、のちに大陸中に名を馳せる女性騎士となるとは誰も思わない。
𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸
70を超えてから病に伏せるようになっていたアルバートが86歳となった時、リリーチェは今夜が峠だと医師に告げられた。
子供達も同席してその言葉を聞いたが、最期の時間は夫婦2人きりにしようと席を立った。
「……………リリー………」
「ここにいますよ」
互いに皺だらけの手を優しく握り、瞳が白く濁って見えていないであろう夫の為に顔を近付けた。
折角だからと頬にキスをすれば、不安そうにしていたアルバートはふっと笑みを浮かべる。
「リリー………ありがとう……」
夫が何に感謝しているのか、全て言われずともリリーチェは理解した。
「約束したでしょう?私は決してあなたを置いては逝かないと。そして大家族をプレゼントするとも誓ったわ。出来た奥さんだったでしょ?」
「あぁ………君は素晴らしい…妻だった……」
細く弱々しい呼吸を繰り返しながら、今日のアルバートはよく喋る。
まるで最期の別れが迫っているようで、リリーチェは静かに涙を流した。
「……泣かないでくれ……もう涙を拭えない…」
「っ…泣いてないわ」
「…そうか…」
優しく困ったような笑みに、リリーチェは抑えきれない嗚咽を漏らしてしまう。
「リリー……君を置いていくのが辛い…」
「大丈夫ですわ…っ、私も…そう長くはありません。待たせることなく会いに行きます」
「…僕はひどい夫だ…それを喜ぶのは君の死を望む事になるというのに……嬉しく思ってしまう」
「私は…あなたのいない世界を生きたことがありません……生まれた時から…私の傍にはあなたがいてくれたんですもの」
79年間、リリーチェは常にアルバートの愛に包まれ生きてきた。
だから怖い。
アルバートがいなくなった世界をどう感じるのか分からず、怯えている。
「…あの頃…君が僕を待ってくれていたように…今度は僕が君を待つ……焦らず…来てくれ…」
「……っ…はい……」
呼吸がどんどん小さくなり、瞼が開かれる時間も短くなってきた。
「………………リリーチェ……キスを……」
手を握ったままそっと唇を重ねると、アルバートは幸せそうに微笑んだ。
「愛してる」
小さく…けれどハッキリとそう告げたアルバートは静かに旅立っていく。
「私も愛してるわ」
その後、気丈に振舞っていたリリーチェであったが夫を失った心を癒すことは叶わず、日に日に衰弱してアルバートを看取って僅か半年後、追いかけるようにして旅立ってしまった。
「アルバート!!」
「リリーチェ…早くない?」
「だって…会いたかったの……」
アルバートがリリーチェの頬を伝う涙を指先で拭えば、嬉しそうに笑って抱き着いてきた。
「大好きよ、アルバート」
「僕も愛してる」
若い頃の姿となっていた2人は手を繋いでスゥ…っとその姿を消した。
結婚してから10年。
変わらない愛を日々囁き合う若い夫婦の間には、5人の子供が誕生した。
男児が3人続き、次いで生まれたのは女児…しかも双子であり、両家の歴史上初めての事に領地をあげてのお祭り騒ぎとなったのも記憶に新しい。
そして彼女達は一卵性の双子。
リリーチェの幼い頃に瓜二つだった。
周囲の溺愛は凄まじく、特に今は隠居したメルロー前侯爵はメロメロどころかデロデロ。
「おじいちゃま。アリー、ほしいものがあるの」
幼きリリーチェそっくりの顔でねだられれば、金に糸目をつけずに買い与える。
「おじいちゃま。ユリー、いきたいところがあるの」
そうねだられれば、何処へでも連れていく。
アリーシャとユリーシャの2人は、祖父メルロー前侯爵は自分達に激甘だと理解していた。
この時、若干3歳である。
「お父様、少し甘過ぎですわ」
今日も今日とて公爵家を訪れ、膝に2人を乗せてご満悦の父親に抗議するリリーチェ。
アルバートが公爵を継いだので、現在は公爵夫人となり社交界で中心的な存在となっていた。
「……だって…リリーの小さい頃にそっくりなんだもん」
「だもん…じゃありません!!」
「ママ、おじいちゃまをせめないで」
「ママ、おこっちゃいや」
幼き孫に庇われ慰められて、しゅんとしていた前侯爵はみるみる元気になって遊び始める。
「おじいちゃま、これをよんで」
「おじいちゃま、これもよんで」
「よいよい、なんでも読んでやろう」
祖父を手玉にとって無邪気にはしゃぐ2人は、歴史ある公爵家の令嬢。
家族の前では気を許して自由に振舞っているが、対外的な場では静かで大人しく、子供らしい拙さはあるもののマナーや礼儀作法もなっている。
兄達に言わせれば「猫被り」だが、人を攻撃したり傷付けるような物言いは決してしない。
ただ…4歳らしからぬ辛辣な物言いをする時はまれにあり、嫌味の言い回しは伯父である現侯爵の影響だとリリーチェは思っていた。
「わたし、おうじさまとけっこんしたいわ」
「わたしはきしさまとけっこんする」
絵本の登場人物に憧れる小さな乙女達の何気ない言葉…だと思われたものが、まさか時を経て現実になるとはまだ誰も知らない。
「アリー!!ユリー!!嫁になんぞ行かんでいい!!」
小さな孫達をぎゅっと抱き締めながらそう叫ぶ様子に、リリーチェはやれやれとお腹を撫でながらソファーに腰掛ける。
「体調はどうだ?辛いことはないか?」
「大丈夫。もう6度目の妊娠だし、妊婦生活も慣れたものですわ」
「今度も双子…だったりして」
「それはないと思うけど…どうかしら?」
臨月の膨らみ具合からして恐らくひとりしか入っていないだろう…とリリーチェは思っている。
「そういえばお母様はいつ頃お帰りになるの?」
前侯爵夫人である母親は、末息子の留学先に友人と遊びに行っており、こうして父親が遊びに来るのも放置されている寂しさゆえ。
本来なら共に行くはずだったが、外交の場にどうしても同席して欲しいと先方から要請され、泣く泣く…いや号泣して諦めた。
「リリー!!生まれてはいないか!?」
扉を粉砕する勢いでバンッ!!と現れたのは、リリーチェの夫であり現公爵、近衛騎士団副団長を務めるアルバート。
ツカツカと早足でリリーチェの元に来ると、まずはただいまのキスをして腹を撫でる。
「あぁ、よかった…間に合わなかったら今度の鍛錬でぶち殺すところだった」
「言葉が悪いわよ、あなた」
「すまない…しかし妻の出産に立ち会えないなど許されることではない」
普通は立ち会わないのよ?とは言わないが、どこまでも妻至上主義である夫の愛に心は温まる。
「お邪魔しているよ、アルバート」
「おや、いらしてたんですね。今夜も夕食を食べて行かれますか?なかなか美味いウィスキーを手に入れたんです」
「いいねぇ。頂くよ」
2人の会話にリリーチェは使用人に「いつもの部屋を用意しておいて」と指示をした。
食後にウィスキーを楽しんだ日は、2人して妻の惚気話に花を咲かせすぎてしまう為、お開きになる頃にはかなり遅い時間となる。
お隣さんとはいえそれなりの距離もあり、足元もおぼつかないようでは心配になってしまう。
なので前侯爵には泊まってもらう…というのが、前侯爵夫人不在中に始まった決まりであった。
その後、リリーチェは男児を出産。
双子の姉にそれはそれは可愛がられるのだが、やがて美女双生児と名を馳せる姉を間近で見て育った四男は、かなりの面食いとなる。
更にそれから1年後に第7子の男児を出産。
更に更に10年後、もう子は出来ないと思っていた夫婦の元に最後の子となる命がやって来た。
「やっぱり私の娘だわ」
そう言って誇らしげに微笑んだのはリリーチェの母親で、自身も9人の子持ち。
リリーチェ38歳、アルバート45歳。
長男は21歳となっており、件の双子は15歳でデビュタントを迎える。
母親としてその準備に忙しなく動いていた最中にやって来た陣痛の波。
「アルバートに連絡して。少し早いけどもう生まれそうだわ」
タウンハウスである事が幸いし、アルバートは無事に立ち会うことが出来た。
「おめでとうございます。可愛らしいお嬢様でいらっしゃいますよ」
産婆によって取り上げられた第8子は、アルバートと同じ色味を持つ娘だった。
10年振りに生まれた子である。
上の兄姉達からは溺愛され、娘が自分に激似だと言われる事に愉悦を覚えたアルバートは何処に行くにも連れて歩き、自慢して回った。
近衛騎士団長を務める父親に連れ回され、常に周りに騎士がいる事が当たり前だったせいか、遊び道具は模擬剣で遊び相手は騎士。
王立学園に入ると騎士科へ進み、18歳で卒業するとそうする事が当たり前のように騎士団に入り、のちに大陸中に名を馳せる女性騎士となるとは誰も思わない。
𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸
70を超えてから病に伏せるようになっていたアルバートが86歳となった時、リリーチェは今夜が峠だと医師に告げられた。
子供達も同席してその言葉を聞いたが、最期の時間は夫婦2人きりにしようと席を立った。
「……………リリー………」
「ここにいますよ」
互いに皺だらけの手を優しく握り、瞳が白く濁って見えていないであろう夫の為に顔を近付けた。
折角だからと頬にキスをすれば、不安そうにしていたアルバートはふっと笑みを浮かべる。
「リリー………ありがとう……」
夫が何に感謝しているのか、全て言われずともリリーチェは理解した。
「約束したでしょう?私は決してあなたを置いては逝かないと。そして大家族をプレゼントするとも誓ったわ。出来た奥さんだったでしょ?」
「あぁ………君は素晴らしい…妻だった……」
細く弱々しい呼吸を繰り返しながら、今日のアルバートはよく喋る。
まるで最期の別れが迫っているようで、リリーチェは静かに涙を流した。
「……泣かないでくれ……もう涙を拭えない…」
「っ…泣いてないわ」
「…そうか…」
優しく困ったような笑みに、リリーチェは抑えきれない嗚咽を漏らしてしまう。
「リリー……君を置いていくのが辛い…」
「大丈夫ですわ…っ、私も…そう長くはありません。待たせることなく会いに行きます」
「…僕はひどい夫だ…それを喜ぶのは君の死を望む事になるというのに……嬉しく思ってしまう」
「私は…あなたのいない世界を生きたことがありません……生まれた時から…私の傍にはあなたがいてくれたんですもの」
79年間、リリーチェは常にアルバートの愛に包まれ生きてきた。
だから怖い。
アルバートがいなくなった世界をどう感じるのか分からず、怯えている。
「…あの頃…君が僕を待ってくれていたように…今度は僕が君を待つ……焦らず…来てくれ…」
「……っ…はい……」
呼吸がどんどん小さくなり、瞼が開かれる時間も短くなってきた。
「………………リリーチェ……キスを……」
手を握ったままそっと唇を重ねると、アルバートは幸せそうに微笑んだ。
「愛してる」
小さく…けれどハッキリとそう告げたアルバートは静かに旅立っていく。
「私も愛してるわ」
その後、気丈に振舞っていたリリーチェであったが夫を失った心を癒すことは叶わず、日に日に衰弱してアルバートを看取って僅か半年後、追いかけるようにして旅立ってしまった。
「アルバート!!」
「リリーチェ…早くない?」
「だって…会いたかったの……」
アルバートがリリーチェの頬を伝う涙を指先で拭えば、嬉しそうに笑って抱き着いてきた。
「大好きよ、アルバート」
「僕も愛してる」
若い頃の姿となっていた2人は手を繋いでスゥ…っとその姿を消した。
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